1週間で10万部突破の話題作。頭のいい女子ほど知るべき落とし穴
●本という贅沢39『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著 上杉周作、関美和訳/日経BP社)
「アネキみたいに、ちゃんと勉強して大学出て、メディアで仕事していて、情報取るのがうまい人ほど、ネットのひどいデマに振り回されるのはどうしてなんだろう?」
弟にそう言われたのは、2011年の年末のこと。
私は彼が住む大阪のスーパーで野菜を買っていた。しきりと産地を気にしている弟。それは、「できるだけ被災地の商品を買って応援したいから」という理由で、当時の私は、その言葉にひるんだ。
「え?その野菜、家族みんなが食べるんだよね?あんたはともかく、子どもは放射線、大丈夫?」
そう言った私に、弟は悲しそうな顔をして、冒頭の言葉を私に言ったのだ。責めている風ではなかった。ただただ、悲しそうな顔だった。
今回、『ファクトフルネス』を読んで、真っ先に思い出したのは、その時のことだった。
『ファクトフルネス』は、客観的なデータを元に世界の今の姿を明らかにしていく書籍だ。私たちが将来について悲観的になりすぎなことを教えてくれ、私たちが想像している以上に、世界は良い方向に向かっていることを知らしめてくれる本。
発売たった1週間で10万部という異例の売れ方をしているのは、単に様々なデータ分析(ファクト)で世界の現状を知り明るい気持ちになれるから、だけじゃない。
この本には「自分がこれから、どういう態度で情報を受け取ればいいか」が書かれていて、それを知ることは、マインドフルネスのように心を整える効果があるという(確かにその通りだと思った)。
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私の息子は震災直後に生まれた。
スーパーからミネラルウォーターが消え、粉ミルクから放射線が検出され、保育園の砂場から放射線が検出され閉鎖したと知らされた。
はじめての育児と、錯綜する情報に、当時の私はそうとう不安定になっていたと思う。
そんな時、「ちゃんとデータを見たほうがいいよ」と、言ってくれたのは、新聞社に勤めている弟だった。
「俺たちは“マスゴミ”なんて呼ばれているけれど、データを隠匿なんかしていない。できるだけ冷静に、矜持を持って報道しているよ。うちにも大事な子どもがいるしね」と言った。
そう、彼には2人の子どもがいた。
しかし、西の食材ばかり求めてネットで取り寄せしていた私に対して、彼の家ではわざわざ東北の食材を買っていた。
私が関西方面への“疎開”を検討している時に、彼は家族とともに東京への異動願いを出していた。
彼が判断基準にしている「ファクト(事実)」が、私をはじめて、冷静にしてくれた。それからは、必要以上に怖がらなくなったし、精神も安定した。
これが私にとって初めての「ファクトフルネス」の経験だったと思う。
『ファクトフルネス』には、「この本の感想を書く人は、以前、本能に支配され正しいデータに目を向けなかった自分自身のエピソードを添えてほしい」と書かれていた。
この本を読んだ今ならわかる。
震災直後の私は、この本でいうところの、「ネガティブ本能」、「恐怖本能」、「犯人探し本能」、それに「焦り本能」にも侵されていたのだと。
もし『ファクトフルネス』を読んだ状態で、2011年に戻ったら、私の子育てと家族の会話は、もう少し心おだやかなものだったと思う。
賢い人ほど、世界を誤解している。
頭のいい女子ほど、世界を悲観している。
この本ではそのことが、何度も強調されています。
telling,の読者さんたちは、聡明な人が多いから。そういう女子たちにこそ、読んでもらえたら嬉しいです。
そして「おわりに」で初めて明かされる、涙なしには読めない“ファクト”にも、ぜひたどり着いてほしい!
- 日本において、ファクトフルネス的な傑作といえば、『知ろうとすること。』 (新潮文庫)かな、と思います。まさに、福島第一原発後、いろんな情報が錯綜する中で、Twitterにおいて冷静に事実だけをアップし続けた物理学者の早野龍五さんと、その姿勢を評価した糸井重里さんの共著。素晴らしい本です。
あと、個人的に、『ファクトフルネス』は、電子書籍版がおすすめ。毎日持ち歩いて、いろんな人との会話に登場させたいデータばかりなので。
それではまた来週水曜日に。