さとゆみ#128 その商品いる? その仕事必要? ウチらこれからどう働けばいい? 『未来のビジネス』
●本という贅沢128 『ビジネスの未来』(山口周/プレジデント社)
やっほーみなさん、今年もよろしくお願いします。
突然ですけどみなさん、新年早々、どんな仕事をしてますか?
ちょいと怒らずに聞いてほしいんだけれど、再び緊急事態宣言出ちゃったりしてる今日このごろ、私たちが今やっているこの仕事、絶対にしなきゃならない仕事なのかなあ。
その新商品、本当に作った方がいいのかな?
その接客、本当にした方がいい?
その広告、本当に必要?
その本、どうしても出さないと困る?
昨年コロナが流行り始めた頃から。
というか、もっとはっきりいうと、不要不急という言葉がさかんに言われ出した頃から。
私、なんだか仕事について、いろいろその必然性について考えるようになったんですよ。
「要」で「急」の仕事なんて、そんなにたくさん、あるか? って、素朴に疑問を感じるようになったんです。
そして、昨年いっぱい、さっきのような質問を、ごくごく親しい人たちにぶつけてきたんですよね。
最後の、「その本、どうしても出す必要ある?」に関していうと、編集さんたちにも問いかけたけど、自問自答もした。
こういうこと聞くと、たいてい、すんごい嫌な顔されたよね。
とくに、メーカーの皆さまに、「新商品って開発する必要ありますか?」って聞くと、めちゃくちゃ嫌な顔された。
でね、結論から言うと
「自分の給料が入らないと困るから、作るし、接客するし、広告出すし、出版する」
以外の腑に落ちる回答って、誰からも(自分からも)引き出せなかったんですよ。
つまり、
新商品を開発しているのも
接客しなきゃ売れないものを売っているのも
売るために広告作っているのも
本や雑誌を出しているのも
基本的には全部、自分の仕事を増やして、お金を稼ぐためであって(うん、それはわかる)。
でも、それがないと世の中回らないから早急に対処せねば、みたいな新たな商品や新たなサービスって、ほとんどないんだなーって思ったわけです。
たとえば、私が近しい美容業界でいうと、昨年は軒並み、新しいカラー剤やパーマ液のリリースがストップした。
するとそれに伴う広告出稿もストップし、それらの商品の使い方をレクチャーするセミナーや売り込みもストップした。
でも、美容院はつつがなく営業してたんですよね。カラーもパーマも普通に美容院に流通してたし、お客様にも提供されていた。
もうひとつ例をあげてみる。
たとえば、出版をはじめとするメディア業界でいうと
「こんなご時世だから、ちょっと書籍の刊行点数減らしましょうか」
ってなことが普通にあった。私自身も、いわゆる、打ち切りになった書籍がいくつかあった。
でも、そうやって刊行点数が減ったことで、書店さんが困ってるとか、読者さんから「今年は新刊少ないじゃないか」って、クレームがきたとか聞かないんですよね。
むしろ、これまで一日に200冊も新刊がリリースされ、モノによっては書店にダンボールで届いた後、開かれもせずに返本されるなんてことが、おこっていた昔の方がおかしかったわけで。
でね。
問題はここからで。
新商品の開発(新刊の発行)をやめても、生活者側は何も困らないってことがわかってしまった今、(むしろ廃棄商品も減るということがわかってしまった今)
作り手側の人たち(私含む)は、コロナが終息した後の世の中でも、本当に経済活動を「昔に戻す」ことが、正しいのかなって。
そんなことを、ずっと考えてた。
コロナによって、私たちが、鬱っぽくなったり、そこまでいかないにしても言いようのない不安を感じたりしたのって、
病気が怖いとか、人と会えなくて寂しいってことだけじゃなくて
無意識的に、私たちがこれまで必死に生産しようとしてきたモノって、じつはあっても無くてもいいモノだったんじゃない? っていう、
究極の「働いている(生きている)意味の喪失」に直面したからじゃないかなって、思ってました。
とくに、働くことが大好きで、それが生きることと直結していた人ほど、しんどい思いをしていた気がする。
で、このもやっとした気持ちってどうすればいいの?
このまま私たちは、「まあ、そんなに必要ではないんだけど、そうも言ってられないしね」とモヤりながら、モノを作り続けるの?
教えて、誰か、偉い人!
って思ってたんですよ。
具体的には、こんな時は、池上彰さんか、山口周さんじゃないかって、思ってた。
そうしたら!
ほら! やっぱり出た!
昨年末に、出ましたよね。山口周さんの『ビジネスの未来』。
こういう本こそ、要で急な本だよ、とか思いながら、発売日に手に入れました。
そして……。
いやはや。
私が昨年のコロナ禍で、ずーっと、疑問に思っていたこと
ぶわーっと、すべての霧が晴れるように、その解が示されていましたよ。
しかも、書籍の一行目で。
この本の一行目には、こう書かれています。
ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか?
めっちゃくちゃ怖い問いかけですよね。
でね、その数行後にこう書かれているの。
答えはイエス。ビジネスはその歴史的使命を終えつつある。
……う、うん、うすうすそうじゃないかなーって、思ってたんだ、私。
でも、こうやって活字で、しかも山口さんに断言されると、背筋も凍るホラーだよね。
だって、私たちのビジネスが、すでにその使命を終えつつあるのだとしたら、
人生100年時代とか言われているのに、ここから何して生きていけばいいの? ってなるじゃないですか?
私たち、今後はもう余生? 余生なの? ってなるじゃないですか。
でもね、この本のすごいところは、ここからなの。
もう、物質的に困っていない私たちが、これから、何を生み出せばいいのか。
この本の後半では、いったん露頭に迷った私たちの前に、もうひとつの道が示されている。
ビジネスなり、資本主義経済が死んだあとに残る世界は、そんなに悪いモノじゃなくて、むしろ、やっと本当の意味でヒューマンな世界になっていくんだよって、書かれている。
いま私は、この後半部分について、100パーセント理解できているわけじゃないけれど、でも、コロナ禍で何度も細胞分裂してきた自分の身体は、「そっちの方向」に世界がいこうとしているのを知っているなあと思う。
データ満載だし、ロジカルな本なのだけれど。
でも、頭より先に、身体が、腑に落ちた。そんな本でした。
新年早々の緊急事態宣言。
そんな時期に読むのに、これほどふさわしい本はないと思うの。
読んだ人たちと、いろいろ話してみたいなあー。
読んだら、ぜひ、ひと声かけてください。
それではまた、水曜日に。
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『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)