モラハラと愛のあいだ

「ブス」「デブ」と言われても、モラハラ夫と離婚したくない【モラハラ01】

最近、「モラハラ」という言葉をよく耳にするようになりました。具体的にどんなことをされたり、言われたりするのか、根底には何か深い問題があるのでしょうか? 望ましい解決法とは? これから数回にわたって、専門家への相談も含めこのテーマについて考えていきます。初回は、実際に夫との関係に悩めるライターM。「モラハラされているけど、夫と別れられない…」、そんな胸の内を明かします。

 「はい、これ。今月お金厳しいって言ってたでしょ?」
 私は、封筒に入れた10万円を差し出した。
 「え、また借りが増えるじゃん」
 夫は、気まずそうに言った。
 「いいよ。5年後10年後に、10,000倍になって返ってくると思ってるし」
 私は、ちょっとかっこつけて言った。

 そのお金を受け取った彼は、重要な取引先との会食に出かけて行った。土曜日の夜。

女友だちを震撼させる、モラハラ夫

 私の夫は、会社を経営している。とんでもないプレッシャーの中で毎日戦っているせいか、外面は異様によい反面、家では気性が荒い。そんな夫を支えるために、私は、フルタイムの仕事を辞め、フリーランスで働くようになった。夫のために、家にいる時間を増やしてサポートしたかったからだ。

 でも、私の思いとは裏腹に、モラハラは止まらない。

 夫の話をすると、女友だちの反応は大きく2つに分かれる。
 ドン引き or 激怒。

 記念日はすべてスルー、入籍1年以上経っても結婚式はなし、家にお金は入れない。「ブス」「デブ」「料理がまずい」「家事のセンスがない」などの発言は日常茶飯事。
 モラハラエピソードは山ほどもあるが、私は1カ月間、家を追い出されていたことがある。

 ささいなことでケンカになり、思い出すだけで涙が出てきそうな罵詈雑言と一緒に、「仕事の邪魔だから、1カ月帰ってくるな!」と家を閉め出された。
 取るものも取りあえずどうにか逃げ出し、1カ月間、友だちの家を転々としたのである。

 ある友だちは、「何その男!! 信じられない」と激怒し、別の友だちは、控えめな感じで
「え、なんでその人と結婚したの……? 大丈夫……?」とドン引きした。
「本当にツラくなったら、ここに相談するのもいいよ」と東京都が運営するモラハラ相談窓口のパンフレットをくれた子もいた。

モラハラ夫が急に見せた優しさ

 そんな夫が、最近妙に優しくなった。

 冒頭の土曜日、会食から帰ってきた夫は、「仕事できないヤツだと思ってたけど、フリーで自分の腕で仕事とってくるのは偉い」と、急に私のことを褒めたのだ。
 今まで、言葉の暴力を浴び続けてきた私。その褒め言葉を聞いた瞬間は、喜びとも不安とも悲しみとも恐れとも悔しさとも、なんとも言い表せない気持ちで嗚咽が止まらなかった。

 でも、何となく、”女の勘”が発動した。手渡した10万円を持って会食に出かけた夫。唐突な褒め言葉。翌朝私は、自らの好奇心でその真相を明かしてしまうことになった。

土曜の夜の会食の真相は

 急な優しさに不安を抱いた私は、いけないと思いつつ、明け方帰ってきた夫のLINEを翌朝、覗いてしまった。

 一番上にあったトークルームは女の子相手のもの。開いてみると、ツーショット写真と、明らかにわかる男女のやり取りがあった。

 それを見て、少し安心した自分がいたことに驚いた。
 「はあ。これでやっと離婚できる……」

 と同時に、カッと頭に血が上ったのも事実。その勢いで彼の母親に泣きながら電話し、そして彼を問い詰めた。さあ、いつ家を出ていこうという話になるはずだった。

モラハラ夫の理論「自由恋愛にしたい」

 でも、私はモラハラ夫にうやむやにされてしまった。
 「もう自由恋愛にしたらいい。新しく好きな人ができたら、その人と結婚しなよ。それまではウチにいればいいじゃん。そのかわり、僕も他の女の子と遊ぶから」
臆することなく、夫は言った。同時に、いつもなら絶対言わないような言葉も。
 「ありがとうとは、思っているし、今まで申し訳なかったとも思っている。もう、モラハラみたいなことはしない」

 時を同じくして、私の実家からタイミング悪く「結婚式はいつするのか」と連絡が来た。それに対して彼は愛想よく返事をしているのだ。

 この人の考えていること、さっぱりわからない……。長年付き合ってきたから情があるのか、身のまわりを世話してくれる人がほしいのか、それとも単なる”でき心”で結婚したのか。彼にとって私は、何なのか。

それでも私は、モラハラ夫が好き…?

 でも、私は彼と離婚したいとは思わない。
 私はそんな夫のことが好きなのだ。多分。
 ……好きなのか?
 とにかく、離れたいとは思わない。

 彼はとても野心家で、努力も怠らない。私にとっては尊敬できる存在だ。だから、厳しいことを言われても、ツライどころか、「私、頑張る」とドM的快楽を得ているところがある。
 彼がいたから、今私は独立して仕事を取れているのは事実だ。

 でも、そのステップと引き換えに、私の精神はズタボロに傷つけられている。
 ミュージシャンがドラック中毒になって、自ら健康を害してまでいい音楽を作りたいと思うのと似ているかもしれない。モラハラ夫の刺激が、私の心の傷と引き換えに、大きな成長を与えてくれるというストーリー。
 いい作品ができるのが先か、身体が壊れるのが先か。
 私が自分の成長に納得するのが先か、心がぶっ壊れるのが先か。

わかっているのに、離れられない

 論理的に考えれば、離婚した方がいいに決まっている。
 でも、”気持ち”は、簡単に割り切れない。
 そして私は、今日も彼の帰りを待っている。

続きの記事<モルヒネを打つのを止めて、「モラハラ」という痛みと向き合う>はこちら

  • ※これから、本特集「モラハラと愛のあいだ。」では、こんな状況でも夫から離れられない筆者に対して、いろんな方々からのアドバイスを掲載していきます。
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未婚、既婚、子どもの有無、転職や独立の経験者。恋好き、旅好き、おいしいもの好き(缶チューハイ含む)。さまざまなstoryを持つ「telling,」編集部メンバー。
モラハラと愛のあいだ。