まじめな人ほどブラック企業やモラハラから逃げない3つの理由【モラハラ06】
●モラハラと愛のあいだ05-2
前回は、「モラハラ夫の刺激が、私の心の傷と引き換えに、大きな成長を与えてくれるというストーリー」という言葉に注目しました。Mさんが信じようとしている「夫のモラハラによって圧倒的成長」というストーリーは、「ブラック企業で圧倒的成長★」神話を信じて目をうつろにしながら滅私奉公する社畜パーソンと似ています。
ブラック企業の社畜パーソンやモラハラ被害者が逃げられない理由
では、なぜブラック企業の社畜パーソンおよびモラハラ被害者は、つらい現状から逃げようとしないのでしょうか?
理由は3つ。
1 「自分のメリットになる」と自分を洗脳しないと、つらすぎてやってられないから
2 「いやなことでも粘り強く我慢する」ことで褒められてきた成功体験があるから
3 自分で判断して、与えられたタスクを断ることが苦手だから
まず、ででーんとそびえ立っているのが「現実がつらくてやってられん」という大前提です。ここがすべての始まりです。
理由1:自分を洗脳しないと、つらすぎる
人間は、現実がつらすぎると、生き延びるために痛覚をにぶらせる生き物です。「つらい現実 is つらい」とそのまんま受けとめると心身がパニックを起こして激痛でぶっ倒れるので、「つらい現実 is すばらしい」と、ディストピア小説のように、現状認識を歪めてキラキラ麻酔をぶっこむことでサバイブしようとします。実際、このキラキラ麻酔はかなり有効で、本来ならとっくに逃げていたりぶっ倒れていなければならないレベルでも「私、がんばれる」と立てる効果があります。
理由2:粘り強く我慢することで褒められてきた
「つらいことで成長できる」と考えて現状維持する人は、「つらく嫌なことでも粘り強く我慢することで認められ、報われてきた」成功体験があることが多いです。例えば学生時代は、与えられた勉強タスクを大量にこなし、つらくても粘り強く我慢することで「成績」という評価を受けるシステムです。社会人になっても、昇進に必要なタスクやルートがしっかり決まっている企業の場合、「言われたことを粘り強くがんばる」ことで、認められていきます。そのため、粘り強く我慢強い人は、一般的に「優秀だ」と周囲から褒められてきていることが多いです。
理由3:与えられたタスクを断るのが苦手
さらに、「求められたらがんばって成果を出してきた」タイプの優秀な人は、断ることが苦手な傾向があります。彼らは、「楽しいかつらいか」という自分の感情よりも「求められているかどうか」という他者の要求を優先して判断します。そのため、つらい現実に直面した時、「つらいから逃げる」よりも「つらいけどがんばる」を選びがち。
理由は2つ。ひとつは、「つらいけど、ご褒美に報われる」という希望があるし、実際に成功してきたからです。もうひとつは「自分で判断してノーを言うことが苦手」だから。人から求められることなら楽しかろうがつらかろうがこなせてしまうと、「皆はやれっていうけど、私はいやだ」と自分で判断して選ぶ機会がどうしても減ります。「人の期待に応える」ことはプロでも「自分で判断して選ぶ」ことについては初心者、とも言えるでしょう。初心者が「あまりやったことがないことに挑戦して失敗するぐらいなら、これまでやってきて成功してきたことを続けよう」と考えるのは、ごく自然なことです。
以上3つの理由により、優秀で真面目な人ほど、「つらみによって成長するから!だからがんばる!」とブラック環境にとどまります。
キラキラ麻酔の大量投与がなぜ問題なのか
ここで、Mさんは疑問に思ったかもしれません。「本当に成長しているかもしれないし、現状維持できているなら、別にいいのでは?」。では次に、なぜ「成長」を期待してキラキラ麻酔を大量投与することが問題なのかを考察します。
まず、これまで「与えられたタスクをがまんしていれば成功する」という期待が叶ってきたのは、タスクを与える側が「成長」を前提にしてコースを組んでいるからです。学校の勉強は「点数」という基準とカリキュラムがあります。会社の出世コースも、業務に必要なタスクを経験してもらうという意図があります。ですが、ブラック企業やモラ夫の場合は、決してそんなことはないでしょう。
彼はMさんを成長に導くことを考えて、ブスデブと言ってくるのでしょうか?違いますよね。ただの憂さ晴らし、自分がうまくいかないストレスの八つ当たりです。Mさんのことなどなにも考えているわけがありません。
もちろん、どんなひどい状況でも「成長」の種を見つけるサバイバーはいます。しかし、ひどい状況では当然、多くのダメージや犠牲も食らっています。危機を脱出したサバイバーは「あのひどい環境が自分を成長させた」と語りますが、これは典型的な生存バイアスで、つらい記憶を自己肯定しないとやってられないからです。ダメージをきちんと認識している人ほど「1の成長、9のダメージを負った。他の人が同じことをやる必要はぜんぜんない」と語ります。キラキラ麻酔もりもりの成功譚をベースに「ひどい状況で成長した人がいる」と期待することはリスキーです。
このように、タスクを与えてくる側が相手のことをまるで考えず極めて自己中心的な場合、当然のことながら、期待していたような「成功・評価」はありません。ですが、耐えることに慣れすぎてしまうと、「もっと期待に応えれば認めてくれるかも」「成長できるかも」と期待して、さらに「続ける」ことを選択しがち。
ですが状況は悪化するだけなので、ダメージがどんどん蓄積して、麻酔が効かなくなるところまできます。具体的には、朝に起きられなくなる、涙が出てきてとまらなくなる、ストレス源に近づけなくなる、といった、心身がコントロールできなくなる状態です。ここまでくると仕事にならないので、いいかげん「ストレスによって成長」神話は崩れます。しかし、このレベルにまで達してしまうと、通常は専門家の助けを借り、長い時間をかけないと回復できなくなります。
次回は、Mさんが抱える課題をまとめ、今後どうすればいいかについて提案します。
続きの記事<モラハラ夫の暴言の中に「成長の糧」はない>はこちら
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●ぱぷりこさん 恋愛ブログ『妖怪男ウォッチ』を書いている外資OL。恋愛市場にひそむ「妖怪男女」の見分け方を書いている。趣味は恋愛文化人類学、PDCAサイクル、お焚き上げ。
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