さとゆみ#122 30万部突破のスゴ本『「育ちがいい人」だけが知っていること』は、他のマナー本と何が違うのか。
●本という贅沢122 『「育ちがいい人」だけが知っていること』(諏内えみ/ダイヤモンド社)
コロナ禍ど真ん中で発売され、あれよあれよと言う間に30万部を超えたマナー本があるんですよ。
それが、今日ご紹介する『「育ちがいい人」だけが知っていること』です。
このジャンルで30万部というと、どえらいことでして、遅ればせながらこの本を手に取って、そこにはどんな秘密があるのかを解き明かしたい気持ちでいっぱいです。
(ちなみに、育ちのいい人は、「どえらい」、とか言ってはいけません)
私、売れる女性実用書には、あるセオリーがあると思っていまして、
それは、服やメイクや料理のことを書いているようでいて、その根底に自己啓発の要素を持っている本が、ここ10年ほど支持されてきた、と思っています。
たとえば、このコラムでも紹介した
『人生がときめく片づけの魔法』は、片付けの本と見せかけて、人生の取捨選択の方法を教えてくれる本だし、
『レシピを見ないで作れるようになりましょう』は、料理の本でありながら、人生の舵取りを自分でしなさいという本だったりします。
実用書なのだけれども、書籍の中に大きな物語がうねっていて、1冊読みきる頃には、人生に対する考え方が大きく変わっている。
自分のことをちょっぴり好きになったり、大切に思えるようになる。
ただのノウハウ本ではなく、そんなメッセージがこめられている本がこれまで、売れてきたように思います。
なので、この本も、そういう自己啓発要素や、自己肯定力を上げる要素が、がっつり書かれているのかと思ったのですが、本を開いてみると……。
意外や意外! 直球ど真ん中の、ノウハウ100連発的な本だった!
短いと数行、長くても半ページくらいの、マナーの説明がずらずらっと並ぶ、マナーの辞書的な本だったわけです。
読んで
「あー、潮目が変わったんだな」
という気がしました。
この本に通底するリズム感は、これまでの売れ筋書籍とは、まるで違うリズムです。
どこかで一度は聞いたことある、こういったマナーについて、このテンポでこの分量で見せてくれる本は、なかなかなかった。
言ってみるなら、TwitterのおもしろTweetがわんさか並んでいて、それがまとめサイトで見られる感じ。
読まないでも、読める。
そういう、すごく練られた作りだったわけです。いまの時代の身体感覚にすごく合っている。そんな気がしました。
(ちなみに、育ちのいい人は「がっつり」とか「わんさか」とか、品のない言葉を使ってはいけません)
もうひとつ、特徴的なのは、これでもかというくらい、マナーノウハウが並んでいるにもかかわらず、文章全体が、たんなるノウハウの羅列に見えないところ。
さっきわたしは、Twitterのまとめサイトみたいだと言った。
でも、形式はまとめサイトを思わせるテンポの良さなのに、まとめサイトとは読後感が全く違う。
それは多分、ひとつひとつの文章が短くてもエレガントだからだと思う。
エレガントにエレガントが折り重なっていくので、出来上がった全体が、ミルクレープみたいに綺麗な断層を持っている。
この短い解説の中に、何度も登場するのが、「このマナーが正解かどうかを決めるのは、あなたです」というメッセージ。
決めつけるでも分断するでもなく。そのメッセージの佇まいが、そもそもエレガントだ。
まさに、本のカバーの袖部分に書かれている殺し文句
「今からでも『育ち』は良くなる」
を、この本自体で、経験させてもらっている感じです。
楽しい読書体験でしたよん。
それではまた、来週の水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
telling, の本の連載でもおなじみ、ヘアライターとして20年近く活躍されてきた佐藤友美さんの新刊が発売になりました。 ファッションより、メイクより、人生を変えるのは「髪」だった! 本当に似合う髪型を探すためのヒント満載の1冊です。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)