本という贅沢142『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

さとゆみ#142 わかりやすく読みやすい文章を書くための本は、これ一冊でいい。「文章術のベストセラー100冊」

隔週水曜日にお送りするコラム「本という贅沢」。プロの書き手であれ、ビジネスパーソンであれ「文章」を書くことに苦手意識を持っている人は多いでしょう。そんな人にピッタリな本を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#141 仕事も恋も「頑張ってるのにもったいない人」を卒業する『言いかえ図鑑』

 

●本という贅沢142『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(藤吉豊・小川真理子/日経BP)

大変ワタクシごとですが、今年の秋に文章術の本を出す予定だったので、この半年くらい、日本で発売されている文章術の本を片っぱしから読んでいたんですよ。

で、ね、この本に出会いました。
『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』。

これ読んで私、思ったんですよね。「ああもう、私が文章術の本、書く必要ないや」って。で、編集さんに「文章術の本は、これでもう十分だと思ったので、別のテーマにしたいです」って連絡しました。

私も薄々気づいていたんだけど、そもそも文章術の本って、みんな言っていることは同じなんですよね。著者さんによって、言い方が違うだけで。
で、この本のすごいところは、その「言い方が違うだけで、みんな同じことを言っている」のを、全部まとめて「よく言われている順番にランキングして紹介している」ところ。

たとえば、文章本100冊のうち53冊に書かれていたのが、「一文を短くする」なんだそう。そして38冊に書かれていたのが「文章を型で書く」で、36冊に書かれているのが「見た目を整えること」なんだそう。

こう言われると、情緒もへったくれもないんですけれど、でも、完全にその通りなんですよね。

私たちのように、文章を生業(なりわい)にしている人間って、こういう情緒のない本のことをどこか下に見がちな側面があります。
だから文章を書く人の文章術の本って、実用書なのにもかかわらず妙に色気があったり、遊びがあったりするんですけれど、この本には、そういう“色”がまったくない。

そもそも、著者さんが「おわりに」で、「(本書は)著者の色を出さず、第三者の立場で、客観的に、粛々と、『書き方のコツをランキング化する』ことにこだわった」と書いています。うーん。逆にストイック。

で、色がないぶん、ものすっごく本質的。大事なことしか書いていない。いらないこと書いてない。骨格しかない。私が自分の文章術の本で書こうと思っていたことは、全部この本に書かれていました。
なので、心の底から思うんだけど、たくさんある文章術の本で、どれを読めばいいか迷っている人は、ひとまずこれ読めば間違いないと思う。

メールがわかりにくいと言われるとか、プレスリリースをもっと上手に書きたいとか、そういうビジネスパーソンにはもちろんおすすめだし、何度書いても赤字が入るというライターさんには全力でおすすめ。

そうそう。赤字の話です。
もうひとつ、この本を推す理由は、「悪文の例が素晴らしい」こと。

著者さんは、「文章の書き方講座」を主宰されている方だそうですが、こういう講座を主宰されている人のいいところは、生徒さんの「悪文の例」をたくさん持っていることなんですよね。(余談ですが、優れた文章術の本を書いている著者さんは、たいてい文章講座を持っていて、悪文例をたくさん所持している方です)

この本は、
「こういう文章がダメな文章です」
に赤字を入れて
「こう直せばよくなります」
という例がたくさん紹介されているんですが、とにかく、この悪文の例と赤字が本当に素晴らしい。

私は編集者としてライターさんの原稿に赤字を入れたり、講師としてビジネスパーソンの文章に赤字を入れたりすることがよくあるのですが、まさに、「そうそう! みんな、ここで読みにくくなる!」という例のオンパレード。よくぞここまで、と思うくらい、「あるある」のダメな文章例が、本当に勉強になります。

ちなみにこの本、大ヒット本にもかかわらず、プロのライターの間ではあまり話題になっていないのだけれど(多分、横書きの本であることとか、さっき言ったような情緒や色気がないところが、プロには一瞬抵抗があるんだと思う)、正直、私がお付き合いするライターさん全員に読んでほしいと思いました。
この本に書いてあることさえマスターしてもらえれば、赤字入れるところはほとんどなくなると思う。(というか、日ごろ変な日本語を書きがちな私自身にも、もう一度すみずみまで読ませたい)
みんな、すぐに面白い文章を書こうとするんだけど、その前にまず、読みやすくてわかりやすくないと読んでもらえないんだよ。で、読みやすくてわかりやすいところまでは、この本に全部網羅されているよ! ここまで到達したら、次のステップにいけるよ。

というわけで、くり返しになりますが、文章術本の決定版です。
ビジネスパーソンのみなさまにはもちろんですが、読みやすい文章を書けないプロのライターさまにもおすすめの一冊をお届けしました。

それではまた、水曜日に。

 

●佐藤友美さんの新刊『髪のこと、これで、ぜんぶ。』が9月6日発売!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

さとゆみ#141 仕事も恋も「頑張ってるのにもったいない人」を卒業する『言いかえ図鑑』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。