telling, Diary ~ふかわりょうさんを読み解く2~

「渋谷スクランブル交差点に集結!」は日本の風習か? ふかわりょうさんが考えるミレニアル日本

ふかわりょうさんがミレニアル女性向けサイト「telling,」で約1年9カ月にわたって連載したコラム『プリズム』。全45回のコラムから見えてくるふかわさんの”頭の中”を、「結婚」「社会」「心の中」の3つの切り口から探る傑作選「ふかわりょうさんを読み解く」。第2回は「社会」編です。ふかわさんは「ミレニアル日本」をどうとらえていたのでしょうか。

ふかわりょうさんのもう一つの顔はDJDJROCKETMAN」として全国のクラブでプレイしています。ミレニアル世代にとってふかわさんは「ミュージシャン」「DJ」のイメージのほうが強いかもしれません。202011日のTOKYO FMの『LOVE CONNECTION』にも生出演しています。telling,19カ月にわたって続いた連載「プリズム」からは、そんなふかわさんの社会との向き合い方が浮かび上がってきます。

 渋谷に集結=日本の風習?

 都会のクラブでDJとしてプレイしている姿とはギャップがあるかもしれませんが、コラムでは、2020年のカウントダウンがおこなわれた「あの場所」について、思うところをつづっています。平成から令和への時代が変わる直前に書いた2019412日の『されど元号』からの一節です。 

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平成最後の夜。若者たちは渋谷に集まるのでしょうか。平成を彩ったコスチュームで身を包み、渋谷に集結。商店街のみなさんは本当に大変かもしれませんが、もはや、ことあるごとに渋谷に集結するのがこの国の風習になってしまいそうです。

平成の駆け込み婚や、カウントダウンで挙式なんていうのもあるようです。「プリズム」27  されど元号

ニュースではゴミ、トラブル、混乱というキーワードで切り取られることが多いですが、ふかわさんは「風習」という言葉を使って表現しています。賛否は示していませんが、改元に限れば「大きな波に乗ってしまう方が楽しいもの」ととらえていました。 

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サブスク天国からサブスク地獄へ

 年末年始に限らず、ちょっとした時間があれば、スマートフォンをいじる――。こんな姿が年齢を問わず、日常的です。スマホというデバイスの進化とともに、低額で音楽も映画もドラマも楽しめる「サブスクリプション」の時代になってからです。私たちはこの時代の果実をほおばっているわけです。ただ、そこには意図的であるかどうかは別として、大人がつくった落とし穴もあります。 

ふかわさんは201982日の『サブスク女のため息』でこう嘆きます。 

「今はね、なんでもサブスクの時代。洋服とか化粧品だって買わなくていいし、美容院だって通いたいだけいけるから、あたしみたいな夜の仕事の人にはありがたくて」

最近では、飲食店やライブハウスなどでも導入されているそうだ。

「でも、洋服とか、欲しくはならないんですか?」

「欲しい?」

彼女は目を丸くした。

「欲しいってどういうこと?」

「所有したい、ってことでしょうか。クローゼットにずらりと並んでいるのを眺めたり」

「あはは、ウケる!」「プリズム」35  サブスク女のため息

この話、けっこう「真理」を突いています。考えてみて下さい。「Netflix」(ネットフリックス)、「Amazonプライム」(アマゾンプライム)、スマホの画面いっぱいにあふれるアプリ……。 

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「音楽とか映画とか、あたしネットフリックスのドラマちょー好きだし。ただ、もうサブスクにしすぎちゃって、今は把握仕切れてない状態。全然使ってないのに、ただ引き落とされているだけってのもあると思うし。もうなんのために働いているのかわからなくなってる……」

いつの間にか彼女の環境はサブスク天国から、サブスク地獄へと変わったそうだ。「プリズム」35  サブスク女のため息

リアルな場で、お金を出してモノを買ったり、サービスを享受したりするのと違い、これらネットのデバイスを通じての契約は、少額だからこそ、「いらないけど、来月解約すればいっか」と考え、ずるずると続いてしまう。サービス提供者によっては、解約しにくいように設計しているところさえあります。サブスクリプションは、利用者側にとっても、低額でコンテンツを享受できるという大きなメリットがありますが、一方で例えば音楽を提供する側、つまりミュージシャン側からすると「0円音楽時代」という厳しい時代になっています。ふかわさんは書いていませんが、ミュージシャン側も「サブスク地獄」の時代なわけです。

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 テレビに映っている人=「不思議と生まれる信頼感」

 ふかわさんのエッセイは、実は社会にも深く切り込んでいます。読む側としては、返り血を浴びてしまうのではないか、と心配することにも触れています。201975日の『芸能人ってなんだろう?』も、その一つです。 

私自身も、「芸は何か」と問われたら返答に困ってしまいますが、ただ「芸」を持っていれば出演できるというものでもなく、「テレビのサイズ」に変換されるため、役割やキャラクター、人気やイメージ等が重視されています。

では、テレビに出るとはどういうことなのでしょう。それは暗に、社会が受け入れていることを示唆しています。「プリズム」33  芸能人ってなんだろう?

