行こうぜ!性別の向こうへ

外資系サラリーマンからスナックのママに。レイちゃんママが「女」になるまで

外資系企業のサラリーマンから一転、スカートを履いてママになったという。スナック「浅草ロゼ」を経営する愛川礼依さん(以下レイちゃんママ)に、前回に続いてお話を伺います。今回は彼女が自分の性を認識した過程について、またお店を開くまでの経緯を聞きました。

●行こうぜ!性別の向こうへ

体の性別、心の性別

前回の記事で彼女のセクシュアリティについて気になった人もいるかもしれない。女性と結婚したことがあり、女性として生きている、という人に出会ったのは私自身は初めてだ。 
「浅草ロゼ」のブログには、「LGBTについて最低限知っておきたいこと」と題したエントリーがある。そこで彼女は自身について、体の性別は男性、心の性別は女性、好きになる相手は男女両性だと公表している。

彼女はMTF(Male to Female=身体は男性で、性自認が女性)のトランスジェンダーで、バイセクシャルだ。「この記事ではどのように表現したらいいのかなあ」と聞くと、「MTFって言っても伝わりにくいでしょ? ニューハーフでいいよ」と言った。呼称に対する感覚はきっと人ぞれぞれだろう。

レイちゃんママは東京マラソンで42キロを完走したことがあるそう。

「性」はグラデーション

近年では性は男女という単純な二項には分けられないことが知られている。性は区切りのあるものではなく、グラデーションのようなものだと表現されることが主流だ。たとえば文部科学省による科学研究費助成事業の「新学術領域研究」分野では現在「性スペクトラム」の研究が進められている。

そこでは以下のように見解が述べられている。

種々の実験動物を用いた私たちの研究でも、ややメス寄りの性質を示すオス、逆にオス寄りの性質を示すメスなど、典型的な雌雄の間に位置する様々な性の表現型が見出され始め」、そのことから「これまでは二項対立的な表現型と捉えてきた雌雄を、連続する表現型として捉え直すことによって、上記の事象を含めた性に関する様々な現象を統一的に説明できるのではないか

すでに男と女という二項では人間を分けることができないことが明らかになっている一方で、社会の仕組みはまだまだ追いついていないのが現状だ。レイちゃんママが退職を余儀なくされたのは、会社のトイレが男女別になっていたことが原因のひとつだが、これは日本だけの問題ではない。アメリカでは、トランスジェンダーの人は男女どちらのトイレを使うべきかで論争になった。

次第に自分は女だと感じるようになった

思い切ってレイちゃんママに、ずばり聞いてみた。

――レイちゃんママはいつ自分を「女」だと思ったんですか?

レイちゃんママ: うーん、だんだんかなあ。小さい頃から女の子と遊ぶことが多くて。中1の時には高3の男性の先輩と付き合ってた。でも18歳くらいで女性から告白されて付き合ったこともあったしね。美しいものになりたいとか、変身願望はあった。それである時に新宿の女装バー(女装バーは全国にあるそう)に行ってみたんだけど、そこでメイクしてもらった時に、「あれ、これ変身願望だけじゃないな」って感覚があって。自分は女なのかなと考えるようになったね。

――じゃあ働いている頃に気づいたってこと?

レイちゃんママ: そうだね。若いころはユニクロを着て中性的な格好をしてた。昔のユニクロってユニセックスがコンセプトだったんだよね。だから愛用してたよ。あとコンビニ時代は髪を伸ばしてポニーテールにしてたり。

――前にサラリーマン時代の顔写真見せてもらったけどすごいかっこいい感じだったような?

レイちゃんママ: あ、これでしょ?(サラリーマン時代の写真をケータイで見せてくれた。眼鏡に短髪の男装)まあ普通にモテたよね。でも女装した時にもモテたよね。ある時に体の性別を隠して、女としてどこまで通用するかってやってみたら、他人から全然気づかれなかった。だからなんとなくこっちの世界でもやっていけるんじゃないかっていう自信はあったよ。

お店の看板娘。共同経営者であるケイちゃんママは犬のほかにトカゲも飼っているとか。「この子はおとなしいからお店でも大丈夫」

会社に雇ってもらえない

外資系企業をやむなく退職した後、女性社員として働ける会社を探したレイちゃんママ。しかしトランスジェンダーに理解のある企業はなく、履歴書の写真と名前のギャップで門前払いされた。会計士補として働くことを諦めてパートを探すが、ここでも断られる。経歴がオーバースペックだというのだ。

「もうこれなら飲み屋か風俗しかないな、と思った。その時もうちょっと若かったら風俗に行ってたね」
ニューハーフとして銀座の店でデビューしたものの3カ月で店が閉店。浅草のフィリピンパブで「あさりちゃん」として働くことになった。
「浅草に出てくるときに男物の服はぜんぶ捨ててきたよ。お店では立ち居振る舞いを基礎から教えてもらってありがたかった。でもここも閉店しちゃって」
2011年3月の東日本大震災の時の自粛ムードで客が激減。店がつぶれてしまったのだ。

「それで自分のお店を作ることになった。でも資金が足りないからケイちゃんママと半分ずつ出して共同経営することにしてね」

2011年9月、ついに「浅草ロゼ」が開店した。

続きはこちら「レイちゃんママが目指す、居心地のいいオンリーワンの店」

  • スナック女子が飲めて歌える憩いの場「浅草ロゼ」
    〒111-0035 東京都台東区西浅草2-2-1 NATビル201
    080-5432-8503
    http://asakusarose.com
フリーランスライター。元国語教師。本や人をめぐるあれこれを記事にしています。
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