【真船佳奈】#9 地上60メートルから飛び降りてみた【ぼっち旅】
●最高に楽しいぼっち旅をしよう!灼熱のタイ編
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リゾート地に行ったはいいけれど…
今回のタイ旅行は1日に3〜4記事の取材をするという、過去ナンバーワンの過酷さだった。おまけに気温38度以上。インフルエンザ時の体温のような酷暑の中、内部温度上昇でカメラも携帯も私自身もぶっ壊れかけながら這いずり回った。
タイの暑さをナメていた私が持っていた唯一の武器は、初日の遊園地で購入した「ひよこ扇風機」のみという、蝋で固めた鳥の羽で太陽に向かい飛び立ったイカロスのごとく死亡フラグバッキバキ状態であった。
そんな私に、編集担当が「1日ぐらいリゾート的なところに行ってもいいんじゃないんですか」と優しく声をかけてくれ、向かったのがパタヤだった。
タイからバスで2時間半、陸路でいけるビーチリゾート。
この酷暑も海風が伴えば少しは爽やかに過ごせるだろう、そんな優しさからの言葉だとその時は思っていた。
「バンジージャンプしてきてください」という言葉を聞くまでは。
高所恐怖症
私は軽い高所恐怖症。
どうして恋人たちが高いところでプロポーズをするのかわからないし、サプライズで夜景の見えるホテルの高層階を予約された日にゃ、(タワーリングインフェルノみたいな火事になったらどないしよ…)と思っておちおち眠れない。 そんなサプライズされたことないけど。
東京タワーでは一部ガラスになっている床面があるが、そこに一歩足を踏み出す時はもう「日本の建築技術にどれだけ信頼を置いているかの踏み絵」をさせられている気分である。
バンジージャンプも、その国の技術をいかに信頼できるかを命をかけて証明する儀式みたいなところがある。
実際、「バンジージャンプ 死亡」で検索するとワンサカ怖いまとめ記事が上がってくる。
ここは信頼と安心の地・日本ではない、微笑みの国タイランド。
万が一、バンジージャンプの設備不良で死んでも、微笑んで終わる可能性はゼロじゃない。
編集担当の無茶振りではあったが2回目の訪問であるタイ、滞在も4日目。ちょっと好きになりつつあるこの国に命を預ける価値はあるのではないかと思いつつ、バンジージャンプ場へ足を運んだ。
歯のないオッサンの運転するタクシーでやってきたのは、パタヤバンジージャンプ。
ご覧の通り、下は池である。多分水深30センチくらい。
こちらのゴンドラに乗って地上65メーターの頂上まで行き、ジャンプするという仕組みだ。
料金は2500バーツ。日本のバンジージャンプに比べると安いが、どうしてこんな辛いことに1万円以上かけて挑もうとしているんだろうか。「飛べない豚はただの豚だよ!」と女王様にカツアゲされている気分。ブヒイ。料金を支払った後、さらに「死んでも自己責任です」的な書類にサインする。そうです、自己責任です。 ブヒイ。
まず、荷物を全て預け、体重を測定する。
そして手に油性マジックで何やら数字「65」を記載される。
「地上65メートルって意味かな?^^」と思っていたが体重を書かれただけだった。絶対そんなにない。私の体重はりんご3個分のはずだ!
屈辱的だが、足につけるゴムの長さを調整するために必須な数字。ここで「もっと軽いはずです!」とクレームを付けて死んだら元も子もない。
足にぐるぐるとゴムバンドをくくりつけられ、凧糸を巻かれる焼き豚のような気分に。そしてついにめちゃくちゃ頼りないゴンドラへ。
ゴンドラには経営者の男性と、その子ども(4歳くらいの女の子)と3人で乗り込む。地上では、なぜかさっきのタクシーの運ちゃん(歯がない)が見守ってくれている。もしここで死んだら、このおっさんが私の最期を見届ける生き証人になってしまう。
地上65メートルの絶景。美しい青空がどこまでも続き、潮風が頬を撫でる。
過酷な取材を忘れて、1日だけビーチリゾートでのんびりしたかった。
なのに、なぜ私はこんな、体当たり芸人のような真似を…?
スタッフのおっさんに「ゆっくりと手を離す」ように指示される。
私は目をつぶり、ゴンドラにしがみついていた手をゆっくりと離し、
震える手を精一杯広げた。さながら、タイタニック号のあのシーンのように。
静かに、「タイムウィルゴーオン」が流れ始める……
ドンッ
ジャアアアアーーーーーーーック!
コンマ2秒で突き落とされる私。一瞬で沈没した私の中のタイ
一緒にゴンドラに乗っている間、一度も感情を表に出さなかった子どもが興味深そうに私の落下風景を見ている。どんな英才教育。
落下風景を見てみると、案外余裕そうで「あら奥さん、私落ちちゃったわ!」みたいなポーズを取っている。舞台SHOCKで客席上を浮遊する堂本光一くらいの風格がある。
しかし実際の私は声を出す余裕もなく、蚊の鳴くような声で「もうやめてえ…」とつぶやいていた。ゴムバンドはそんな私の気持ちを知ってかしらずか、「今日も伸びるぞーーーーい!縮むぞーーーい!」とやる気満々、聞く耳持たずである。
バンジーの恐ろしさは、ゴムが伸びきった後、また浮上する点である。
なんどもなんども地上に跳ねあげられ、「ゴムに命を弄ばれている」、そんな気がした。
ちなみにこれはオーストラリアでスカイダイビングをした際の写真だが、空中では加工アプリも無力、墓場に持って行きたいくらいブスな写真が撮影できる。
いろんな意味で死にそう。
地上では私の救出活動が開始されていた。
地獄のバウンドを終え、やっと地上に降りてきた私をスタッフたちが「空から焼き豚が降ってきたぞ〜」みたいな表情で迎えてくれた。
スタッフさんに手を取られた瞬間、空中ブランコで相手にキャッチしてもらえたような気分になった。
こうして人生初のバンジージャンプを終えた。地上で待っていた歯のない運ちゃんに拍手で迎えられた時に、思わず涙ぐみそうになったが、その後しっかり延長料金を取られた。なんなのマジで。
「人生観が変わる」「楽しい」という感想を持つ人もいるそうだが、とりあえず私は「飛び降り自殺だけはやめよう」という気分になったので、自殺防止策にはいいんじゃないかと思った。
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