本という贅沢145『「最初の男」になりたがる男、「最後の女」になりたがる女』

さとゆみ#145 差し出せる「初めて」が目減りしてからが、女は勝負だよね。『「最初の男」になりたがる男、「最後の女」になりたがる女』

隔週水曜日にお送りするコラム「本という贅沢」。今回取り上げるのは男性、女性それぞれの心理を扱った1冊。“手引書”としてぜひ、という書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#143 少なく豊かにモテながら生きる。今めちゃくちゃ気になる『移住女子』

 ●本という贅沢145『「最初の男」になりたがる男、「最後の女」になりたがる女 夜の世界で学ぶ男と女の新・心理大全』(関口美奈子/KADOKAWA)

 

むやみやたらとモテる芸能人の友人がいる。
そりゃ芸能人なので可愛いし、脱ぐお仕事もするから体も綺麗なのだけれど、そういうことだけではない、また全然違った感じのモテ方をする人なのです。言うなれば、相手を底無しの沼に落とすタイプのモテ女である。

で、あれはまだ私が30代前半、彼女が20代半ばの頃だったと思うけれど、何かの拍子に彼女から「私、処女かもしれない可能性は、常に残しておいてる」という話を聞いて、こやつ本気のツワモノだなと思った。

つまり、こんなにモテているし、彼氏も途切れていないだろうから、バージンってことは絶対ないだろうけれど、でもひょっとしたらひょっとする? 意外と純だったりする? と相手の男性に思わせる余地を残しているそうなのだ。

彼女いわく、
「子どもを産んでなければ、処女である可能性はゼロではない」
だから、仲間内でどんなにくだけた話をしても、グラビアで脱いでも、自身の過去の性的な話は絶対にしないらしい。

まあ、究極的にモテる女って、こういうところだよなって思う。
「あなたが初めて、です」みたいなことを、なんというか、スーパーナチュラルにやっちゃうんだよな。
だいたい、普通の男ならあっさり撃ち抜かれて、年齢問わず、ずぶっと彼女に沼る。
自分の夫や彼氏の周りには、配置してほしくないタイプの女だ。

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話は変わって、こちらは古い男友達の話。
すごく仕事ができて、お金持ちで、それこそ、モデルやタレントからもひっきりなしにアプローチされているイケメンである。
私はある時期、仕事で長期間彼と一緒になることがあって、必然、ご飯を食べたり飲みに行ったりすることが多かったのだけれど、彼からは女遊びの匂いが全然しなかった。

一度、酔っぱらったときにイキオイで、
「なんで、そこまでモテるのに、遊ばないの?」
と聞いたことがあって、
「んー。なんだろう、俺、初めての子がいいんだよね」
と言っていて、あー、ブルータスお前もか! ってなった。

彼いわく、彼女になる女の子に、「前の男と比べられるのが嫌」なんだそう。
だから、初めての子がいい。征服欲なのかなあ、それとも、結局、自分に自信がないだけなのかなあなどとおっしゃる。

一緒にご飯にいくと、お店がざわつくレベルのイケメンが、どの面さげて「自信がない」なのかとツッコミたいところだけれど、でもそういうものなのかもしれない。
男の人って、女よりもよっぽど繊細なところがある。

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とまあ、いま書いたような経験は多かれ少なかれ、みんなあるんじゃないかなって思うんだけれど、こういった男女の特徴みたいなものを、総ざらい点検させてくれるのが、この本です。

『「最初の男」になりたがる男、「最後の女」になりたがる女』

書いているのは、銀座のナンバーワンホステスだった方。
こういう本ってたいてい、女性にだけ向けて書かれているものが多いのだけれど、この本の特徴は男性にも女性にもアドバイスされているところ。

男性心理を知ることができて(確認することができて)ふむふむって思うのと同時に、自分の女性的偏向もチェックすることができて、ああ、だから、こういうときに彼(夫)にイラっとするのか私、みたいなところも確認できるところがいい。(今、ハンティング中じゃない人なら、むしろこっちのほうが役に立つ気がする)

こういうこと書くと、ジェンダーバイアス的文脈では怒られちゃうかもしれないけど、でもやっぱり男女の違いってあるよ。
いろんな人にインタビューする仕事だから思うけれど、男女の差より個性のほうが強いとはいえ、それぞれの傾向はやっぱりあるなと感じる。それを知っておくことで、つまらないやきもきが減るなら、それは心の平安にいいなって思う。

ところで、私が今回のこの本で「ふふふ」ってなったのは、
「男の浮気は副業、女の浮気は転職活動」
というフレーズ。

いやこれ、まさに、だよね。
男の「彼女(妻)とはうまくいってない」ほど、信用できない言葉はないし、女の「彼にそんなにハマってるわけじゃない(から、いつでも引き返せる)」ほど、信用できない言葉もない。
言葉を額面通りに受け取ると、いろいろ事故起こるから、やっぱり、こういう手引書は一度読んでおくといいんじゃないかな。

ただ、ひとつ注意すべきポイントがある気がして。
この著者の方のように、何十人・何百人の男性を相手にする仕事だと、統計的傾向ってとても役に立つのだけれど、私を含む多くの女性は、男性全体にモテたいわけではなく、個別具体の誰か一人にモテたいわけで(このあたりも女ですなあ)。
統計の話だから、どんな相手であってもそれなりに打率は上がると思うけれど、まあ個別具体の相手にヒットするかどうかは、相手の性格もあるし、相性もあるよね。

あともうひとつ、考えなきゃいけないこともあって。
表題にあるように、「男は最初の男になりたがる」イキモノだとして、よ。
私はもちろんなのだが、読んでいる皆様方におかれましても、そろそろ差し出せる「初めて」が、あまり多くはなくなってきてるよね。きっと。
ほとんどのことが「初めて」じゃなくなってからが、女は、勝負どころだよなあって最近思うんだよね。

最初に書いた芸能人の女の子は、結婚して2児の母になっています。今でもモテているんだろうか。久しぶりに会って話をしてみたい。
2人目のイケメンは現在も独身ですが、先日久しぶりに会ったら「彼女がいるときに、一度も浮気をしたことがない」って言っておりました。

女も男もいろんな人がいるよね。
当たり前か。

それではまた、水曜日に。

 

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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
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さとゆみ#143 少なく豊かにモテながら生きる。今めちゃくちゃ気になる『移住女子』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。