本という贅沢152『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』

さとゆみ#152 圧倒的絶望から、圧倒的希望へ。『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』で語られる新しい地球の歩き方

隔週水曜にお送りするコラム「本という贅沢」。昨年に続き2021年もコロナに振り回されました。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが、2022年を迎えるにあたり、「触れて良かった」という1冊を紹介します。
さとゆみ#151 いつだって、問いは最高のプレゼントだね。2022年はこれで始める『Q&A Diary』

●本という贅沢151
『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』 (廣田周作/クロスメディア・パブリッシング)

2021年の始まりに、このtelling,でどんな本を読んでいたかな? と振り返ったら、山口周さんの『ビジネスの未来』だった。

この本を読んで私は、「いま、私たちがやっている仕事、本当に意味がある?」「これ以上、世の中に本や記事を出す必要ある?」って、一度、ずーんとなった。

1年前のこのコラムで私は、

コロナによって、私たちが、鬱っぽくなったり、そこまでいかないにしても言いようのない不安を感じたりしたのって、 病気が怖いとか、人と会えなくて寂しいってことだけじゃなくて 無意識的に、私たちがこれまで必死に生産しようとしてきたモノって、じつはあっても無くてもいいモノだったんじゃない? っていう、 究極の「働いている(生きている)意味の喪失」に直面したからじゃないかなって、思ってました。 とくに、働くことが大好きで、それが生きることと直結していた人ほど、しんどい思いをしていた気がする。

と書いた。
山口周さんの『ビジネスの未来』から始まった2021年は、ある種、一度きちんと絶望することからスタートした年だったように思う。

それから約一年。
この一年は、自分に一体何ができるのか、きょろきょろ周りを見渡しながらゆっくり走ってきた。それまで疑問を持たずに進めてきた仕事や自分の生き方を、ひとつひとつ点検するような気持ちで、のろのろ動いてきた。
そんなモラトリアム期間を経て強く湧いてきたのは、やっぱり何かを生み出すことを諦めたくない、という気持ちだ。

やみくもに何かを生産することが是ではないことは、わかった。
強さが脆く、正しさが脆いことも、よくわかった。

その上で、またもう一回、働くことや生み出すこととどっぷり関わっていきたいな。そんな気持ちがもう、あとちょっとで爆発するってところまで、きている。
そんな2021年の年末に。

この本、読みました。
『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』

世界じゅうの「ものを作り、売る人たち」が、何を見て、何を考えているのかを、たくさんの事例とともに紹介してくれている本です。
マーケター向けの本なのだけれど、マーケターのための本というよりは、今の時代をよりよく歩きたい(走りたい)人のための「地球の歩き方」みたいな本だったなと思う。

たとえば私は、2022年、めちゃくちゃ走りたいと思っているけれど、いま自分が走ろうとしている世界が、どんな形をしていて、どんな色を帯びているのか。それを教えてくれる本だなって思った。

こういう事例がたくさんある本って、いくら網羅性があっても、あまり自分に役立たないことが多いと思う。

でもこの本は、多分に廣田さん(著者さん)の主観で、恣意的に選ばれている事例が並ぶところが、とてもいい。(時々廣田さんがイラッとしている文章があるのも、すごくいい)
では、どんな主観に基づいて選ばれているかというと、ひとことで言うと「ホープパンク」である。

ホープパンク。

いろんな問題が顕在化している現代において、一番反抗的な態度は「圧倒的な希望を持つ」ことだ、という意味だそう。
この本では、いろんな「ホープパンク」が紹介されているが、なにより、廣田さんのこの本自体が、「ホープパンク」だ。

年々ヘトヘトになる日本のマーケターに、それでも前を向いていきましょうよ、希望的なものもありますよね、と伝えたい廣田さんが選んでいる事例だから。
その希望の点と希望の点を結んで描いている「こうであってほしい地球の姿」だから、うん、同じ歩くならこんな地球を歩きたいと思う。

私ごとだけど(といっても、このコラムはいつも私ごとだけど)、私は、これからの人生を「綺麗ごとをちゃんとまかり通せる大人」になれるよう、精進したいと本気で思っている。恥ずかしげもなく、綺麗な夢みたいなものを語りたいし、それをまかり通らせる力も知識も欲しい(情熱はある)。

いろんな準備を済ませて突っ込む2022年を前に、廣田さんの「ホープパンク」に触れることができて、本当に良かった。

こういう大人に、私も、なる。

グレーバーに論破されてる場合じゃないですし、
山口周さんに論破されてる場合じゃないですよね(批判してません、念のため)。

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本書には、このコラムでご紹介した本や、記事がいくつか出てきました。

それではまた、来年も、水曜日に。

 

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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

さとゆみ#151 いつだって、問いは最高のプレゼントだね。2022年はこれで始める『Q&A Diary』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。