さとゆみ#137 なぜここまで売れるのか。他の会話本と何が違うのか。「人は話し方が9割」
- 前回はこちら:さとゆみ#136 ひとりのための発明が、みんなと自分の幸せをつくる。「マイノリティデザイン」という新しい生き方、働き方
- 前々回はこちら:さとゆみ#135 私の今日が、誰かの明日に絡まっていく。みんな『ぐるり』と繋がっている。
●本という贅沢137 『人は話し方が9割』(永松茂久/すばる舎)
65万部突破だという。
2019年秋に発売以降、一昨年、昨年、今年と爆売れし続けている『人は話し方が9割』(通称「ハナキュー」というらしい)。
巷では、コミックの『鬼滅の刃』、そしてビジネス書ではこの本と『FACTFULNESS』が、コロナ禍の書店を救ったとも言われているらしい。
会話本でここまで売れた本は、近年なかったんじゃないだろうか。
実は私、この本にまつわる映像が妙に記憶に残っていて。
発売から数ヶ月後、どーんとJR広告がかかったタイミングで初の緊急事態宣言。誰も乗っていない電車に展開するハナキューの広告が、すごく印象に残っているんです。
当時は多くの書店さんが営業できていなかったし、そのときは、「不運な書籍もあるものだなあ」と思っていたのだけれど、あれよあれよという間に記録的ベストセラーになっていました。
こういう本は、単なるブーム売れではなく「本当に求められている強い本」なのだと思う。
私も発売直後にKindleで買ってナナメ読みして(ごめんなさい)、なんとなくわかったつもりになっていたけれど、
でも、どうしてこの本、そこまで売れてるの?
何が他の会話本と違うの?
ってことが気になって、今回、紙の本を買い直して、もう一度読み直してみることにした。
すると、なるほど。私、読んだつもりで全然ちゃんと読めてなかった。
この本、会話の本だとばかり思っていたけれど、会話のテクニックについて書かれた本じゃなかったんだな。人と会話するときの思考のあり方について書かれているんだなってことに気づく。
そもそも、「はじめに」で、テクニックが欲しい方は、この本はお勧めしないよ。別の本を読んでねって書いてある。
しかも、会話本なのに、コツその1が「自己肯定感について」から始まっている。
著者の永松さんの言葉で言うならば、
日頃発する言葉をロケット、心を発射台だとすると、ロケット一発一発の性能を磨くより、発射台を良い方向に向ける方が、ずっとずっと重要
というわけです。
そういえば……。
この本を読んでる間じゅう、ずっと頭にある友人の顔が浮かんでいた。
彼女は本当にいつも楽しそうに会話する人で、私も彼女のことが大好きなんだけど、どうにもひとつだけ信用できないところがあって、
「私、本当に人に恵まれてるんですよね。嫌なことされたり、騙されたりしたことなくて」って言うのよ。
私、そんなことあるかいって思ってたよね。
というのも、彼女の知り合いには、明らかに嫌な人もいるの。私のこと騙した人もいるの(笑)。
でも、彼女は、「私の周りには、いい人しかいない」って言う。
彼女の手にかかると(口にかかると)、私が嫌な人だと思ってる人も、とてもいい人のように語られる。「あの人、こういうところが素敵だよね」って、なんの屈託もなく言うわけですよ。
しかも、彼女、決して良い子ぶってるわけじゃないんだよね。なぜか、本気でその人の嫌なところが見えてないみたいだった。
なんで? さすがに無防備すぎない? って、ずっと思ってた。
ところが、ですよ。
私、このハナキューを読んで、その謎が解けたんですよね。
「ああそっか、“彼女に対して”は、本当にみんないい人なんだ」って、わかったんです。
この本の言葉を借りるとしたら、まさに29ページに書かれている
「話している相手を否定しなければ、相手もあなたを否定しなくなる」
ってやつですよ。
彼女は、いつなんどきでも、人を否定しない。超絶全肯定。
だからみんな彼女のことが好きになる。好きな相手に嫌なことしようなんて思わないから、いい人になる。そうすると、彼女はさらにその人たちのいいところばかり話すから、周囲の人たちはよりいい人になって、彼女はもっと好かれる。
というわけ。
なるほど、彼女の超絶全肯定からの超絶好感度は、こうやって生まれているのか〜、って思ったわけですよね。
もうこうなってくると、どこが卵か鶏かわからないくらいシームレスな好循環がまわっているんだなと思う。
この本、ハナキューに書かれているのは、彼女のような人になるための方法だった。
これまでの会話本とはひと味もふた味も違う、ものすーーっごく、本質的な話だった。
そして、返す刀でハッとするわけです。
いや待てよ、じゃあ、逆に言うと私の話し方はアカンってことだよね……って。
私の苦手なあの人も、苦手にしちゃっているのは、私自身の会話なんだね……って。
そう思うと、ちょっと元気出るよね。相手を変えなきゃいけないとなったら無理感漂うけれど、自分が変わればいいなら、それは、できる(と思う)。
2度目、読んでよかったです。
心から。
それではまた、水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
telling, の本の連載でもおなじみ、ヘアライターとして20年近く活躍されてきた佐藤友美さんの新刊が発売になりました。 ファッションより、メイクより、人生を変えるのは「髪」だった! 本当に似合う髪型を探すためのヒント満載の1冊です。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)