本という贅沢148『どこでもオフィスの時代』

さとゆみ#148 「どこで」「誰と」「何をするのか」。一番大事なのはどれ……?『どこでもオフィスの時代』

隔週水曜日にお送りするコラム「本という贅沢」。コロナ下で在宅勤務やリモートワークが定着し、「働く場所」について考えを巡らせている人も多いことでしょう。そんな今だからこそ読みたい1冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#147 2021年NO.1!ミステリーを読むような興奮度。なにこれ経済ってこういうことだったの? 『お金のむこうに人がいる』

●本という贅沢148『どこでもオフィスの時代』(みつめる旅/日本経済新聞出版)

驚くほどお金が貯まらないんですよ。
まあまあ働いているような気がするんだけど、めっきり、お金が貯まらない。
ブランドバッグなんか1個も持ってないのに、一体どこにお金が消えてるんですかね? ってその筋の方に家計を見てもらったところですね、

「引っ越ししすぎです」
と言われました。
そして、
「旅に出すぎです」
と言われました。
ついでに「コワーキングスペースにも通いすぎ」だそうです。

そっか……。たしかに、今の家、人生で15ヵ所目なんだよな。
そして、たしかにいつもふらふらしてる。
同じ場所にいられない。昨日の自分にすぐ飽きる。朝起きて空模様見て、「今日はどこで書こうかな」って考えて、その日の気分で、渋谷のコワーキングに行ったり、広尾の図書館に行ったり、家のベッドで書いたり、カフェや公園や海まで行って書いたりしてる。

近頃はリモート取材が増えたのをいいことに、東京にすら、いない。

最近出した本なぞ、構成は直島で考えて、「はじめに」は六甲で書いて、1章と2章は北海道、3章は徳島で書き、4章と5章は京都で書いた。で、ゲラチェックは横浜でやった。
このコラムで「移住女子」を取り上げたときは、まさに徳島の宿にいた。

昔は、「生まれ変わったらホテルの精になりたい」というくらい、ホテル好きだったのだけれど、最近はもっぱらAirbnb(エアビー)を借りる。その土地に行ったら、まず、精肉店と鮮魚店を探し、スーパーで卵とお米を買い、エアビーのキッチンで食事を作る。
ときどき、外に出かけて、アートを見たり、お寺に行ったり、銭湯に行ったりするけれど、だいたいは部屋にこもって仕事をする。

劇的に仕事が捗る。
生産性の向上による収入の増加と、ワーケーションすることで出ていくお金の勘定はまだ、したことがない。
仮にプラマイゼロくらいだったら、絶対ワーケーション過多な人生を選ぶ。
マイナスが多少こんでいるくらいでも、ふらふらいろんな場所で働く方を選ぶ。
相当マイナスになってるのなら、仕事増やしてでも、ワーケーションする。
コロナが落ち着いてきたら、日本じゃない国でもワーケーションしたい。
(うん。お金が貯まらないはずだ)

そんな私なので、発売日に買いました。
『どこでもオフィスの時代』。

この本の何が良いかというとね、このふらふら根無し草、フーテンの寅さんのような(telling,世代の皆様は知らないか)生活を、全肯定してくれるところですね。

山口周さんによれば「①どこで、②誰と、③何をするか」のうち、一番大事なのは「どこで」だという。

入山章栄先生によると「クリエイティビティは人生の累積移動距離に比例する」のだという。

ユニリーバ・ジャパンの人事の方は「パフォーマンスが最大化する働き方は、本人が一番知っている」とおっしゃってる。

まあ、こういう本だから、おもにワーケーションの良い方面をピックアップしているのは承知の上でだけど、やっぱり「いつでも・どこでも・働ける」ことは、人生の幸福度を上げてくれるよなという直感を、いろんなデータやインタビュイーの言葉が後押ししてくれる。

よく「仕事とプライベートを、どう両立させればよいか?」という人がいるけれど、仕事とプライベートは、これからもっと、シームレスになっていくだろう。お互いがお互いに影響しあって、つながりあって、どっちかを立てたらどっちかを捨てなきゃいけないものではなくなっていくはずだ。

面白かったのは、
A)「働き手」である立場でこの本を読むと、「自由な働き方」を手に入れることの重要性について書かれている
のだけれど、一方で
B)「働かせる側」、つまり、社員や部下がいる立場でこの本を読むと、「自由な働き方」をさせてあげられなかった場合のリスクについて書かれている
というところ。

私みたいにすでに、次の場所に行きたくてうずうずしている人(A)が読んだら、「うん、そうだよね、やっぱり」という答え合わせになるし、それはそれで背中をおされていいのだけれど、
逆に、「やっぱ、会社に出社して顔合わせてなんぼでしょ」という人(B)が読んだほうが、世の中は変わるんじゃないかなという気がする。

各章のラストに寄稿された山口周さんのコラムを読むだけでもモトがとれてしまう本だと思うので、働き方や働く場所について気になっている方は、ぜひ読んでみてね。

それではまた、水曜日に。

 

●佐藤友美さんの新刊『書く仕事がしたい』が10月30日に発売!

 

●佐藤友美さんの近刊『髪のこと、これで、ぜんぶ。』は発売中!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。


・捨てるか、残すか、その夫。1ミリでも離婚が頭をよぎったらこの本(原口未緒/ダイヤモンド社/『こじらせない離婚』)
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)

・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

さとゆみ#147 2021年NO.1!ミステリーを読むような興奮度。なにこれ経済ってこういうことだったの? 『お金のむこうに人がいる』
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。