地雷に満ちた世の中で、生き残れとにかく生き残れと叫ぶ
●本という贅沢38『やらない理由』(カレー沢薫/マガジンハウス)
若くて聡明で綺麗な女子に「どうやったら、結婚できますか」と聞かれることがあるけれど、その回答は、「結婚なんて勢いだし、わりとうっかりしてないと結婚なんかできないよ」の一択です。
そう言うとみんな、「結婚みたいな大事なことを、勢いやうっかりで決められませんよ」と言う。
でもまあ、綿密な未来予想に基づいて旦那選びやらをしても、3組に1組は離婚するわけだし、2人の組み合わせの順列は無限大にあって、結婚生活の課題も組み合わせの数だけある。つまり、あまり法則化できないものなのだ。
しかも結婚に関してはPDCA回すほど回数稼げないから、PDCA(PLAN=計画→ DO=実行→CHECK=評価→ACTION=改善)よりも、DCAP、つまり、やってから考えた方が効率的だと思う。
で、この「結婚」が、「産むこと」になるとなおさらで、聡明で真面目な女子ほど「私なんかが親になっていいんだろうか」とか「仕事と家庭は両立できるんだろうか」とか、真面目に考えて、ネット検索もして、この国の子育て事情やママのワンオペ気が狂う発信なんかも調べつくした上で、「やっぱり私には無理そうです」といった結論を出したりする。
そういう、若くて聡明で真面目な女子は、『ライフシフト』とか『やり抜く力 GRIT』とか読まないで、こういう本を読むのがいいんじゃないかな。
カレー沢薫さんの『やらない理由』。
まずは書店で、この本の「はじめに」を立ち読みしてほしい。
この本の「はじめに」は、けだし珠玉の傑作だと思う。
こんな具合だ。
貴様ら自己嫌悪してるか?
昨日は何をはじめると誓った?
ダイエットか
それともていねいな暮らしか
だがその日のうちに夜中インスタントラーメンを鍋から食ったりしてないか?
これに続く4ページ分を読んで、「何言ってんだこいつ、こんな本は読むだけ時間の無駄」と感じた人ほど、多分、この本を読んだ方が良い人。
あなたのその、無駄や無意味さ、挫折を許さない脳内のネジをいい具合に緩めるために。
逆に、この部分を読んで、超最高、マジその通り!と思った人は、まあまあネジがゆるんでるから、読んでもいいし読まなくてもいいと思う。いやもちろん、面白いから読んでもいいけど、面白い止まりだと思う。
この本が真に役立つ人は、やらないことに対する言い訳さえ許せない前者の方だ。前者の人はこの本によって命を救われる可能性がある。これは、そういうタイプの本だ。
これはガチな話だけれど、ここ数年、リスカしたり病んだりした知り合いの多くは、聡明で真面目な人ばかりだった。
今の時代、「うっかり」できない、聡明で真面目な人ほど、生きづらくなっているからだと思う。
自分の職業の話をして恐縮だが、例えば、ライターでいえば、この仕事を続けていくのに大切なのは、約束を守ること、つまり締め切りを守ることだ。
しかし、長年の経験から言って、それ以上に大事なのは、約束を守れなかったときに、必要以上に自分を責めて病まないことだ。
つまり、生き残るために必要なアドバイスは、「約束守れないならするな」というプレッシャーではなく、「約束守れなくても気にするな」というメッセージなのである。
その点、「やらない理由」をこれでもかと書き、やらなければいつまでも「やればできたはず」と夢を見られていいじゃん、と説くこの本は、素晴らしい。
ものすごくふざけているようでいて、じつはすごく真剣に、「病むな、生き残れ」と叫んでいるものすごく真摯な本だ。
ダイエットができない自分に自己嫌悪とか、仕事ができない自分に反省とか、締め切りが守れない自分に罪悪感とか、そんなことを感じている真面目なあなたに読んでほしい。
はじめにも珠玉だけど、あとがきも珠玉です。
- ちなみに、私は、この本を読んでそこまで感銘を受けなかった。なぜなら、前述した二分類でいうと、ネジが緩みきっているどころか数本飛んでる、典型的な後者だから。いつも締め切りに遅れるのに「ま、でも死ぬわけじゃないし」と、ちゃんと反省しない。ゆえに病まない。カレー沢薫さん流にいうと、生存競争に生き残る上等な人間です。
だがしかし、こういうタイプは、自分は病まないが、周囲を病ませる可能性がある。それはそれでアカンので、こういう私タイプの人は、この本を読んでさらに自信をつけてしまうより、『ライフシフト』や『やり抜く力 GRIT』や『7つの習慣』などを読み、一度、脳みそを打ち砕かれるといいのではないかと思う。
それではまた来週水曜日に。