telling, Diary ~ふかわりょうさんを読み解く1~

女性との距離感はトラウマから? 理想の夫婦像は「梅酒」 ふかわりょうさんの青春

「telling,」が始まって以来、1年9カ月続いたふかわりょうさんの連載コラムを振り返りました。全45回のコラムから見えてくるふかわさんの「頭の中」を、「結婚」「社会」「心の中」の3つの切り口から探ってみました。

いま、テレビをつければ「お笑い芸人」の姿を見ない日はありません。クイズ番組の回答者には「高学歴芸人」が引っ張りだこ。バラエティー番組のMCでもお笑いタレントが席巻しています。ミレニアル世代からすると、「エッ、お笑いタレントだったの?」と思うかもしれませんが、「telling,」でコラムを連載していたふかわりょうさんもその一人です。連載『プリズム』が12月に終了したのを機に、全45回のコラムから見えてくるふかわさんの”頭の中”を、「結婚」「社会」「心の中」の3つの切り口から探ってみました。

女の子の視線:「男なのにマニキュアつけてる、気持ち悪い~」

1974年生まれ、神奈川県横浜市港北区出身。慶應義塾大学経済学部卒業。経歴をみると、誰もがうらやむような青春時代を想像するでしょう。高校生や大学生の前半は、バブル景気で日本中が浮かれていた時代です。六本木で深夜、タクシーを止めるために1万円札やタクシーチケットを振ってやっと止めたというのもよく聞く話です。ただ、『プリズム』を読んでいくと、そんな時代とはちょっと違ったふかわさん像が見てきます。

2018年12月7日に公開された19回目の『女子たちの目』には、こんなエピソードが書かれています。

「ねぇ見て、男なのにマニキュアつけてる、気持ち悪い~」

読唇するまでもなく手に取るように伝わってきます。女子のヒソヒソ話ほど怖いものはありません。今だったらむしろ、「あの少年、美意識が高いのかしら」とポジティヴな考えも浮上するかもしれませんが、当時は、なんならピアノを習っていることすら男子はひた隠しにしていた時代。それほど目立つ色ではなかったのですが、必要以上に輝く指先に、敏感女子たちは逃がしてくれません。きっと電車を降りても、「今日電車でマニキュアつけてる男子がいたんだよ」と瞬く間に拡散してくれたでしょう。SNSがなくても女子たちの拡散力は凄まじいものです。「プリズム」19  女子たちの目

これが一つのトラウマになっているのかもしれません。

叔母の家でマニキュアを遊びで付けていたのが残っていて、その数日後、電車に乗っていると同じ小学生ぐらいの女の子たちがヒソヒソ話で話していたのが聞こえてきたときの心境をつづったものです。

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『女子たちの目』の後半には、中学生のころ自分の何げないしぐさが、女の子たちの鋭い視線を浴びてしまったことが書かれています。「好きな子とは恥ずかしくて話せない」けれど、「休み時間を図書室で過ごすような女子」とは自然と話せたそうです。

「うわ、髪触ってる、気持ち悪い〜」

手に取るように伝わってきました。いわゆる「白い目」の類。一瞬、どうしてそのような視線を向けられるのかわかりませんでしたが、すぐに汲み取りました。男兄弟の末っ子で女性のルールがよくわからない私にとって、トラウマになるくらい女性の髪は大切なものなのだと気付きました。それからというもの、よほどのことがなければ女性の髪に触れられなくなりました。髪だけでなく、女性に触れることへの抵抗も生まれました。「プリズム」19  女子たちの目

今、ふかわさんの「デリカシー」は、このときの経験から形成されているそうです。ただ、「女性の髪に触れたことがないわけではない」とも付け加えています。

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ファミレス:「思い出の場所はこれからどうなってしまうのか」

「彼女と呼べる存在ができた高二の夏」の思い出が2019年2月15日の『潮の香り』に書かれていました。

「じゃぁ、着替えたら出てきてね」

葉山というと一色海岸が有名ですが、高校生のカップルが降りたのは森戸海岸。彼女の住む吉祥寺の丸井でふたりで選んだ水着。大きな浮き輪を膨らませてはしゃぐ、初めての海デート。すっかり日に焼け、クタクタになったふたりを乗せ、バスは夕日に染まる葉山の街を走ります。やがて、自分の運転でも訪れるようになりました。

