本という贅沢129 『職業、お金持ち』

さとゆみ#129 みなさん、お金は好きですか? お金持ちになりたいですか? 『職業、お金持ち。』

隔週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。テレビもネットも「コロナ」ばかり。仕方のないことだけど、気分が滅入りがちの今、コロナから離れる時間も必要です。書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが今回紹介するのは、うってつけの本。お金と幸せの関係について、考えてみませんか?

●本という贅沢129 『職業、お金持ち』(冨塚あすか/すばる舎)

私も数年前までは知らなかったのだけれど、この業界には「出版ゼミ」や「著者ゼミ」といった名称のスクールがある。
その名のとおり、本を出したいと思った人の企画をブラッシュアップし、出版にこぎつけるまでをサポートするような講座だ。

私が、この本の著者、あすかさんに出会ったのは、そんな「出版ゼミ」の最終プレゼンの場だった。
著者候補の皆さんが、出版社の編集者さんたちの前で「こんな本を書きたい」とアピールする。

さすがに「本を出したい」という人たちだから、誰もがキャラ立ちしている。でも、そんなキャラ立ちメンバーのなかで、ひときわ異彩を放っていたのが、あすかさんだった。

壇上に立つなり、彼女は可愛らしいアニメ声で、こう聞いた。

「みなさ〜ん。お金は好きですか〜?」

会場からは、笑い声とともに「はーい」なんて声が聞こえる。同じ日にプレゼンをしている仲間たちからの合いの手だ。

彼女は会場を見渡して
「では、みなさ〜ん。お金持ちになりたいですか〜?」
と続ける。
今度は会場からもっと大きな声で「はーい」という返事が戻ってきた。会場のみんなが呼応する。

あすかさんは、そのみんなの反応ににっこり頷いて、「みなさん、こんにちは。あすかです。職業は、お金持ちですっ。うふっ」と、語尾にハートマークをつけて自己紹介した。

いやあ、末席でこの様子を見ていた私は、思いましたね。
あまり、汚い言葉は使いたくないけれど、「うわっ! やべーやつ、きた」って思いました。
いや、これはやばい。

もちろん、こういう場での「やばい」は、最大級の賛辞です。
なんというか、「最終兵器あすか登場」って感があった。
若い、可愛い。そして、ただものではない。

「みなさん、お金、好きなんですよね〜。じゃあ、早く、お金持ちになったほうがいいですよねっ!」

くりっとした大きな目を細めながら、あすかさんは言う。
百戦錬磨の編集者さんたちも、身を乗り出すようにして、彼女の言葉に聞き入っている。
何分間のプレゼンだったかは忘れたけれど、その間、私たちは終始あすかさんの言葉に引き込まれていた。

プレゼン後の審査会では、彼女の本を出したいと、何人もの編集者さんが手を挙げていた。
こうなると、今度は審査員だった編集者側が選ばれる立場になる。このぶっ飛んだ人の本は、どの出版社から出るかな。どんな本になるのだろう。
個人的に、とても楽しみだった。

・・・・・・・

その後、たまたまご縁あって、私はあすかさんと何度かお食事やお酒をご一緒させていただいたのだけれど、
その強烈な第一印象とはうらはらに、とても細やかな気遣いをする、なんというか、すごく「気のいい」人だった。

礼儀正しくて、言葉遣いも綺麗で、周りにいる人たちがみんな笑顔になってしまう。そんな魅力的な女性だった。
ただし、ときどき
「さとゆみさん、その旅程だったら、プライベートジェットが楽でいいですよ」
とか、ぶっ飛んだことは、言う。

不思議と彼女の言葉には、1ミリも嫌味がないし、屈託がない。
彼女といると、「ああ、そうか。プライベートジェットのほうが、時間節約できるんだな」って、素直に思う。
でも、そのお金を出せる自分になるイメージは、まだ、わかない。

