さとゆみ#132 世の中の見え方ががらりと変わる。昨日と違う今日がくる。「生命科学的思考」
●本という贅沢132 『ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考』
(高橋祥子/ニューズピックスパブリッシング)
久しぶりに1行目からおわりに至るまで、100ヶ所以上ライン引いちゃったよ。
最初から最後までもれなく素晴らしいから、私のコラムなんか読んでる場合じゃなくて、「とにかく書籍を買って開いてほしい」以外のコメントが思いつかない。
でも、それだと仕事放棄なので(原稿料も貰えないので)、なんとか歯を食いしばって書きます。
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書籍にはいろんな役割があるけれど、なかでも私が最高峰だと思うのは「本を読む前と後では、世界がまるで違って見える」境地に連れて行ってくれる本です。
これまでこのコラムで紹介してきたものの中では
『私とは何か 「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎)
や
『FACTFULNESS』(ハンス・ロスリング)
がそうだったりするのだけれど、
この本もその類で、本を読む前の自分にはもう戻れないタイプのソレだと思う。
この本で何度もリピートされているのが、「生命原則を客観的に理解した上で主観的に活かす思考法」なのだけれど、これって「そうか、この見方をしたことは一度もなかったなー」ってモノでした。
たとえば宇宙の起源とか、進化の過程とか、ゲノムとかDNAとかRNAとかね、そういう視点からものごとを考えるんだよね。
うん、そんな観点からものごとを考えるなんて、想像したこともなかった。だからほんと、読んでいて何度もびっくりしたんですよ(語彙
なんと言えばいいかな。
これからこの世の中を生きていくにあたっての、武器がひとつ増えたって感じ。
たとえば、幾何学の問題を解くときに、補助線の存在を知ったときのような。突然、解ける問題の数が桁違いになった感覚になる本だったよ。
ちょっと抽象的だよね。
個別具体の話をすると、私は、この10年くらい、「問いのプール」というものを身体の中に飼っています。
生活をしている中で、「???」と思ったことは、問いの大小にかかわらず、いったんそのプールに投げ込んできた。
プールの中には、10年前に投げ込まれた問いもあるし、つい数時間前に仲間入りした問いもある。
のちに、プールから引き上げてひとまず暫定解を与えてみたものもあるし、誰かが回答をくれたものもあるし、投げたことすら忘れてしまった古い問いもある。
それが、ですよ。
そのプールの中に、割と長いこと沈んでいた問いがね、この本の「生命科学」というアプローチで切り込んだ結果、するっと氷解したり、少なくとも考え方の糸口が見つかったりした。
たとえば、
・思考することそのものに、なぜここまでエクスタシーを感じるのか?
とか
・情熱が薄れた時、どうすればやる気は戻ってくるのか?
とか
・いつか終わるとわかっているのに、なぜ人は恋に落ちるのか
とか
・物事に対する解像度をあげると、わくわくしなくなるのはなぜか
とか
・あの人、嫌いって感情、本当は邪魔。なぜ人はネガティブな感情に心を揺さぶられるのか
とか
・運が良い人と悪い人の違いは何か
とか
・多様性の推進は、孤独を助長するのではないか
とか
・目的地を決めるのが先か、歩いた先に目的地が現れるのか
とか……etc.etc.
どれもこれも、この本を読むことで、解にするっと近づいた。何年も何年も考え続けてきたというのに。
なかでも、これからの人生にどえらい影響を与えてくれるだろうと思ったのが、
①視野と
②時間軸と
③覚悟
に対する考え方だ。
視野の範囲を自分で自在に動かせるようにする。この思考法をインストールすると、「卵が先か鶏が先か」という議論に、簡単に答えが出るという。(この答えの導き方、読んでいてすごく気持ちよかったので、ぜひ本書で。ここではネタバレやめます)
時間軸の考え方をインストールすると、
今、この瞬間を楽しむべきか。
未来のことを考えて、今、あえて苦しみを選択すべきか。
ここにも解が現れる。
そして、ものごとを完遂するために必要な力は、「完遂することを決めておく」覚悟であるということ。そして過去の決断を改竄しないこと。
これまで、肌感覚で捉えていたことが、実像になって立ち現れてきた感覚だ。
とくにこの3つは、一生使っていく思考法だなあと思う。
いま、私の頭の中には、RPGゲームの音楽とともに、こんなテキストが浮かんでる。
サトユミハ 「セイメイカガクテキシコウ」ヲ ヨンデ アタラシイ ブキヲ テニイレタ
アナタモ イカガ デスカ?
それではまた、水曜日に。
●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!
『女は、髪と、生きていく』
著:佐藤友美
発行:幻冬舎
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佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
・病むことと病まないことの差。ほんの1ミリくらいだったりする(村上春樹/講談社/『ノルウェイの森』)
・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)