telling, Diary ~ふかわりょうさんを読み解く3~

「自分の代わりがきかないなんて幻想」 余白がある世界を願う ふかわりょうさんの心のひだ

ふかわりょうさんが1年9カ月にわたってミレニアル女性向けサイト「telling,」で連載したコラム『プリズム』。全45回のコラムから見えてくるふかわさんの”頭の中”を、「結婚」「社会」「心の中」の3つの切り口から探ります。第3回は「心の中」編です。

マルチな才能を持つふかわりょうさんが、2020110日から新番組『ふわっとバラエティ ふかわりょうのフニオチナイト』を始めます。自虐ネタのお笑い芸人から、DJ、ミュージシャンと幅を広げ、最近はテレビの帯番組のMCとしても知られてきました。201912月まで19カ月にわたり「telling」で連載した『プリズム』を読んでいくと、ふかわさんの芯とも言える「内面」が浮かび上がってきます。 

便利なネット検索の結果がすべてではない

 web編集をしたり、webに記事を書いたりする人たちは大なり小なり気にしているのが、記事のキーワードやトレンド、タイミングです。Googleトレンドで「ふかわりょう」を調べてみると、201987日~17日にスカイツリーのように人気度の最高値「100」を示しました。ストーカー事件の被害者として名前が報道された時期です。都道府県別の人気度では「秋田」がダントツで、次いで「神奈川」「徳島」「栃木」「山口」です。 

googleトレンドの画面

Google検索で「ふかわりょう」と入力すると、第2検索キーワードとして「ネタ」「自宅」「ピアノ」「ラジオ」「ブログ」「高校」「アイスランド」が出てきます。

 これらは、あくまでも検索する人たちがふかわさんの何を知りたいか、の結果であり、ふかわさんの横顔や思考の全体像を表しているわけではありません。むしろ第2検索キーワードのイメージでとらえてしまうと誤認してしまうことさえあります。 

googleの検索画面

炎上動画製作者の「正義」

 201931日の『炎上猛』では、ネット民の「正義」への違和感について、炎上動画を世に送り出している元CMディレクターの男性との会話をベースに自分の価値観をにおわせています。下記は男性が言った言葉だそうです。 

「どんなCMでも、必ずクレームが来る。今や、目玉焼きに醤油をかけただけで電話が鳴る。せっかく時間と労力をかけてもお蔵入り。よくわからなくなってね。時代を憎んでもしょうがないですから」(※元CMディレクターの言葉です)

「非常に楽しかったですよ。ネットに上げればたちまち大炎上するわけですから。炎を恐れていた僕が、今ではキャンプ・ファイヤーを楽しんでいる、そんな感覚かな」(※元CMディレクターの言葉です)

「ネットなんて玉石混交。噓から出た誠なんていうのもある。何が真実で何が偽りかなんて、誰にもわからない。そういうところから始めないと」(※元CMディレクターの言葉です)「プリズム」24 炎上猛

ふかわさんは、なぜ、至るところで炎上が起きるのか、この男性に尋ねています。そこで出てきた言葉が「けしからにすと」。何のことかピンとこない人も多いと思います。

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ふかわさんはエッセイの中で、こう解説しています。 

世の中には、「けしからん!」と言いたい「けしからにすと」たちが一定数いる。彼らは常に「けしからん」と言うタイミングを待っている。炎上の燃料は彼らの正義心。炎上氏の作品は、彼らにとって、ご馳走なのだとか。「プリズム」24 炎上猛

 この回のエッセイは、最初から最後までこの男性との会話でつづられています。その多くは、この男性の価値観を紹介するものです。 

「その瞬間は正義でも、時代が変わったり、立場が変わると、正義じゃなくなる。正義は、対岸から見れば悪なんですよ。戦争だって、戦勝国は正義で、敗戦国は悪となる。おかしいでしょ? ほんとはどっちも悪なのにね。結局、正義なんてないんだってことに気づいてね」(※元CMディレクターの言葉です)「プリズム」24 炎上猛

 ふかわさんはエッセイの中でこの男性の意見に同意していません。でも、ゆるやかな空気感が漂う連載の中で、どうしてもこのことは書き留めておきたい、という意思が透けて見えます。こういう時代の空気感について世の中の人たちはどう考えるのか、問いたかったのかも知れません。 

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民主主義の副作用

 この次の回、2019315日の『ようこそ、不寛容の国へ』と挑発的とも受け取れる見出しが目に入ってきます。こちらは当時、世間をにぎわせていた広告コピーについて。不快なものへのクレーム、それに対する社会の反応や対応について自分の考えを率直に書いています。 

臭いものに蓋をして、綺麗事ばかりが表面化。見えなくなるのはいいけれど、人間の中にあるのは綺麗なものだけではありません。「プリズム」25 ようこそ、不寛容の国へ

誰もが聖人君子にはなれませんし、日常には矛盾があふれています。ザラザラした社会が私たちの目の前にあります。そしてこうも言っています。 

誰もが声を上げられる自由を手に入れた途端、民衆によって言葉や表現が狩られる民主主義の副作用。「プリズム」25 ようこそ、不寛容の国へ

強い言葉です。そして不寛容な社会、不寛容な人たちに向けて、こう問いかけています。 

不快なものが存在したって、あなたの幸せを脅かすものじゃない。むしろ、なんでも排除する風潮が、やがてあなたを苦しめる。「プリズム」25 ようこそ、不寛容の国へ

『炎上猛』と『ようこそ、不寛容の国へ』の2本の記事全文を読んでいくと、ふかわさんの価値観や、社会との距離感が何となく見えてきます。 

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余白のある世界で生き続けたい

 ふかわさんのデビューは、慶應義塾大学在学中の1994年です。「こんな男になりたい」という自分の理想像を語っているのが、2018427日の『引き算のできる男』です。 

