本という贅沢107『女人源氏物語(一)』(瀬戸内寂聴/小学館)

女の人生は付き合う男次第? でも、男だって付き合う女次第?

毎週水曜日にお送りするコラム「本という贅沢」。今月のテーマは「人づきあい」。 リアルとオンラインの双方でつながるようなった現在、人間関係はどうなっていくのでしょうか。世界最古ともされる恋愛小説のエッセンスから学べることもあるかもしれません。案内するのは書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんです。

●本という贅沢107『女人源氏物語(一)』(瀬戸内寂聴/小学館)

『女人源氏物語(一)』(瀬戸内寂聴/小学館)

以前、ファッション誌のライターをやっていたとき、ひと月の半分以上はヘアスタイル撮影のディレクションをしていた。
写真というのは面白いもので、驚くほどモデルさんの内面がうつる。とくに女性のモデルさんは、彼氏ができた、別れた、変わった……etcが、如実に写真に出る。本人が何も言わなくても、写真を見ればすぐわかる。

幸せな恋をしているときは、髪の毛先まで幸せそうに動く。辛い恋をしているときは肌も髪も荒れるし笑顔だって憂いを帯びる(写真としては、そういうのも悪くないのだけれど)。
私らスタッフは、看板モデルさんたちに「どうぞ良い男と付き合っていい恋をしてください」と祈るしかできないのだけれど、性格の良い優しいモデルほどモラハラな男につかまったりして、世の中ままならないな、って思ってきた。

で、どうして急にそんなことを思い出したかというと、最近
「女性にとって、付き合う男って、大事だな」
と思うことが続いたからだ。

このコロナ下、配偶者や彼氏のいる女性の話を聞いていると、どんな男性と付き合っているかで、それぞれのQOLが全然違うなーって、思ったんですよね。

生き生きとしている人、うつうつとしている人。
一番近くにいる男性が、その女性をどう扱っているかで、ずいぶん幸福度が左右されていたように思う。
いや、これは別に、コロナ関係ないか。
いつの時代も、男性にくらべて女性のほうが、付き合っている相手の影響をくらいやすい気がする。

そんなことを思っていたら、久しぶりに読み返したくなったのが、この『女人源氏物語』。
「源氏物語」の中で、光源氏と恋に落ちた女性たち。その女性たち側の目線で語られる「源氏物語」のアナザストーリーだ。

これがね。
読み返してみたら、すっごくよかった。

なにがいいって、それぞれの女性の恋愛相手が、同じ男(=光源氏)だということ。
なまじ同じ男相手の恋愛話なもんだから、それぞれの女性たちの恋愛観が、めちゃくちゃ際立つ。
自分がどの女性に共感するのか、自分の恋愛タイプはどれなのか。そんなことを考えながら読むのが楽しい。

もうひとつ気づいたのが、「女が変われば、男も変わる」ということ。女性のタイプが違えば、対する光源氏のキャラも付き合い方も全然変わる。
これね、結構面白い話だなと思ったよ。

そうかー。
付き合う男次第で、女は変わるのだけれど、
男も、付き合う女によって、こんなに変わるのだな。

当たり前といわれればそれまでなんだけど、これって、恋愛関係の芯を食った話だと思ったなー。

これは国文科出身女子あるあるなのでドン引かないでほしいのだけれど、大学のクラスメートと恋愛話するときは、いつも源氏物語が引用された。ドラマに出てくるキャラで恋愛を語るように、源氏物語の登場人物で恋愛を語っていたのだ。

「私は夕顔が好き〜♡ 恋愛体質だよね」と言った女の子は、妻子持ちとスリリングな恋愛のすえ、別の人と結婚した。
「明石の君の知的さに惹かれる」と言った人は、就職先で活躍しつつも大学院に入り直して、論文を書いていた。
「正妻、紫の上以外のポジションは絶対嫌」と言った女子は、上場企業の男性と結婚して二児の母。
決して源氏の言いなりにならない「朧月夜」を推した子は、結婚→離婚→国際結婚を経て、双方の夫の子どもがあわせて4人いる。

仲の良かった8人グループ、全員、違った登場人物を好きだと言ったのが記憶に残っているし、なんだかんだみんな、推しに近い人生を送っているのが面白い。今読み返しても、彼女たちの顔が浮かぶ。

みんなは、どの登場人物が好きだろう。
そのどんなところに惹かれるのかな。
自分の恋愛傾向が痛いほど炙り出される『女人源氏物語』。
占いみたいで楽しいよ。
いちどお試し、いかがでしょう。

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私が持っていたのは小学館のハードカバーなのですが、いまは集英社で文庫版が出ているようです。全5巻。長い物語なのだけれど、一気に読めてしまう。ほぼ官能小説といっていいくらいの色欲に、酔えますよん。

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それではまた来週水曜日に。

年間10冊以上を担当する書籍のライターとして活動。ビジネス書から実用書まで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『道を継ぐ』など。