あの日のお悩み「せいりせいとん」

男性は生理を理解できるか。インドの「パッドマン」に学ぶ

生理中は体調が悪くなったり、イライラしたり、普段落ち込まないようなことで悲しくなったりと、何かとストレスがありますよね。人によって症状も違うし、ましてや経験したことのない男性にそのつらさを伝えるのは、なかなか難しい……。今回はそんな生理について、生理を題材にした映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』と、女性のエンパワーメントを目指して活動中の大崎麻子さんの講演から読み解きます。

●あの日のお悩み「せいりせいとん」

インドの生理事情を世に知らしめた映画

今回ご紹介する「パッドマン 5億人の女性を救った男」(以下「パッドマン」)は、2018年2月にインドで公開された映画で、日本でも12月7日の公開直後から話題を呼んでいます。

日本では、ほぼ100%の女性が生理時に利用している生理用品。でも、インドでの普及率はわずか12%(映画の舞台となった2001年当時)。ここには、インドが抱える経済的・宗教的な問題が絡んでいます。生理をタブー視しているインドで、愛する妻の健康のために国民の意識を変えた人物、それが「パッドマン」ことアルナチャラム・ムルガナンサムさん。この映画は、インドで起きた実話を題材にしています。

生理を”恥”と恐れるインド人女性たち

インドで生理は”女性の穢れ”とされ、村や家庭の価値観によっては生理中の女性が部屋の中やキッチンに入ることさえ許されない場合もあります。1年のうち合計すると2カ月もの間、いつも通りの生活が送れず肩身の狭い思いをすることになる。そんなのはおかしい、もはや呪いだ、と立ち上がったのが彼でした。

しかし、タブーを打ち砕くにはいくつもの障害がありました。インドの女性は生理をとても恥じていて、映画には「生理のことを男性に尋ねられるだけで耐えられない」というシーンも。女性の側も生理について語りたがらない難しい状況下、作品にはさまざまな男性たちも登場します。

信念のもとに1つのことをやり抜く主人公のラクシュミ、村人全員から嫌われたラクシュミを見捨てずに協力した友人たち、己を顧みず自分が偏見を持っていることすら気づかない妻の兄や金貸しの男。
「自分は主人公のラクシュミのように生きているだろうか」と考えさせられる場面がいくつもありました。一方、前向きで一生懸命でユーモアのある人には、人がついてくる、ということも。。歌にダンス、ユーモラスなシーンも多く、笑って泣ける素敵な映画です。

  • 『パッドマン 5億人の女性を救った男』あらすじ
    愛しい妻が生理中に不衛生な布を使っていることを知り、清潔なナプキンを買うように薦めた主人公のラクシュミ。しかし市販のナプキンは高く、妻は汚い布で大丈夫だと言う。ある日ラクシュミは、不衛生な布を使い続けることによって感染症にかかり死に至る例もあると医者から知らされる。こっそりと見えないように干された布は細菌が繁殖しやすいのだ。いてもたってもいられなくなったラクシュミは安くて清潔な自作のナプキンを妻にプレゼントしようと試みる。しかし、「男が生理のことを話題にし、しかもナプキンをつくるなんて」と村人に白い目で見られ、ついには家族や妻にまで「恥ずかしい」と言われてしまう。妻のためにしたことが妻を傷つけていることに苦しみながらも、愛する人の安全を守りたい、という一心で低価格のナプキンを開発し続けた男性の話。

これからは、個人が発信していける時代

鑑賞後、国際連合大学で開催された大崎麻子さんのシンポジウムに出席しました。ジェンダーと女性のエンパワーメント(女性が十分な教育を受けて経済力を身につけ、人生を自分で選択する力)について研究し、発展途上国の子どもたちを支援する公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンの理事を務める大崎さん。彼女がまず口にしたのは、「教育を受ける時、男の子と女の子ではハードルの数が違う」ということ。実際に発展途上国では、中学生くらいになると女の子の就学率が著しく低下する傾向があるというのです。

「水くみや焚き木集めといった家の仕事を課せられたり、トイレの設備が整っていないことによる感染症や性暴力のリスク。そうした理由から学校に行かなくなるケースが多いのです。さらに、生理が始まることで、完全に教育が中断されてしまう女子生徒が大勢います」

程度の違いこそあれ、世界では、妊娠・出産に加えて生理も女性にとってのハードルになっているのは確か。日本で問題になったのは、災害時の女性へのケアです。東日本大震災が起きたとき、避難所の備蓄品や支援物資の中で圧倒的に足りなかったのは生理用品だったそうです。
日常的にも、「生理、妊娠、出産は病気ではないから我慢する」という風潮や、「生理のことは話しづらい」傾向は日本もまだまだあるのでは。

実際、シンポジウムでは参加者の男性から、こんな声も挙がりました。

  • ・妻に買い物を頼まれても、生理用品は頼まれたことはない。
  • ・就業規則には生理休暇が設定されていても、利用者は少ない。まだまだマインドが育っていないのではないか。
  • ・多様な意見や価値観を受け入れようという教育を受けてはいるが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をなくすためにはどうしたらいいか。

生理の話題は表に出しづらいために、適切なサポートが行き届かないという面もありそうです。これについて大崎さんは、「個人の発信」にも力があると述べていました。
「性教育や政策で変えていくことはもちろん、今は若い世代がSNSなどネットで生理のつらさや悩みを発信する声が増えています。そして、当事者である女性が声をあげるだけではなく、男性が発言することが大事です」(大崎さん)。
私には、このメッセージがとても心に残りました。

生理の問題だけでなく、自分とは違う悩みを持つ人の話をよく聞いて助け合っていけば、もっと多くの人が住みやすい世界になるのかもしれませんね。

  • 「パッドマン 5億人の女性を救った男」
  • TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開中
  • 監督・脚本:R.バールキ 出演:アクシャイ・クマール/ソーナム・カプール/ラーディカー・アープテー 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント http://www.padman.jp/
1990年生まれ。東京都目黒区出身のライター・編集者。「明日を楽しく生きられるように!」をテーマに、旅行、グルメ、ライフスタイルなどに関する文章を執筆しています。
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