ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」19

【ふかわりょう】女子たちの目

人気情報番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)のMCや、DJとしても活躍するふかわりょうさん。ふかわさん自身が日々感じたことを、綴ります。光の乱反射のように、読む人ごとに異なる“心のツボ”に刺さるはず。隔週金曜にお届けします。

●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」19

女子たちの目

 小学生の頃。電車に乗っていると、通路を挟んだ向かい側に座っている女の子、あまり年の変わらない女子たちがこちらを見てヒソヒソ話しています。彼女たちの視線は僕の指先。妄想ではありません。というのも、マニキュアが塗ってあったのです。数日前に叔母の家で叔母がつけていたマニキュアを遊びでつけたのが残っていました。

「ねぇ見て、男なのにマニキュアつけてる、気持ち悪い~」

 読唇するまでもなく手に取るように伝わってきます。女子のヒソヒソ話ほど怖いものはありません。今だったらむしろ、「あの少年、美意識が高いのかしら」とポジティヴな考えも浮上するかもしれませんが、当時は、なんならピアノを習っていることすら男子はひた隠しにしていた時代。それほど目立つ色ではなかったのですが、必要以上に輝く指先に、敏感女子たちは逃がしてくれません。きっと電車を降りても、「今日電車でマニキュアつけてる男子がいたんだよ」と瞬く間に拡散してくれたでしょう。SNSがなくても女子たちの拡散力は凄まじいものです。

 中学生の頃。好きな子とは恥ずかしくて話せない僕にも、自然に話せる女子がいました。女子グループの中で、上位に君臨する訳でもなく、休み時間を図書室で過ごすような女子。彼女とは異性としてではなくクラスメイトとして仲良くなっていたのですが、ここでも問題は起きました。彼女の長い髪を無邪気に触っていると、背中に突き刺さる感覚。そうです、「女子たちの目」です。

「うわ、髪触ってる、気持ち悪い〜」

 手に取るように伝わってきました。いわゆる「白い目」の類。一瞬、どうしてそのような視線を向けられるのかわかりませんでしたが、すぐに汲み取りました。男兄弟の末っ子で女性のルールがよくわからない私にとって、トラウマになるくらい女性の髪は大切なものなのだと気付きました。それからというもの、よほどのことがなければ女性の髪に触れられなくなりました。髪だけでなく、女性に触れることへの抵抗も生まれました。もちろん、触れたことがないわけではないですが、気やすく触れるおっさんにはなりませんでした。

 人の視線はときに精神を脅かすこともあります。多感な頃に向けられた女子たちの目が、今でも監視カメラのように作動しています。それが、私のデリカシーを形成してくれました。あの時女子たちの目がなかったら、デリカシーのないおっさんになっていたかもしれません。どこかで気づくタイミングはあったかもしれませんが、多感な時期に向けられた、あの時の「女子たちの目」にいまは感謝しています。

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タイトル写真:坂脇卓也

1974年8月19日生まれ、神奈川県出身。テレビ・ラジオのほか、ROCKETMANとしてDJや楽曲制作など、好きなことをやり続けている。