高畑充希×井浦新×北村匠海「にじいろカルテ」最終回「皆さんの心の中の雨がやんで、綺麗な虹が見られますように」

高畑充希主演「にじいろカルテ」最終話。東京の大病院の救命救急の現場から、山奥にぽつんと佇む虹ノ村診療所やってきた医師・紅野真空(高畑充希)は、すでに村人にとって家族同然の存在。多発性筋炎を患う真空の病状は進行し、とうとうその日がやってきます……。

太陽「医者でも患者でもいい」

「来ちゃったな、この日が」

3月18日放送「にじいろカルテ」(テレビ朝日 木曜夜9時)の9話。紅野真空(高畑充希)、浅黄朔(井浦新)、蒼山太陽(北村匠海)が食卓を囲む中、真空が倒れた。冒頭で朔が言ったように、多発性筋炎を患う真空の病状の進行は避けられないことだった。

「にじいろカルテ」は医療ドラマというより、ヒューマンドラマである。真空が倒れた際、彼女が言ったのは「佐和子さん(のことを)……よろしく……」「雪乃さんがもうすぐ(症状が出る)……」という言葉だった。
救急車で運ばれる真空に太陽は「医者でも患者でもどっちでもいいよ。真空さんが必要なんだよ」と言葉をかけた。「真空先生」ではなく「真空さん」と呼んでいる。

倒れても医師であろうとする真空と、1人の患者と接しているかのような太陽。「うちに必要なのは患者じゃない」と真空を突き放した東京の病院とあまりに違う。最終話で“最強の3人”の絆はこれ以上なく強固なものとなり、3人が住む虹ノ村は最高で最強の環境になった。

朔と太陽からのキス

真空が救急車で運ばれる際、朔は言った。
「『村の診療所で働くの無理だ。諦めろ』そう言われるかもしれない。……まあ、言われんだろうな。でも、帰って来い。絶対、帰って来い! な。いいか? あそこはお前の家だよ。絶対、戻って来い! な。わかったな?」

真空は返事をしなかった。あくまで医師としてあろうとしている。医師ではなく患者としての自分が虹ノ村にいていいのだろうか? 真空は迷っている。

8話で朔と太陽に彼女は「毎朝、ハグしてチューしたいって思うくらい愛してる」と言った。だから、朔と太陽は両サイドから真空の頬にキスをした。「真空だけでなく俺らも同じ気持ちだよ」と伝えるためのチューだ。何回もキスをしたのは思いの強さの表れである。2人のキスは真空の迷いを溶かした。

今は雨でも

真空が虹ノ村に帰ってくると、診療所の色々な場所に手すりが付いていた。朔と太陽は真空が帰ってくることを信じ、バリアフリー対応にして準備していたのだ。真空の病気は治っていない。進行している。だから、何かある度にこうして3人は乗り越えていくのだ。

最終話で藤田(柄本時生)という青年が移住してきた。彼は虹ノ村の明るい未来を予感させるキーマンだ。退院した真空が乗っていた車いすは世界的電動車いすメーカーの社長である藤田が手掛けたものだった。内科医と外科医と看護師がいて、診療所はバリアフリー対応になった。そして、世界に誇れる車椅子の作り手がやって来た。虹ノ村は多くの人がより充実した生活を送れる場所になるはずだ。

真空が橙田雪乃(安達祐実)と再会すると、彼女は記憶を失っていた。

雪乃 「あの……私、初めましてなんだけど。あなたは、大好きな私の主治医の真空先生。同い年だよね?」
真空 「いや、違います(笑)」
雪乃 チッ!」
真空 変わってない、雪乃さん!」
雪乃 えっ。えっ、そうなの? 私、こうなの?」
真空 なんか、嬉しい……!」

記憶をなくしても雪乃という人は変わっていない。人には困難が訪れる。でも、それを乗り越えれば笑顔になれる日がきっとやって来る。

のど自慢大会の予選に出場した真空と朔と太陽の診療所チーム。歌う前に真空はこんなメッセージを発信した。
「皆さん、つらいことがたくさんあると思います。でも、あの綺麗な虹は雨が降らないと見られません。皆さんの心の中の雨がやんで、綺麗な虹が見られますように」
虹ノ村には何かを抱えた者ばかりが生活している。でも、みんな笑顔で前向きだ。今は雨でも、いつか綺麗な虹が架かる。そんな希望をもって、明るく生きていこう。

「にじいろカルテ」は攻めたドラマだった。ファンタジーの世界観を貫き、人間ドラマに徹し、メッセージ性を大事にする挑戦的な作品だったと思う。当初感じた違和感もいつしか消えていた。

真空が苦しんだであろう闘病中の姿は描かれなかった。最悪な結末も予想できたが、最後まで温かな雰囲気は保たれたままだった。最終話だけど最終話じゃないみたいだ。前向きな未来を視聴者の想像の補完にトスする形で、物語は終幕した。続編はいらないと思う。このままで。

■「にじいろカルテ」全話レビュー
1:「にじいろカルテ」1話。ロボット型ヒロインじゃない高畑充希を待ち望んでいた!
2:高畑充希「にじいろカルテ」2話。先回りして謝る真空の生きづらさを溶かす「ちゃんと怒られろ!」
3:高畑充希「にじいろカルテ」3話「何とか付き合っていくしかない」のが家族
4:高畑充希「にじいろカルテ」4話。命の順番を決めるトリアージの難しさ。井浦新のサングラスの意味
5:高畑充希「にじいろカルテ」5話。村じゅうに響く北村匠海のデスメタルは「普通の人なんていない」の叫び
6:高畑充希「にじいろカルテ」6話。真空「言葉は間違ってると思うけど、病気って面白い」
7:高畑充希「にじいろカルテ」7話。記憶がリセットされるたび、何度も出会う愛もある「何度も君と出会えて幸せだ」
8:高畑充希「にじいろカルテ」8話。真空「最強の3人だと思ってたよ。死んだって一緒にいたいと思ってたよ」絶叫

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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