モルヒネを打つのを止めて、「モラハラ」という痛みと向き合う【モラハラ02】
●モラハラと愛のあいだ②
ライターMさんの手記を読んで「モルヒネ連続投与」という言葉が浮かんだ。
あまりに強い痛みを和らげるため、モルヒネを打つ。
モルヒネが切れると痛みに耐えられないので、打ち続ける。
そのうちボーッとしてきて、自分の心の声が聞こえなくなってしまう。
以前、『だめんずにハマる女子は長所につけこまれる』という趣旨のコラムを書いた。
これまで多くのだめんずにハマった女子、モラ山ハラ夫やサイコ田パス太郎と付き合い、ボロボロに傷ついた女子たちの話を聞いてきた。
モラハラ被害者は「我慢強さ」に秀でている
彼女らは男に自尊心を削られ、周りから「なんでそんな男を選んだの?」と責められ、「こんな自分はダメだ」と自信を失っている。
でも本人たちはダメどころか、メッチャいい子なのだ。
人一倍良心のあるいい子だから、相手にも良心があると信じてしまう。自分が人を傷つけたりしないから、理不尽に傷つけられるとびっくりして「自分が悪かったの?」と思ってしまう。
世の中には平気で人を傷つけて、平気で利用して搾取する、良心のない人間もいる。そんな「吐き気を催す邪悪」の恰好の餌食になるのが、いい子たちなのだ。
彼女らにはたくさんの長所があるが、その中でも「我慢強さ」に秀でている。日本では「忍耐」や「努力」が美徳とされるが、恋愛ではマイナスに働くことが多い。
私のように我慢できないタイプは「底つき」が早い。だめんずにハマっても「もう限界!」と短期間で浮上できる。一方、忍耐や努力が得意なタイプはとことんまで耐えてしまう。ブラック企業で壊れるまで働いてしまうように。
これまで会ってきた「モラ夫と別れられない」と悩む女子たちは皆「私が暴君だったら、奴隷に即採用するよな」という我慢強いタイプだった。
我慢できない痛みをごまかすための「モルヒネ」
我慢強くても痛いものは痛いので、痛みを和らげるためにモルヒネを打つ。
ライターMさんの手記にある「愛・情・尊敬・成長・感謝・ドM的快楽」といった言葉もモルヒネだろう。
Mさんは『この人の考えていること、さっぱりわからない…』と書いているが、本当はわかってるけど認めたくないのだろう。現実を認めるのは痛いから。
夫が彼女と離婚しないのは、都合がいいからだ。「家計を支えて家事もしてくれる妻がいて浮気もOK」なんて、こんな好条件はない。
モラ夫は自分の損得しか考えないし、自分が得するためには、感謝や謝罪の言葉をすらすら並べる。
『彼にとって私は、何なのか』の答えは「利用して搾取する対象」である。
とズケズケ書きながら、私だって胸が痛い。今からそいつをこれからそいつを屠(ほふ)りに行こうかという気持ちでいっぱいだ。
一度は好きになって結婚した彼女にとっては、あまりに痛すぎて受け入れがたい答えだろう。
それでもいったん、モルヒネを打つのを止めてみよう。現実の痛みを痛みとして認識しよう。
じゃないと「痛みの原因である病巣(=夫)を切り離そう」と決心がつかないから。
モルヒネを打ちまくっても、幸せにはなれない
どんな夫婦でもぶつかることはある。そのたびに話し合い、歩み寄りながら、対等で健全な関係を築いていく。
だが自分はそれを望んでいても、相手が望んでない場合。相手は思い通りになる支配関係、暴君と奴隷の関係を望んでいるなら、どうしようもない。はなから求めるものが違うのだから、努力のしようがない。
真面目な頑張りやさんは「自分が努力すれば彼は変わってくれる」と期待する。だが人間は本人が本気で変わりたいと思わない限り、変わらない。
だからモラ夫は絶対に変わらない。口では上手いこと言うけど、本心では「自分は悪くない、自分の言う通りにしない妻が悪い」と思っているから。
そのことはMさん自身が身をもって知っているだろう。
それでも自分が選んだ男がクソだと認めるのは痛いし、費やした年月を否定するのも痛いし、幸せになるはずだった未来予想図を破棄するのも痛い。
だから「それでも私は夫が好き」とモルヒネをブッスブス打ちまくる。
しかしこの手記を執筆&発表した時点で、モルヒネがだんだん効かなくなっていることに、気づいているんじゃないか。
『はあ。これでやっと離婚できる……』
これは「やっとモルヒネ地獄から解放される」という本音だと思う。
いったんモルヒネを打つのを止めて、自分の心の声に耳をすませてほしい。
モラ夫がいなくても、あなたは成長できる
さて、実は私はMさんと面識がある。私の読者だった彼女が連絡をくれて、他媒体で仕事をしたことがある。
その半年後、彼女から『夫に家を追い出されて、京都の禅寺で修行してます』とメールがきた。意味不明な冗談かと思ったら、ガチだった。
友達の家を転々とした末に、京都の禅寺で10日ほど修行に励んだらしい。私なら南の島で豪遊プラン(夫を殺した保険金で)を選ぶが、禅寺プランを選ぶところにも、奴隷の適性を感じた。
京都の禅寺帰りに、大阪で会って酒を飲みながら5時間ほど話した。やっぱり彼女もメッチャいい子だった。
かつ、意欲のあるとても優秀な編集者・ライターだった。
夫にダメ出しなんかされなくても、彼女は自分でちゃんと成長している。むしろ夫という鎖から解き放たれ、痛みの根源がなくなれば、もっと自由にのびのびと活躍できるはずだ。
「モラ夫に振り回されず、日々怯えることなく、自由に身軽に生きる自分」を想像してみてほしい。
現実の痛みに向き合うこと。痛みを痛みとして感じること。それはハードな作業だし「現状で我慢してる方が楽だ」と思うかもしれない。
だがモラ夫は不治の病ではなく、切り離すことで新しい人生を生きられる。傷や痛みも時間と共に癒えていく。
Mさんよ、モルヒネを止めて「ヤベえ、痛くて死にそう」という時は、連絡をください。禅寺には付き合えないけど、飲みならナンボでも付き合うから。
続きの記事<尽くす女こそ、凛と背筋を伸ばすべし!真面目で優しい女性へのアドバイス>はこちら!
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- アルテイシアの推薦図書
「モラル・ハラスメント」のすべて 夫の支配から逃れるための実践ガイド (講談社) 著者:本田りえ 露木肇子 熊谷早智子
『良心をもたない人たち』(草思社) 著者:マーサ・スタウト
●アルテイシアさん
作家。神戸在住。著書『59番目のプロポーズ』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』他、多数。AMや幻冬舎plusで連載中。
ツイッター @artesia59
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- ※これから、本特集「モラハラと愛のあいだ。」では、こんな状況でも夫から離れられない筆者に対して、いろんな方々からのアドバイスを掲載していきます。
「この方の意見を聞きたい!」というご要望も大歓迎です。 - 同じように悩んだ経験がある方、モラハラに悩む友人にアドバイスした経験がある方、ぜひ「#モラ愛」でTwitter/Instagram/Facebookで投稿してみてください。
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