さとゆみ#136 ひとりのための発明が、みんなと自分の幸せをつくる。「マイノリティデザイン」という新しい生き方、働き方
- 前回はこちら:さとゆみ#135 私の今日が、誰かの明日に絡まっていく。みんな『ぐるり』と繋がっている。
- 前々回はこちら:さとゆみ#134 「わかりあえた」と思う感覚ほど危ういものはない。『クララとお日さま』が描く“善意”の分断
●本という贅沢136 『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう』(澤田智洋/ライツ社)
正直に告白すると、この本はライツ社さんから献本いただいた本です。しかも、発売より前の2月にお送りいただいていたのに、すみません、昨日まで積読してました。
私、ふだん献本はありがたくもお断りしてます。
なぜかというと、本って自分が出会いたいタイミングで出会いたいから。書店やネット上で、「あ、この本読んでみたい!」という本を自分で見つけること自体が幸せ。なのでいつもは「あ、(読みたい気持ちになったときに)自分で買いまーす」ってお返事するのだけど。
この『マイノリティデザイン』は
「『この本を作り、売り、届けるために僕は編集者になったんだ』というくらい思い入れの強い一冊です」
と書かれたライツ社の大塚さんのメッセージの迫力におされて、「あ、は、はい。い、いただきます」ってなった。
TwitterのDMで送られてきた、「この本に賭けた想い」のメッセージは、あとからカウントしたら2393文字もあった。
でも、本が届いてから、やっぱりお断りすればよかったって思ったんですよね(ゴメンナサイ)。
というのも、当時の私、自著の原稿に行き詰まっておりまして。私が書けないせいで発売日を1ヶ月延期してもらったりしてまして。
そんな時に、こんな「愛情いっぱい、情熱100パーセント」で作られた書籍を読んじゃうと、自分のダメさ加減に落ち込んじゃうんじゃないかな、っていうのもあった。
ためしにぱらっと開いてみたら、巻頭にコルク代表・佐渡島庸平さんの熱烈推薦コメントがあり、そーっと本を閉じた。ダメだ、今の私にはこの本、きらきら輝きすぎてる。目がつぶれる。
というわけで、メンタル的にこの本が読めなかった3ヶ月間。
友人知人がこの本をSNSでバンバン紹介して大絶賛しているのを、チラチラ横目で見てた。多いときは、1日に2件くらいのペースで、知り合いの誰かがこの本を推薦していた。あっという間に4刷だという。
「愛されてる本だなあ」
と思うと、ますます、じとっとした気持ちになって手が伸びなくなっていた。
と、前置きがえらく長くなってしまったのですが、
やっと自分の原稿にもめどがついて、物書きメンタルも浮上してきたので、昨日、読んだんですよ。
で、結論を言いますと。
いや、なんかほんと、ぐだぐだしてないで、早く読めばよかった。
献本いただいたときに秒で読めばよかった。
というか、この本読んでいたら、私はこの3ヶ月間、こんな煮え切らない気持ちを抱えて文章を書かなくてよかったんだって気づいた。
救世の書、でした。
そう。そもそも私、なんで物書きメンタルが低空飛行していたかっていうと、山口周さんの『ビジネスの未来』を読んだからだったんですよね。
このコラムでも紹介したけれど
私たちが作っているものって、もう、世の中に必要とされていないんじゃないか。そんなときに、何を作ればいいのか、何を書けばいいのか、という迷路にはまっていた。
でも、この『マイノリティデザイン』は、この『ビジネスの未来』で、一度は絶望した私たちへのアンサーソングだった。
私たちには、まだ、できることがある。
というか、
私にしか、できないことが、ある。
『マイノリティデザイン』は、そのことを教えてくれた。
悩んでいたことの答えが、ここにあった。
この本、広告業界でバキバキ働いてらっしゃった著者さんが、目の見えないお子さんを授かってから触れたマイノリティの世界で気づいたことが書かれている。
その、弱さやマイノリティの世界こそ、社会の課題を解決するヒントの宝庫だった、という内容だ。
弱さとか、マイノリティとか、SDGsとか。
なんというか、普段の自分からちょっと遠いというか、そういうのちゃんと考えなきゃって思っているけれど、いまいま自分と関係ある感って正直薄かった。
でも、本を読んでわかった。
マイノリティって、あなたのことで、私のことだ。
人はみんな、何かにおいての弱者で何かのマイノリティである。
マイノリティであることが、世の中をちょっとあたたかくする発見につながるのであれば、私たちはみんな生きている意味がある。
自分もあなたも、みんなマイノリティ。そう考えることの先に、きっと分断のない世界も広がるのだろう。
「私って、社会の役に立っているのかな?」と感じたことがある人には、きっと刺さる。あなたは社会の役に立っている。
もちろん
「私の仕事を、社会に役立つものにしたい」と思う人には、物理的な教科書となる。たった一人のマイノリティのための(それは自分のためかもしれない)仕事を心がけることが、そのヒントになる。
あー。3ヶ月前に読みたかった。
いや、ひょっとしたら、3ヶ月モヤったあとだから、こんなに響いたのかもしれない。
遅くなりましたが、やっと出会うことができた、宝物のような一冊でした。
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つい最近、「これまでヘアライターとしてやった仕事で、印象深かった仕事を3つ教えてください」と聞かれました。
ひとつめは、医療用ウィッグのヘアカタログ。
ふたつめは、(流行発信地の表参道や銀座ではなく)地方にフォーカスしたヘアカタログ。
みっつめは、60代、70代のヘアカタログ。
と答えたのだけれど、この本を読んだあとハッとしました。
わたし昔、「マイノリティデザイン」の端っこのほうに、手を触れかけていたんだなあと。だから、あの仕事は楽しかったし、あんなにも喜んでもらえたのか。
また、あんな仕事したいな。あんな仕事を作ろう。
そんな気持ちになりました。
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それではまた、水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
telling, の本の連載でもおなじみ、ヘアライターとして20年近く活躍されてきた佐藤友美さんの新刊が発売になりました。 ファッションより、メイクより、人生を変えるのは「髪」だった! 本当に似合う髪型を探すためのヒント満載の1冊です。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)