公共性の高い、かつ免許制で法律のしばりがあるテレビという電波に乗って、フィルターを通過した人たちが出演している――。裏を返せば、社会が受け入れてくれる人をテレビ局は出演させているということです。ただ、ふかわさんは、この見ている側に「不思議と生まれる信頼感」について、「怖い面もあります」と書いています。 

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「利己的な人間ばかりを生んでしまったようです」

 最近、「ソロ」という言葉や「ソロ」を想定した商品、サービスが日常空間にあふれています。ソロキャンプもあれば、一人カラオケなどなど。ひとりを楽しむ時間も大切ですが、ふかわさんは今年流行した「#忘年会スルー」にはひと言釘を刺しています。20191220日の最終回『のりしろを守る会』です。ふかわさんは、MXテレビの生情報番組『5時に夢中!』のMCをしていますが、その収録風景を例に、「のりしろを守る会」を旗揚げした理由を述べています。 

収録前。一旦別室に集まって談笑する時間を設けることによって、本番でのパフォーマンスが高くなります。収録後の飲み会では、他愛のない話から新しい発想や繋がりが生まれたりします。「プリズム」45   のりしろを守る会

本番ではありませんが、番組を盛り上げたり、出演者の息を合わせたりするために必要な「のりしろ」の時間の部分です。「#忘年会スルー」に象徴される現代の風潮について、ちょっと厳しい言葉を使って危機感をあらわにしています。 

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昨今の「忘年会スルー」にも見られる個人主義は、利己的な人間ばかりを生んでしまったようです。「ダイバーシティー」の副作用。「一人で生きている」と錯覚する引きこもり。「プリズム」45   のりしろを守る会

そしてこう結んでいます。「のりしろを守る会」の結成宣言のように。 

我々は、可視化されたものばかりに心を奪われて、見えないものの大切さを見落としてしまう。為になるとかならないとか、役に立つとか立たないとか、そのような尺度だけで生きていると、人間としての器が小さくなってしまいます。一見無駄に思えても、意外とそうではなかったりするもの。逆に、非効率なものを排除し、効率性だけを推進していくと、結局苦しむのは私たち。

社会から「のりしろ」が削ぎ落とされてゆく風潮に、どこかで歯止めをかけなければと思い、この組織を発足させました。「プリズム」45  のりしろを守る会

このコラムが公開されると記事下にたくさんのコメントが書き込まれ、入会希望者もいました。みなさんは、どう考えますか?

「休符のない音楽は息苦しい」

 この記事がネットに掲載されるのは、2019年の年末から2020年の年始のころ。一般的には、長期休暇をとる時期です。2019426日の『連休なんて、いらない?』では、ふかわさんが願う寛容な社会を働き方から考察しています。 

我々はどうしても「休む」ことに対する後ろめたさや罪悪感のようなものがいまだに払拭できていないようです。「ワークライフ・バランス」という言葉も長い間耳にしていますが、結局政府の力で、「休むことを強いる」ような改革が推進される始末。ここまでしないと、日本人は、十分に休めないのでしょうか。「プリズム」28  連休なんて、いらない?

大型連休があったとしても、誰しもがハイシーズンの高額な旅行代金を払って海外旅行に行けるわけではありません。年末年始にサービスを提供する産業に勤務する人たちは休めません。また、休めば収入が減るために、それほど休めないという人もいるでしょう。一方で、ITC(情報通信技術)の発展と低コスト化で、どこでも仕事ができる時代になりました。つまり、海外に行っても、山ごもりしても、ネットがつながれば逃れられない社会になったとも言えます。見方は多様ですが、社会の空気感は大切だと筆者も思います。

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休符のない音楽は息苦しい。理想を言えば、自由に休める空気と、休むことがいけないことではないという意識。「プリズム」28 連休なんて、いらない?

アーティスティックな表現を使って、社会に漂う自由な空気の大切さを伝えています。

“生きるヒント”が詰まったふかわりょうさんの連載『プリズム』全45回分がこちらで楽しめます。

 

▼「ふかわりょうさんを読み解く」シリーズ。続く第3回は『心の中』編です。お楽しみに。

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。