本という贅沢151『Q&A Diary : My 5 Years』

さとゆみ#151 いつだって、問いは最高のプレゼントだね。2022年はこれで始める『Q&A Diary』

隔週にお送りするコラム「本という贅沢」。2021年も間もなく終わりを迎えようとしています。そんな今は新たな年に向けて、じっくり自分のことを考えてみるのはいかがでしょうか。きっかけを与えてくれる1冊を書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#150 意識低い私にも「やれそう感」ある『サステナ片付けできるかな?』

●本という贅沢151『Q&A Diary : My 5 Years』(編集・Potter Style、翻訳・住木美優 /海と月社)

人からもらうプレゼント。何が一番、嬉しいですか?

私がもらって嬉しいのは、今も昔も、お花です。
お花をもらうと、本当に幸せな気持ちになる。

枯れていくまでの時間も、その人のことを思い出せるから、もらったときだけじゃなくて、そのあとも幸せがじんわり続く。
この間会ったある人は、私が出版した新刊の本の色に合わせたお花を一枝持って、レストランに来てくれた。こういうのは、本当にどきどきする。
女性からもらうのも、もちろん嬉しいけれど、これが男性だったりすると、「お花屋さんで恥ずかしかったりしたかな」「どうやって選んでくれたのかな」とか思ったりして、もう、それだけでご飯何杯も食べられます(違。

大人になると、欲しいものは自分で手に入れたりするから、プレゼント選びって、どんどん難しくなるよね。
私自身も誰かに何かを渡すときは、「消えもの」がを選ぶことが多かった気がします。お花もそのひとつだけれど、チョコレートだったり、ワインだったり。バスソルトだったり、オイルだったり。

さて。そんな「消えもの」の中でも、これはもう究極のプレゼントだな、と思うのは「問い」です。

誰かから、何かを質問されること。
問いをもらうこと。
それはもう、最高のプレゼントだと思う。

最近では、大阪・梅田の炉端焼き屋さんで、ある先輩から「さとゆみさんは、何をモチベーションに文章を書いているの? 人の役に立つことをイメージしている?」という問いをもらった。あの日からかれこれ3週間経とうとしているけれど、今でも、その問いの答えを考えている。

そういえば、誰かの役に立つかどうかを考えながら書くことってあまりないかも。
自分の名前で書くときは、自分の気持ちの赴くままに書くから、「役に立つ」をモチベーションにすると、私はうまく書けなくなるかもしれない。
だけど、読んでくれた人に「役に立った」と言われたら確かに嬉しい。
ところで、誰かの役に立つってどんな状態だろう。
そもそも人間は誰かの役に立つために生まれてきたんだろうか。
赤ちゃんは誰かの役に立っているのだろうか。
寝たきりになったら役に立てなくなるんだろうか。
いや多分、そういった“物理”の問題ではない気がする……。

そんなことを考えながら、『こんな夜更けにバナナかよ』を書いた渡辺一史さんの、『なぜ人と人は支え合うのか』を読み返したりした。
答えは、まだ出ない。
私は、先輩からもらった問いのプレゼントを、何度も心の引き出しから取り出しては眺め考え、また引き出しに戻す。
また明日も考えよう。そう思って眠る。

「問い」が贅沢なプレゼントである理由は、普段一番ないがしろにしがちな「自分」に対して、思考のベクトルを向けさせてくれるからだと思う。
自分のことを考える時間をもらえる。

それが「問い」が内包する、プレゼント感なのだと思う。

人が、自分のことを「問う」てくれる人を好きになってしまうのもやはり、自分に向けられた矢印に愛を感じるからだろうと思う。
誰かに問いを投げかけるとき、私たちは彼/彼女のことを知りたいと思っている。私に問いが投げかけられるとき、彼/彼女が、私を知りたいと思ってくれているんだなと感じる。

そういえば、どうしようもなく惚れてしまうのは、男でも女でも、いろんな問いを投げかけてくれる人ばかりだ。

さて、そんなことを思っていたら、こんな本を見つけた。ぱらぱらっとめくって、うわこれ、絶対欲しいと思って家に連れて帰ってきた。

いや、これ、本、なのかな。
むしろ日記帳?

『Q&A Diary』は、1ページに1つの質問が書かれている。
たとえば、今日、12月16日のページには、「どうしてもやめられないことは何ですか?」という問いが書かれている。
即座に3つくらい答えを思いついて、うわ、人前で言えるモノは一個もないやと思って勝手に赤面してしまった。
たった数分、その問いを頭にめぐらせるだけで、普段あまりできない「自分のことを考える」時間を持つことができる。

質問の下には5年分の回答スペースがある。
同じ問いに対して、1年後、2年後はきっと違う答えを持つってことなんだろうな。
その、5年分の余白は、変わっていくであろう自分の未来を想像させる。
1年後の自分は(2年後の、3年後の……自分は)、同じ問いに対して何を思うのであろう。そう考える時間も、ちょっと贅沢だ。

毎日に問いかけをしているうちに、どんどん自分を知っていけるような気がする。それは、自分を好きになることにつながるかもしれない。

誰かと会う時に、これを持っていって、お互いに問い合うのも楽しそうだなって思う。「消えものプレゼント」の代わりにこの本を持っていったら、きっともっと仲良くなれるような気がする。

年末に、いいもの、見つけたって気持ちです。

それではまた、水曜日に。

 

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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

さとゆみ#150 意識低い私にも「やれそう感」ある『サステナ片付けできるかな?』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。