「Ayuwa」渡部雪絵さん(38歳)

行き当たりばったりの人生だけど、「好きを仕事に」できている。

アユワ株式会社代表取締役 渡部雪絵さん(38歳) 金融業界で10年以上キャリアを積んできた彼女は、妊娠を機に退職。2015年にアパレルブランド「Ayuwa」を立ち上げた。起業したいという強い思いがあったわけではない彼女が、いま「好きを仕事に」できている理由を、じっくり聞いてきた。

 起業するために準備していたの? とか、今までの知識を生かしているんだよね? とか聞かれますが、全然そんなことはなくて。なんだか、いつの間にか流れに任せていたら、ここにたどりついたという思いのほうが大きいです。

妊娠、出産が大きな転機に

 就職氷河期に大手金融機関に就職して、金融業界で10年間キャリアを積みました。その時々にしたい職種に就くために、金融メディア、証券会社と転職して、充実した日々でしたね。その後リーマンショックで業界が縮小傾向で、早期退職の波に乗ってはじめて無職に。知り合いのつてで入った会社は、仕事は面白いもののしばらくして妊娠をして。出産をする前に退職することになりました。

 出産後、なかなか息子の保育園が見つからないという状況に直面して、子育てと公共のサービスということについて否応なしに考えさせられました。そのとき、自分に身近なことだし、人の話を聞くのも好きだし、社会の現状を変えたいという気持ちもあって、政治家になろうかなって考えたんですよ。変えていきたい問題について色々と調べてみると、市区町村が取り組む内容だったので区議会議員に。それで大学の先輩で、実際に議員をしている人のお話を聞きに行ったりしました。

 でもそのとき初めて、いままでどんな決断をしても賛成してくれた夫が「政治家だけはやめてくれ」と反対したんです。いつも支えてくれる夫がそこまで言うんだったら……と、政治家はやめて、民間から何かを変えていきたいなと考え始めました。

 当時はパラレルキャリアとか全然考えてなくて、「サラリーマン」か「起業」かの2択になっちゃってて。ずっと大企業に勤めていたので、派遣とかバイトはちょっとな……って思ってしまったんです。本当に小さなプライドですよね。でもその時はそれが引っかかっちゃったんです。

「好きなことで小さく始めたらいい」珠玉のアドバイス

 ちょうどそのとき息子がおむつかぶれになってしまい、「そうだ、オーガニックコットンを使った使い捨ておむつを開発したらどうだろう?」と思いつきました。でもおむつって初期投資がものすごいかかるのと、起業アドバイスを受けたときに「息子さんが20歳になってもおむつに興味ある?」と聞かれて、それはないな、と(笑)。好きなことで起業したほうがいいよ、というアドバイスにしたがって、ひたすら自分の好きなことについて考えました。

 よく、女性って「社会のため」みたいな気持ちになりがちじゃないですか。でも、社会貢献の意識はあとからでいい、まずは好きなことを小さく始めて、儲けを出すことが大事だよ、と言われました。そのアドバイスには、今でも感謝しています。

 それで考えて考えて、「私めちゃくちゃワンピース好きじゃん!」って思い当たったんです。ワンピースは、コーディネートを考えなくてもいいのに、なんだかきちんとして見える。ファッション誌を読むほどおしゃれではないけど、いつも清潔感ある格好をしていたいなと思っている私には必須のアイテムでした。それで、「もっと自分が着たい、働く女性が楽になるワンピースを作ってみよう!」と。

行き当たりばったりでも、なんとかなる

 資金はクラウドファンディングで集めて、Webサイトの更新の仕方も自分で勉強しました。けっこう、やってみればなんとかなるなって感じですよ(笑)。こうして自分で振り返っても、びっくりするぐらい行き当たりばったりです。でもいろんな人と会うようにしたり、昔の会社でお世話になった方とのご縁が続いているお陰なのか、その時その時に必要なスキルを持った方に偶然巡り会うことができて。偶然が続くと「流れ」のようなものが存在しているのかもって思ったりします。

 やっぱり、ワンピースでもっともっと女性をエンパワーメントしたいですね。女性って、袖を通す服で仕事のパフォーマンスが変わるから。着ていて気持ちのいい服を、これからもつくり続けたいです。

横浜にて

フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。
20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。
好きを仕事に