「ここすごく綺麗だね」

南国風の建物。それは、ファミリー・レストランのデニーズ。海岸沿いに立つそれは、入口こそ椰子の木が並んで南国風ですが、中に入ると窓から広大な海が望め、まるで地中海にでも来たかのような気分。それから度々訪れていましたが、最近はめっきり足を運んでいませんでした。「プリズム」23  潮の香り

ミレニアル世代なら、「葉山」と聞いて、ふかわさんも訪れていた森戸海岸での音楽イベントを思い浮かべる人が多いでしょう。そんな海岸を臨むファミレスに、「なんでそんなに執着するの?」と考えるのが令和の時代では一般的な反応かもしれません。80年代や90年代前半に青春時代を過ごした人たちからすると、「このこだわりがわからないのか」と言われるかも知れません。

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特徴の一つに相模湾が一望でき、晴れていると富士山が見える開放的なテラス席がありました。当時、デニーズは店舗によって凝った作りをしているところがありました。東名高速と首都高速3号線と環状八号線の交差点近くに通常「アメリカ村」というアメリカンな雰囲気を醸し出したレストランが3軒あり、最後まで残ったのがデニーズ用賀店だったのです。そこも、2012年5月6日に惜しまれながら閉店しています。

ふかわさんが惜しんでいたのは「葉山森戸店」ですが、エッセイの後半に閉店間近の様子をこんなふうにつづっています。

「今日はここなんですね」

おそらく常連であろうタクシー運転手に声を掛ける女性スタッフ。モーニング・メニューを注文し、しばらく朝日に照らされる地中海を眺めていると、あっという間に席は埋まっていきました。

「お待たせしました!」 目玉焼きとベーコンと、パンケーキ。あと3日となったデニーズは、朝から賑やかな音に包まれています。あちこちから聞こえるシャッター音。みんなにとっての思い出の場所は、これからどうなってしまうのか。

「まだ、わからないんです」「プリズム」23  潮の香り

こんな自然なやりとり、いいですよね。

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プレゼント:「モノに罪はないけれど、バレてしまったら罪」

ふかわさんのバックグラウンドを少し知ったうえで、女性との距離感や世界観をみていきましょう。2019年3月29日の『女は罪?』には、別の切り口で恋愛観や結婚観が書かれています。

「モノに罪はない」

これは、一般的には、元カレや元カノからもらったものを、新しいパートナーができてからも使用することの是非を問われた時にしばしば口にするフレーズ。人によって意見の分かれるところですが、あなたはいかがでしょうか。「プリズム」26  女は罪?

この「モノに罪はない」という言葉、いつの時代にも使われる言葉ですが、スマホでポチッとすれば簡単に第三者に有効活用してもらえる時代になりましたので、ミレニアル世代が考えるこの言葉の響きはちょっと違うのかもしれません。

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今は友達関係だからと、元カレと連絡をとったり、普通に食事に行く人もいます。現在の彼に悪いから、元カレとは一切関わらないという人もいるでしょう。「プリズム」26  女は罪?

こう並列で例示したあとで、ふかわさんはその人の「姿勢」が問われるかもしれないと指摘しています。そして自分の考えをこう表明しています。

私はというと、「そうなんだ、素敵な指輪だね!元カレ、センスがよかったんだね!」なんて余裕を見せたいところですが、なかなかそこまで寛容になれません。もし使うなら、バレないように使ってくれ、という感じです。モノに罪はないけれど、バレてしまったら罪。隠していたことが罪。「プリズム」26  女は罪?

ふかわさん、この1週間前に『ようこそ、不寛容の国へ』というタイトルの原稿を出していますが、人間、すべてにおいて寛容となれないのは宿命のようです。

夫婦で自撮り:「嫁グラフィーは、嫁の安売り」

令和元年の今年はお笑い系タレントさんたちの「結婚ラッシュ」だった印象があります。山里亮太さん、安藤なつさん、バカリズムさん……。ふかわさんはというと、結婚する前から、こんな不安を抱えているようです。

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2019年6月7日の『嫁自慢できるかな』では、カメラ付き携帯、そうスマートフォンの普及やアプリの進化、SNSの登場で、どこでも誰でも写真や動画を撮ってネット空間に共有できる時代になったことによるある現象を嘆いています。

