本という贅沢147『お金のむこうに人がいる』(田内学/ダイヤモンド社)

さとゆみ#147 2021年NO.1!ミステリーを読むような興奮度。なにこれ経済ってこういうことだったの? 『お金のむこうに人がいる』

コラム「本という贅沢」。秋も深まり、冬の便りが届く季節になった聞こえる中で、書籍ライターの佐藤友美さんが今年ナンバーワン(暫定)と評する1冊を取り上げます。経済についての本なのですが、その中身が凄いらしく――。

●本という贅沢147『お金のむこうに人がいる』(田内学/ダイヤモンド社)

我が家には、「困った時の今野良介」という格言がありまして、今野良介さんは、ダイヤモンド社に勤めるaiko好きのわりと変態がかったスキンヘッドの編集者さんです。

これまで担当してきた書籍は、『読みたいことを、書けばいい』『1秒でつかむ』『0メートルの旅』『子どもが幸せになる言葉』『東大卒、農家の右腕になる。』……などなど。最初の3冊はtelling,でも紹介している。

今野さんが編集した本は現在13冊連続重版中らしい。
日本の書籍の重版率は10〜20%の間と言われているから、このヒット率が凄いのは言うまでもないのだけど、そういうことより何より、私は、今野さんが作る本の「性質」みたいなものを、ものすごく信頼している。彼の「こういう本が世の中にあってほしい」という、その判断の軸みたいなところを(もしくは祈りの強度のようなものを)、すごく信じている。

これは、今野さんと1冊書籍をご一緒して、1冊途中で断念したライターとしての経験からの実感だけど、彼の本は決して"なあなあ"では、出ない。出るべくして、出る。出すべくして、出す。覚悟のある本しかない。
だから、彼の判断を経て世に放たれた書籍は、まったく興味のないジャンルだったとしても読むし、そのたびに新しい扉が開く。

なんかベタ惚れしているみたいだけれど、不適切な関係ではありません。

<注:前置きが長くなってしまったので、閑話休題。今日ご紹介する本は、さとゆみが2021年ナンバーワン(暫定)だと思った本です。これ読んでいる人たち全員に読んで欲しいと思った本について書いております。本題に入る前が長くてごめんちゃい>

で、そうそう、困った時の今野良介の話。
私、めっちゃ困っていましてん。というのも、昨日はtelling,の締め切りだったんだけれど、一週間勘違いして原稿の準備ができていなかったんです。それどころか、選書が済んでいなかった。
で、こういうときこそ今野良介なんですが、「あ、今野さんの本で、まだ読んでないの、あった! それでいこう」となりました。それがこの、『お金のむこうに人がいる』です。

ただね、さっそく書店に行ったら、お金のコーナーをどれだけ見ても置いてないんですよ。なんで? 売れてるって噂なのに、と思って店員さんを呼び止めて聞いたら、突然その店員さんが、びっくりするくらいニッコニコになった。で、「ありますよ!」と、この本がぶわ―――――っと面陳されている特設コーナーに連れて行ってくれた。

店員さんは「この本、どこでお知りになったんですか?」と聞いてくる。私は、「あ、えっと、今野さんの知り合いで……」というと、店員さんは大きく2回頷いて「そうなんですね! ものすごくいい本です! めちゃくちゃおすすめです!」と、棚から1冊取り出して渡してくれた。
都内の書店でこんなに店員さんと話したのは初めてだし、ここまで推されている本も、初めてだ。いやでも、期待が高まるじゃないですか。

で、家帰って、早速読み始めたら、ですね。
もう、「はじめに」読んだところで、ヤバイ、オラ、わくわくがとまんねーってなりました。

ふくれにふくれていた期待値、軽々超えてた!
すごい、なにこれ、知らない世界に連れて行ってくれるやつだ! ってなりました(語彙。

ここからは本に書かれていることなんだけれど(やっと本題)、みなさん、「どうして紙幣をコピーしてはいけないか?」という質問に、的確に答えられますか? つい1週間前、4年生の息子に質問されたところだったので、私にとっても、この話はホットだ。

それは、インフレが起こるから。
くらいは、私だって、言える。そこまでのロジックも、かろうじて説明できると思う。

でも、「お金中心」に考えるのではなく「人中心」に考えると、この答えは正解ではないと、著者の田内学さんは言う。紙幣をコピーしちゃいけないのは、「紙幣の価値が薄まる」からではなく、「働く人がいなくなるから」だと言う。

??? と思った人は、是非本を読んでほしい。
ちょっとびっくりするぐらい、世の中の見え方が変わる。私が説明してもいいんだけれど(多分今ならできると思う)、本に書かれている順番で、本に書かれている言葉で知ってもらったほうが絶対わかりやすいし感動するから、本読んで。

この本では、いままで「こういうもんだ」と思っていた経済の常識が、オセロがパタパタひっくりかえるように、どんどんひっくり返っていくんですよね。

たとえば、貿易黒字が大きくてもなぜ豊かになれないのかとか
ほんとうに、老後のために資金を貯めるのが正解なのかとか

いままで世の中のお金の流れについてうっすら感じていた違和感が、明確に言語化されてまな板にのり、これでもかというくらいわかりやすいたとえ話を聞いているうちに、次々と解消されていく。経済ナニソレおいしいの? な人(私だ)でも大丈夫。このたとえ話がジャイアンの話とかだから、全員ついていける。

でね、この次々と謎が解かれていくこの感じ、何かに似てると思ったら、ミステリー小説を読んでいる興奮に近いんだ。探偵には、私たちが見えていないトリックが、見えている。次々と鮮やかに解が導き出される。

で、私が一番エキサイトしたのは、第10話。
「借金しまくって潰れる国があるのに、どうして国債発行しまくりの日本は潰れないのか」という話。

「日本国債が紙クズ同然になることはあるのか?」
これは、著者の田内さんが勤めていたゴールドマンサックスでも、多くの人が議論してきた難解なアジェンダだったという。
そこで田内さんが導き出した答えがもう、鳥肌なんていうものじゃなかった。

ギリシャと日本、何が違ったのか。
その答えは、お金の流れだけを見ているだけではわからない。
「お金のむこうにいる人」を見なくてはわからない。
くうううう。タイトルから始まって、タイトルに終わる。全部伏線が回収されている。

ってな感じで、一事が万事、どっきどきのミステリーだったので、みなさまにも是非この興奮を味わっていただけますように。
今年ももうすぐ終わろうとしているけれど、さとゆみ的、2021年イチオシ(暫定)の本でした!

それではまた、今度は、水曜日に(岩田さんごめんなさい。次は締め切り、忘れません!)。

 

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年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。