大事な局面において、荷物を軽くすることができる男。「プリズム」03 引き算のできる男

どういうことかというと、若いときは詰め込むのもいいけど、詰め込みすぎるとカバンがパンパンになってしまうということです。年齢を重ねるほど、引き算の重みが増してくると書いています。 

美しい、余白のある世界。ぎちぎちに詰め込まれた世界では、息苦しささえ感じるのです。「プリズム」03 引き算のできる男

そしてこうまとめています。 

隙間を作ること。埋めることより削ること。そこから見える景色。そんな、引き算のできる男になりたい。「プリズム」03 引き算のできる男

みなさんは、余白持てていますか?

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人生はシャキからしんなり

同じように自分の生き方について、「野菜炒め」に例えています。連載の初回となる2018330日の『挨拶の代わりに』では、料理について語っています。

料理下手でも簡単に作ることができ、食べることと同様に「観る」のが好きだとか。それを「野菜観戦」と表現します。さすが、アーティストですね。料理の様子をこう書いています。 

あんなにシャキッとしていたのに、あんなに山盛りだったのに。ほどよいサイズに収まって、すっかりやわらかそうになってゆく。 あんなに硬かった芯さえも。

私は、その姿に人生を重ねているのかもしれません。「プリズム」01 挨拶の代わりに。

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人生観を語るにはまだ若すぎるのではないか、と思う人も多いかもしれません。「若いときは尖っているもの。若気の至り。それはそれで必要」という青春自体から社会にでてもまれていく中で、感じる「いつまでもちやほやされているわけではありません」という周囲の空気。 

世の中に揉まれて、苦痛を味わって、徐々に丸みを帯びてくる。周りに気を配るようになる。そのとき初めて、人間としての深みや味、魅力が出てくるのでしょう。

ちやほやされなくなってからが勝負。本来の魅力が試されるとき。「プリズム」01 挨拶の代わりに。

telling,の読者に多い20代後半や30代前半の女性は、職場に後輩が次々と入ってきて自分がちやほやされなくなる時期でもあります。その賛否について、ふかわさんは記していませんが、そんなところでモヤモヤする人たちの背中を教えてくれているメッセージとも受け取れます。いや、世代を超えて、40代や50代、60代の人たちにもしみる言葉です。 

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自分の代わりがきかないなんて幻想

 ICTの急速な発達で、いつでもどこでも誰とでもつながれる時代になりました。しかし、人間が抱える孤独感やモヤモヤ感がなくなるわけではありません。ふかわさんも、2019816日のエッセイ『河原の小石』の中で、こんなエピソードを紹介しています。 

「その仕事って、僕じゃなくてもいいんですよね?」

マネージャーはきっと耳を疑ったことでしょう。

「僕である必要がないなら、明日の収録、行きません」「プリズム」36 河原の小石

20歳で門をたたいたお笑いやテレビの世界。芸人志望の若手を束ねるマネージャーに、こんな言葉を口にしたそうですが、みなさんがマネージャー氏ならどう受け取りますか?

 そして、こう振り返っています。 

あれから25年。僕じゃなきゃいけない仕事なんてあったでしょうか。僕じゃなきゃいけない理由なんて、あったでしょうか。そんなことよりも、「僕じゃなくてもいいのに僕を選んでくれたこと」に感謝するようになりました。「プリズム」36 河原の小石

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つまり、与えられた場所で全力を尽くす――。ステレオタイプの言葉かもしれませんが、こんな人生訓を書いていました。 

代わりがきかないなんて幻想。「プリズム」36 河原の小石

身につまされます。 

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欲望を刺激する音を食べる時こそ至福の時

 年末年始、ふかわさんは何をしているのでしょうか? ふかわさんの「欲」を知りたくて過去の連載をたぐっていくと20181026日の『音を食べる男』にありました。「私の欲望を刺激するもの、それは、音」と書いています。 

毎日毎日、仕事が終わると、その日の気分で音を選び、味わっています。聴くのではなく、食べる。だから、お酒を片手に音をいじっている時間は至福のとき。まさに、おつまみ感覚で音を食べています。

人は何かに依存せずにはいられません。どこに比重が傾くかは人それぞれ。たまたま私は、音だった。「プリズム」16 音を食べる男

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三が日も、おせち料理のような音を食べているのでしょうか、それとも2020年をイメージするような音を食べているのでしょうか。気になってきました。

 

ふかわさんの連載『プリズム』全45回はこちらで読めます。もうすぐ仕事始め。ちょっとのすきま時間にぜひtelling,を訪れて、明日へのヒントを手に入れてください。

 

▼ふかわりょうさんを読み解くシリーズはこのほか、『結婚』編と『社会』編があります。

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。