結婚もしていないのに、すでに不安に駆られています。それは、嫁自慢できるだろうか、ということです。

「嫁グラフィー」なるものが昨今のSNSを賑わせているようです。自分の奥さんを綺麗に撮ってSNSであげる。海辺でヴェールをかぶせたり、川辺でヴェールをかぶせたり。本心なのか、気を遣ってなのか、「綺麗な奥さんですね!」なんてコメントが寄せられて。自慢しているつもりはないかもしれませんが、自分にもできるだろうか。「プリズム」31  嫁自慢できるかな

ふかわさんの世代にとって、レンズを自分に向けるときは、ボケでしかなかったと言います。そして、「大切なもの」への価値観としてこう続けています。

大切なものはSNSであげたくないと思っているので、どんなに綺麗に撮れても、SNSにあげた段階で安売りしているような気がしてしまいます「プリズム」31  嫁自慢できるかな

遠吠え:「結婚はするかしないかで、能力と関係ない」

読み進めていくと、ふかわさんが、女性との距離感についてとても思慮深いという印象が読む側に刻まれていきます。ふかわさんの結婚はあるのでしょうか? それはいつか? そう考える人も多いと思いますが、2019年12月6日の『遠吠え』では、自分のスタンスを明確に宣言していました。

いまや所属事務所で最年長の独身。実家に帰れば「そろそろ身を固めろ」と言われたものですが、今では誰も触れなくなりました。まるで不発弾。私自身も周囲に気をつかわせてしまうので、ご迷惑をおかけして申し訳ない気持ち。子育ての悩みや、子どもの写真を見せ合ったりしている周囲に遠慮されるのも嫌だし、気を使われなさすぎてもなんだか。

ただ、これだけは言わせてください。もう「結婚できない」と言う表現はやめましょう。「プリズム」44  遠吠え

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「負け犬の遠吠え」と受け取られるかもしれないリスクがあるけど、こうつづった理由には、こんな考えがありました。

結婚は、できるかどうか、ではなく、するかしないか。「能力」とは関係ない。「プリズム」44  遠吠え

人口減少や少子化、不妊治療支援、子育て支援……。結婚や妊娠・出産にからむニュースや施策が日本の行く末を左右するほどの大きな課題となり、それにプラスしてテレビやネットニュースでの芸能人の結婚報道があふれています。ふかわさんはテレビの帯番組のMCをしつつもテレビの芸能人結婚報道に「時代錯誤な表現に落胆しています」と書いています。正直で、ぶれない男。そんな印象を読み手に与えます。

でもふかわさん、2018年4月13日の『不都合な真実』の中で、こんな愛らしいことをつづっていました。

2人の兄のおかげで、甥や姪たちと触れ合う機会があるのですが、あまり子どもに強い関心を抱いていない私でも、孫と遊ぶおじいさんのように何でも言うことをきいてしまいます。そんなふうに彼らと接していて感じることがあります。それは、「男って、ほんとバカだな」ということ。

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ふかわさんの理想の夫婦かも?

ふかわさんの理想の夫婦像を類推させる記事を見つけました。2018年11月9日の『夫婦は梅酒のように〈前編〉』です。

「ちょっと待ってて」

車は、酒屋さんの前で停まりました。ここで地元の梅酒を調達。旅先での梅酒チェックは欠かせません。旅館に着いたら飲む気満々なのです。

「お待ちしておりました」

温泉街を抜け、山あいの道を進み、奥湯河原の旅館に到着したのが14時。部屋に案内されるやいなや、空いているタイミングを狙って温泉へ。ほんのり色づき始めた山々を眺めながらの露天風呂。すっかり火照った体を浴衣で包み、さぁ梅酒祭りが始まります。「プリズム」17  夫婦は梅酒のように〈前編〉

ご両親の結婚55周年を祝うエメラルド婚で、車を運転し、静かな温泉旅館で過ごした小旅行をつづっています。行間から愛おしさが伝わってきます。

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ふかわさんの世界観が伝わる連載エッセイ『プリズム』はこちら。年末年始、ちょっと空いた時間に訪れていただければ幸いです。、みなさんの生きるヒントになるかもしれません。

▼珠玉の45本を振り返る「ふかわりょうさんを読み解く」シリーズ、『社会』編、『心の中』編と続きます。お楽しみに。

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。