本という贅沢144『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』

さとゆみ#144 思考とは、具体と抽象の往復運動である。名言キタコレ。『賢さをつくる』

隔週水曜日にお送りするコラム「本という贅沢」。今回は様々な疑問がクリアになる1冊です。この本に大興奮したという書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが、実例を交えて紹介します。

 

●本という贅沢144『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』(谷川祐基/CCCメディアハウス)

冒頭1行目から最後の1文字まで、ずーっと興奮しながら読んでいた本を紹介させてほしい。
どれくらい興奮したかというと、脳がフィーバーしすぎて、読了後38.1度まで発熱した。その日はインタビュー取材だったのに、検温で引っかかった。まさかの私だけオンラインで参加……(陰性でした)。

という話はいいのだけれど、そう。何に興奮したかって、この本の主眼である
「思考とは、“具体”と“抽象”の往復運動である」
ということと
「頭のいい人は、その往復の①距離が遠い②スピードが速い③回数が多い」
ということ。
この2つの法則を組み合わせると、これまで考えてきたいろんな疑問が、ぜんぶ、ぜーーーんぶ、綺麗に解決しちゃうことに興奮したわけです。

たとえば
・毎回ヒット商品を作るマーケターの脳内はどうなっているのかとか
・現場でめちゃくちゃ仕事ができる人がマネージャーに向くとは限らないのはなぜかとか
・子どもの質問に答えるのが難しいのはどうしてとか
・売れっ子美容師さんの共通点は何かとか
・取材相手の言葉をそのまま書いたのに、どうして「こんなこと言ってない」って叱られるのかとか……

まだまだ100個くらいあるけれど、これまでの人生で考えたことのある問いのうち、うすらぼんやりとしか暫定解を持っていなかったことが、この本読んですっごくクリアになりました。
すべては、具体と抽象の往復なのだ!
ふぅ。やばいな。書いててまた熱があがりそうだ。

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2つ、私の身近な課題に、この思考法を当てはめて解説してみるね。
たとえば、「売れる美容師とは」問題。

ヘアライターとして仕事をしていると、美容師さんから一番聞かれる質問が「売れる美容師の共通点は?」なんですよね。
で、これまでは、たったひとつだけ共通点があるとしたら、「目の仕事と手の仕事、両方優れていること」と答えていたんです。

「目の仕事」というのは、時代を読む力。そもそも「このデザインがイケているのか」をジャッジする審美眼。
一方、「手の仕事」というのは、そのイケているデザインを、実際にカットしてカラーして、実装できる技術。
どちらか片方だけではダメで、この両方が優れ、両者を常にアップデートできる人が、私が観察した「いい美容師」さんたちの共通点でした。

という話もね、この「具体と抽象の行き来」という言葉を使えば、綺麗に説明できるのね。
この場合なら、「具体=手の仕事」で「抽象=目の仕事」。そうか! 彼ら一流のデザイナーがやっていたのは、この「具体と抽象の往復」だ。

もうひとつ、検証してもいいですか。
インタビュー取材で、相手が言ったことをそのまま書いたのに「俺、こんなこと言ってない」って叱られる問題について。
これ、マジでよくあるんですよ。

でもね、この本を読んでよくわかった。
この場合、相手が話した言葉という「具体」はいじっていなくても、それをどう解釈したかの「抽象化」がズレたから、怒られてるんだってこと。

この場合の「抽象化」ってなんぞやというと、たとえばインタビュー原稿の場合、「地の文」に抽象化の作業が入る。

地の文というのは、テレビで言えばナレーション原稿の部分を指します。
「情熱大陸」でいえば、「○○の仕事は、朝が早い。この時間が、彼にとって未来を考える時間だ」などという部分です。そしてそこに○○さんのコメントが流れる。「6時に出社して7時までの間は、誰にも邪魔されず仕事ができるんです」とか、ね。

この、具体的なコメント部分はテレビではそのまま使うしかないし、インタビュー原稿でも、一字一句同じとは言わないまでも、そこまで改変はできない。
だからこそ、この「6時に出社して7時までの間は、誰にも邪魔されず仕事ができるんです」という「具体」をどう解釈して「抽象化」したかで、ストーリーを作る。

そこに、テレビならディレクター、原稿ならライターの力量がモロに出る。上手いライターは上手く抽象化するし、下手なライターは下手に抽象化するから「こんなこと言ってない」と叱られるというわけなのだ! 

ひぃー。なるほど、あれは、抽象化の力の差だったのか。今度から、そこ、意識して原稿書こう。

と、まあ、一時が万事、この調子なんですよ。
いま、2つだけ、美容師業とライター業の話をしたけれど、こんなふうにあらゆる職業で気付きがある本だと思う。
「うわあ、だからうまくいかなかったのか」

「なるほど、だからあの人はうまくいっているのか」
が、この本を読めば、かきーんとクリアになります。

今の時点では、世界中の問いのほとんどは、この本に書かれている法則で解決に近づくのではないだろうかとさえ思っている。どうして、今まで、このことを誰も教えてくれなかったのだろうって思ってる。
読み終えて24時間。すでに友達3人に激推しして買ってもらったけど、みなさんにもこの本、届いてほしい。

ただし、ひとつだけ。
興奮しすぎの知恵熱には注意です。

それではまた、水曜日に。

 

●佐藤友美さんの新刊『髪のこと、これで、ぜんぶ。』が9月6日発売!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

さとゆみ#143 少なく豊かにモテながら生きる。今めちゃくちゃ気になる『移住女子』
年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。