「モテ期」とは、これいかに。服も恋も、「とりあえず試着」が良い理由
●本という贅沢89『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。』(尾形真理子/幻冬舎文庫)
これちょっと間違っていたら誰か指摘してほしいのだけど、「恋愛」と「お洋服の試着→購入」って結構似たとこありません?
たとえば、街を歩いていて気に入った服が目に入っても、なんとなくその日は試着するのが面倒で、結局買わずに帰ってきてしまう時ってあると思う。
その一方で、一度その面倒さを払拭して試着をしてみると、「今日はお洋服買うモード」のスイッチがバチっと入って、あれもこれもと次々試したい気持ちになって、結果両手いっぱいに新しい服を持ち帰ったりしちゃう。
この感じが、恋愛に、似てる。
恋愛が遠のいている時って、いろんなお試しが面倒になっていて、結果的に何も持ち帰らずに家に戻る夜が続く。
でも、一度誰かとお試しモードに入ると、それ以外の人に対するハードルもぐっと下がる。せっかく一度脱いだんだからこの服もあの服も試してみようかって感じで、恋愛モードになることがあると思うんだ。
これが俗に言う、モテ期の正体ではないかと私は思っている。
だから恋愛から遠ざかっていることを悩んでいる女子には、とりあえず一回試着してみ? って言うことが多い。いったん試着モードに入ったら、そのうちきっと、フィットするのが見つかるんじゃないかなって。
たいていの場合、最初にスイッチを押してくれた人では“ない”人と、その後安定した関係になったり、結婚したりする女子が多い。2or3人目の人で落ち着くケースが多い気がする(さとゆみ調べ)。
でも、そもそも「お洋服買いに外に出よう」って気持ちにすらならないくらい、恋愛気分がマイナス成長の時期もあると思うんだ。
そういうときは、ひとまず女性向けのAV観るかHな漫画を読むのが手っ取り早いと思う。でもそれはちょっといきなりアレだ……という人には、鎖骨のあたりをくすぐられる、大人の清潔な恋愛小説がちょうどいいと思う。
たとえば何がいいかなあ……と考えていたとき、試着つながりで、というわけじゃないけれど思い出したのが、この本。
尾形真理子さん。
そのお名前を知らなかったとしても、このコピーはみんな覚えているんじゃないかなあ。
「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」
そう。ルミネのコピーを作ってらっしゃる方です。telling,世代は、おそらく、尾形さんのルミネ広告で育った世代ですよね。
・縛られたくなくて。離されたくなくて。
・未来を信じてなきゃ服なんて買えない。
・似合ってるから脱がせたくなる。
・運命を狂わすほどの恋を、女は忘れられる。
・会えない日もちゃんと可愛くてごめんなさい。
・この世界にわたしはけっこう似合っている。
(以上、ルミネのコピーより)
尾形さんの広告と、しいたけ占いって、近年の2大共感コピーだと思うのだけれど、
「自分のことを言われているのかと思った」感で、すっと刺さってくる。
この本は、そんな尾形さんの初の短編集。
試着室で服選びに迷う5人の女性の恋の物語。スリムできゅきゅっと締まった文体が気持ちよくて、押し付けがましくなくていい。爽やかでいい。おしゃれでいい。清潔でいい。でも、もう子どもではない大人の恋の話。
あと、ルミネの広告でも証明されているけれど、女子の自己肯定感を決して削がないし煽らない、言葉のセレクトが洗練されている。だからすごく安全に読める。恋愛リハビリ期間には、とてもいいと思う。
この小説で展開されるどの恋も、起承転結の最初の3つまでしかないんですよね。
もし「結」が気になり始めたら、ちょっと恋愛スイッチ入った頃合いかもしれない。
そうしたら街に出よう。試着しよう。服を買おう。そのうち、試着室で思い出す人ができるといいよね。恋しよう。
・・・・・・・・・・・・・・
というわけで、今週は、午後3時に紅茶を飲みながらカフェで読める安全な恋愛小説をご紹介しましたが、来週は、丑三つ時に過去の傷えぐりながら読む濃厚な恋愛小説をご紹介しますので、そっち方面の方が好きな人たちは待っててね。
・・・・・・・・・・・・・・
それではまた来週水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
telling, の本の連載でもおなじみ、ヘアライターとして20年近く活躍されてきた佐藤友美さんの新刊が発売になりました。 ファッションより、メイクより、人生を変えるのは「髪」だった! 本当に似合う髪型を探すためのヒント満載の1冊です。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・理想でメシは食えない。理想と現実の折り合いをつけてなんとかやってい文字数(寿木けい/小学館/『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)
・「どうせ私なんか」と決別する。SNS時代の自己肯定感の高め方(中島輝/SBクリエイティブ/『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』)