ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」17

【ふかわりょう】夫婦は梅酒のように〈前編〉

人気情報番組「5時に夢中!」(TOKYO MX)のMCや、DJとしても活躍するふかわりょうさん。ふかわさん自身が日々感じたことを、綴ります。光の乱反射のように、読む人ごとに異なる“心のツボ”に刺さるはず。隔週金曜にお届けします。

●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」17

夫婦は梅酒のように〈前編〉

 度重なる天候不順によって延期に延期を重ねてたどり着いたのは、全国的に秋晴れとなった週末。横浜の実家を出発して向かう、神奈川屈指の温泉地、湯河原。毎年末に兄家族らも連れて訪れていましたが、今年は別の場所になったので、両親と3人で向かうことになりました。

 湯河原は、横浜から非常にアクセスも良く、空いていれば2時間ほどで到着します。が、絶好の行楽日とあって渋滞は免れません。東名高速から小田原厚木道路を経由し、海に飛び込むようなジャンクションに差し掛かると、車はノロノロ進むようになりました。ただ、ここからは海が見渡せるので、渋滞がそれほど苦ではありません。窓を開けると潮の香り。遠くに初島を望みながら走る真鶴道路。渋滞を抜け、サーファーたちが見えてくると、湯河原の街に入ります。ここに来たら、まずやらなければいけないことがありました。
「ちょっと待ってて」
 車は、酒屋さんの前で停まりました。ここで地元の梅酒を調達。旅先での梅酒チェックは欠かせません。旅館に着いたら飲む気満々なのです。

「お待ちしておりました」
 温泉街を抜け、山あいの道を進み、奥湯河原の旅館に到着したのが14時。部屋に案内されるやいなや、空いているタイミングを狙って温泉へ。ほんのり色づき始めた山々を眺めながらの露天風呂。すっかり火照った体を浴衣で包み、さぁ梅酒祭りが始まります。

 曽我梅林は、湯河原の隣の市に位置する小田原の梅林。植えられたのは600年ほど前のこと。そこで獲れた梅を日本酒で浸けた梅酒。湯河原にも梅祭りが開催されるほど素敵な梅林があるのですが、そちらの梅酒は売り切れていました。製造年月日は10月。ということは、まだ瓶に入れられたばかり。たくさん氷の入ったグラスに注がれていきます。
「最高!!」
 甘みのある方が好きな僕にとっては理想的な味でした。川のせせらぎと、窓から差し込む午後の光。浴衣でいただく梅酒。自宅では味わえない、贅沢な時間が流れていました。

「全部食べきれるかしら」
 夕食。何が出てくるのかわからないままでいたい息子と、何が出てくるのかをじっくり眺める父と母。海の幸と、山の幸と。そしてデザート前のトリを飾るのは、この方でした。
「昔は、おこげの部分を取り合って兄弟喧嘩したものです」
 仲居さんによそってもらうおこげご飯は、カリカリで香ばしく、取り合いになるのもわかります。梅酒も半分くらい減っていました。
「いいお祝いになったわ」
 11月で結婚55周年を迎える二人。世間的には「エメラルド婚」と呼ぶそうですが、なかなか到達できるものではありません。いいタイミングでいい旅館に来られたと、満足げな様子。事件は、その後起きました。

続きの記事(夫婦は梅酒のように〈後編〉)はこちら

 

      

タイトル写真:坂脇卓也

1974年8月19日生まれ、神奈川県出身。テレビ・ラジオのほか、ROCKETMANとしてDJや楽曲制作など、好きなことをやり続けている。
夫婦の取扱説明書