本という贅沢141『言いかえ図鑑』

さとゆみ#141 仕事も恋も「頑張ってるのにもったいない人」を卒業する『言いかえ図鑑』

コラム「本という贅沢」。今回は書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが一気読みしたというベストセラーを取り上げます。言葉を扱ったこの本はtelling,世代の女性にオススメだそうです。

●本という贅沢141『よけいなひと言を好かれるセリフに変える 言いかえ図鑑』(大野萌子/サンマーク出版)

次のtelling,何にしようかなあと、本屋さんをふらふらしていたとき、ぱっと目についたのが、20万部突破の帯がかかった『言いかえ図鑑』

うわ、すごい、もう20万部かぁ(現在は30万部突破しているそうです)と思って、ばらっとめくったら、一行目が、
「悪気はなかったのに、ちょっとした一言で相手を不機嫌にさせてしまった。あなたは、こんな苦い経験をしたことがありませんか?」
って書き出しで、ぐぬぬってなったよ。

いや、めっぽう、あるよね。めちゃくちゃ、ある。
はい、ここにいまーす! 思い当たる人、ここにいまーすって挙手しそうになったよね。

・・・・・・・・・・

昔の私を知っている人は、みなさん雁首揃えてうなずいてくれると思うけど、私、5年くらい前まで、めちゃくちゃ性格が悪かった。

いや、性格が悪かったというか、物の言い方がおそろしく失礼で、いろんなところでよくトラブルを起こしてた。

・ある先輩に対するメール対応が悪すぎて、キレた先輩に怪文書を流されたことがあったし、

・某仕事相手のご好意(平たくいうと告白)に対するお断りの言葉を間違って、次の仕事で干されたし、

・業界の重鎮に対する口の利き方が悪すぎて、ある時期、出入り禁止の場所だらけになったこともあった。

なんだろう、その頃はたぶん、素直なことが美徳だと思っていたんだよね。
ハッキリ物を言わないことは、むしろ不誠実だと思っていた。

「いや、どんな言い方しても、結論は一緒でしょ。だったら、回りくどいの面倒じゃない?」
「スパって正直に言った方が、話、はやいよね」
って本気で思ってた。

それに加えて、「べつに私、人に好かれたいと思って生きてないし」みたいな青いポリシーのせいで、いわゆる「好かれる伝え方」とか、「好かれる物の言い方」みたいな考えを、ずっと軽視してきた。

当時の私の辞書に、謙虚とお世辞という言葉はなかったのだ。

でも、ですね。
確かに人に好かれるために生きているわけではないから全員に好かれなくてもいいんだけど(それは今でもそう思ってるんだけど)、人に嫌われたり、あまつさえ足を引っ張ってやろうと思われるくらい嫌われたら、人生結構詰む。

どんなに仕事を頑張っていても、嫌われていると、仕事って評価されないんだよね。
というか、嫌われていること自体が、仕事できない人ってことになる。

それだけじゃなくて一番困ったのは、失礼な物言いをして怒らせた相手が、その瞬間ではなく、数年くらい経ってから、ここぞとばかりに仕返ししてくること。
私が時間をかけ、心血注いだ仕事がリリースされるときに、決まって過去に失礼なことをした人(たち)から嫌がらせを受けた。

人を押し上げることって、たくさんの人数がいないとできないんだけれど、人を引きずりおろすことって、意外と数人でできたりするんだなあってことを、この時に学びました。

でもまあ、嫌がらせされた相手との関係でいうと、9:1くらいで過去の私が悪かった。嫌がらせされても仕方ないくらい、相手のプライドを傷つける物言いをしていたんだと思う。綺麗に、自業自得だ。

と、そういうことがあって、その時にほんと、心を入れ替えようって思ったね。
これから先、何かあるたびに、不義理した人たちから復讐される人生はアカンって思ったんです。

で、「心を入れ替えて、いい人になります」って周囲に宣言したところ、何人もの知り合いから「うん、それがいいと思う。いつも、もったいない人だなあって思ってた」と、言われたorz。

「そう思ってるなら、早く言ってよ!」って思ったけれど(心を入れ替えたので、口には出しませんでした)、多分、昔の私は何を言われても聞く耳を持たなかっただろうなと思う。
だからみんなも言ってくれなかったんだろうし、人は、自分で気づいたことしかできない。

というわけで、私が「ぐぬぬっ」となって、思わず買ってしまい、一気読みしたのがこちらになります。

タイトルの通り、「こう言いかえたら感じよくなるよ」っていう、言葉のNGとOK集なんだけど……
驚いたのは、私まだ結構NGな言葉使っていたよね。入れ替えるのは心だけじゃダメなんだ。使う言葉自体も、もっと入れ替えないとって反省しました。

あとね、この本の何が良いかって、ちゃんと文字数を割いて「この言い方がダメな理由」を解説してくれているところ。
「え、なんでこの言葉ダメなの?」って一瞬思っても、解説読んだら、理由がわかってすっきりする。

というわけで、telling,のみなさまにおかれましては、「20代と30代のときに失礼な言葉を使っていたツケを払わされている私」を反面教師にして、万人に好かれなくてもいいけれど、嫌われるのはできれば避けておく方針を、強くおすすめします。

それではまた、水曜日に。

 

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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

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ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。