あすかさんが言うには、お金持ちになるのに最も大事なのは、「お金持ちになるためのマインドセット」なのだという。

お金持ちでない人は、実は、自分でその道を選んでいる。
と、彼女はいう。

えええ、そんなことないよう。
好き好んでお金がない生活をしているわけじゃないよう。
がっぽり稼ぎたいよう。

そう言うと、あすかさんは
「たとえば、さとゆみさん、楽をしてお金を稼ぐことはずるいことだと思っていませんか?」
と聞いてくる。

ぐ。ぐさ。
そういえば、私は、「お金の話をするのは、はしたない」と言われて育ってきた。
本当はめっちゃ稼ぎたい。めっちゃお金持ちになりたい。
でも、そういう気持ちを表に出すのは、慎み深くないというか、品がないことだって、習ってきた。
たしかに。あすかさんの言う通りかも。
あすかさんいわく、お金に対して心のブロックがあると、お金もその人に寄ってこないんだそう。

なるほど。

私は、最初、彼女に、個別具体的な銘柄をご指南いただけたら、彼女の言う通りに投資するんだけど、なんてことを思ったりしていたんだけれど、なるほど、そういうことではないってことがよくわかった。

私が知らなきゃいけないのは、個別具体的な銘柄ではなく、どうしてお金が欲しいのか。そのお金で何をしたいのか。それを、もっと具体的にイメージすることだったのだ。

たった数回、たった数時間、あすかさんと話をしただけで、私は何かすごく大事なものに手を触れかけた気がしていた。

だけど、なのだ。
忙しい毎日の中で「お金持ちになる計画」は、どんどん後回しになっていき、あすかさんからもらった課題も、徐々に提出できなくなっていった。
情けない。
これもやっぱり、あすかさんの言うように、「本気でお金持ちになりたいとは思っていなかった」ことの、あらわれだろう。

そんな折に、です。
出た!!!!!!!!
ついに、出た!!!!
『職業、お金持ち。』

あすかさんの「うふっ。できちゃいましたっ」って笑顔が、見える。

くぅぅぅぅ。
汚い言葉は使いたくないのだけれど、うわー、これはやっばいやつ、きたって思いました。再び。
これはもう、自分がこれまで後生大事に抱えてきた常識が、ぜんぶ、ぶっ飛ぶ。

一気読み。そして、間髪いれず、二度読み。

あのね、これね、物語仕立てなの。
たとえていうなら『ユダヤ人大富豪の教え』とか『夢をかなえるゾウ』みたいな感じなの。
すっごく読みやすくて、するする入ってきて、そして、何これ。ふつふつと湧き上がる、この熱い気持ち。

昔、『職業、ブックライター。』って本を読んで、あまりに興奮して次の日の朝、当時の夫に「決めた。私、このブックライターっていうのになる」と宣言したのだけれど、
今回は私、この『職業、お金持ち。』を読んで、息子に「決めた。ママ、お金持ちになる!」と宣言しておりました。

あすかさんはいつも
「お金があったら、自分も周りの人も幸せにできる」
と言っていて、だから逆説的だけれど、彼女はお金で買えないことを一番大事にしている。

それでいうと、この本は、あすかさんから、人類へのプレゼントなんだろうなーって思う。もしくは人助け。

自分がこの本で儲けることとか、印税いくら入るとか、そういうのどうでもいいんだろうな。
きっと、一人でも多くの人が、お金持ちになって自由で幸せな人生を送ってほしいって純粋すぎるくらい純粋に思って書いているんだろうなーってね。

そんなことを思いました。

だとしたら、とことん、恩恵にあずかりたい。
彼女の好意に応えるためには、これ、読者である私たちが幸せなお金持ちになるしかないでしょ。

お金持ちに、オレは、なる!
あすかさんのような、自分もみんなも幸せにする、お金持ちに、オレは、なる!

みなさん、これからの私に期待していてください。

それではまた、水曜日に。

●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。