あの日モテたかった私へ
●telling,Diary ―私たちの心の中
あの日モテたかった私へ
20代前半、ハチャメチャにモテたかった。
まだ男と女、どっちを好きかなあってところを行き来はしていたけど、もっぱら女性にモテたかった。
モテるためにはどうすればいいか、若き日の私が真摯に考えた結果は、日本一のゲイタウン・新宿二丁目に行くことだった。
まずは誰かに会わなければ。同じ「女が好きな女」という属性の人に。
そうして新宿二丁目という、人間関係という名の泥を血で煮詰めた深い沼に足を踏み入れ、悲喜こもごもを思う存分味わいました。
最初は本当にモテなかった。友達すらなかなかできなかった。
なんでかというと、ノンケだと思われていたんですね。
ノンケというのは異性愛者のことです。
異性愛者の女が冷やかしで遊びに来ていると思われて、声すらかけられなかった。
かろうじて自分から声をかけても、その場限りで終わってしまう。
しかし、女性だけが入れる「レズビアンパーティー」に足繁く通ううちに、だんだんと顔なじみができて、どうにかまずはお友達ができました。
その友達にも散々相談しました。どうやったらモテるだろうかと。
一人でぼんやりお酒を飲んでいても、ナンパもされないよと。
もしや服装やメイクがおかしいのか、そもそも顔面レベル的にビアン界では下の下なのか、とおしゃれしたりメイク変えたり髪形変えたり工夫もしましたが、あんまり効果もなかった。
そうこうしているうちに、二丁目とは関係ないところで素敵な出会いがあって彼女ができました。
すると、不思議なことに今まで私に興味なさそうにしてた人たちから、お声がかかるようになりました。
あ、これインターネットで見たり人から聞いたことあるやつだ!と思ったよね。
「誰かと交際し始めるとモテる」神話。
決まった相手ができると、余裕を感じる雰囲気になりガツガツしなくなるので、魅力的に見えてモテるという理論。
彼女が私の承認欲求を満たしてくれている間は、私は周囲から「心に余裕のある、落ち着いた人」に見えていたのでしょう
その彼女とお別れした後、お察しの通りまたしても「モテない期」がやってきます。
この頃にはもう私にも、それがどういう現象か理解できていました。
私は「愛し愛されるパートナー」ではなく、自分の孤独や寂しさ、承認欲求を埋めるための相手を探していた。
そしてその姿勢は、「寂しさを抱えた人」以外には魅力的には映らない。
私は寂しいの、孤独なの、それを埋めてよ!私を認めて、全部肯定してよ!と口に出さずとも心で叫んでいた私は、同じように埋まらない心の穴を持つ人を選んで互いに傷を舐め合いました。
その行為が、本当には自分を満たしてくれないことだと知りながら。
その傷の舐め合いに心底うんざりし、こんなことには何の意味もないと全てを投げ捨てたあと、しばらく誰とも付き合いませんでした。
誰かに自分を肯定してもらうことよりも、自分で自分を好きになりたい。
もう他人の気持ちばかり優先したくない。
自分を嫌いだ、最低だ、と否定したくない。
旅に出て、自然の中に身を置き、海の声やら風の声だけを聞き、朝起きて夜眠る日々を過ごしました。
旅先で出会ったその場限りのお友達。二度と行かないかもしれないローカルな場所。
気を使わなくてもいい「よく知らない人」に思い切り自分の気持ちを語りまくったのが、一種のセラピーになったのかもしれない。
私は、誰かに認められるよりもまず、自分で自分のことを大好きでいたい。
誰かに気を使って自分を蔑ろにしてしまうくらいなら、もう恋人なんていらない。
自分が自分でいられないのなら、このまま一生独り身で構わない。
恋人にすべてを丸投げにするのではなく、自分のことを自分で思いっきり愛して大切にしたい。
心の底からそう思えたことで、私の人生観は激変したのだと思います。
そうしてゆるい気持ちになり、自分のことを大好きだと思えるようになって、今の妻と出会いました。
今の私はモテてるかモテてないか、わからないけど、誰かにとって「心に余裕のある落ち着いた人」に見えるだろうなとは思う。
その余裕の半分は私が私自身に与えたものであり、半分は妻がくれたもの。
満たされている人がモテるのであり、結局は自分で自分を満たしてあげることが大切。
モテたくて、愛されたくて、孤独で震えていた若き自分に伝えたいのは「まずは自分と向きあえ」の一言に尽きる。
自分を信じると書いて「自信」と書くのだから、愛される自信が欲しいならまずは読んで字の通りにすること。
自分を信じて、愛して、大切にする。
その上で自分と同じくらい大切にしたいと思えるなら、思い切り愛してぶつかってみたらいいよ。
無駄なことなんて何もなかったって、後になってちゃんと思えるから大丈夫。
今は幸せで楽しいことばかりの私より。
自分を嫌いで泣いてたあの日の私へ。
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第7回木を育てる
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第8回パッションのある生活
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第9回あの日モテたかった私へ
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第10回地面に感謝
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第11回体を触って名前を呼んで