納得いかない最終回「35歳の少女」35歳がアナウンサーになる夢を実現。なんてチョロい世界

柴咲コウが5年ぶりに民放ドラマ主演で話題の「35歳の少女」。10歳の少女・望美は不慮の事故が原因で長い眠りにつき、25年の歳月を経て、奇跡的に目覚めます。長年眠ったままだった望美は、心は10歳のままなのに、体は35歳……しかも家族はバラバラに。いろいろとっちらかったまま突入した最終回。あっさりとただのハッピーエンドかと思いきや、深読みもできなくはない……。

柴咲コウ主演、遊川和彦脚本のドラマ「35歳の少女」最終回。

アナウンサーになる夢をあきらめた時岡望美(柴咲コウ)、グラフィックデザイナーになる夢をあきらめた妹・愛美(橋本愛)、泥酔して会社をクビになった父・進次(田中哲司)。
家族みんなが無職になり、夢を失い、なおかつ母親・多恵(鈴木保奈美)が死んでしまった時岡家。
ついでに幼なじみの広瀬結人(坂口健太郎)は教師に復職したものの、クラス内のいじめ問題を解決することができず……。

全方向にとっちらかったまま最終回に突入し、どんな終わり方をするのかと思っていたら、色々なことをすっ飛ばして強引にハッピーエンドへ。

みんなの夢がすぐにかなっちゃうチョロい世界

主人公の夫が最終週にいきなり植物人間状態となり、目覚めないまま最終回を迎えて朝ドラファンにトラウマを植え付けた「純と愛」。最終回で唐突に主人公の柴咲コウが死んだ「○○妻」など、「みんなが幸せになる」「夢がかなう」的なドラマのお約束を意識的にぶっ壊してきた遊川和彦。

しかし、この辺のドラマがメチャクチャ炎上したことによって、近年は「とりあえずハッピーエンドにしときゃ文句ないだろう」という絵に描いたような結末を迎えることが多かった。
本作「35歳の少女」も、初回からバッドエンドのニオイをプンプンに放っていたものの、何だかんだで最終回は「とりあえずハッピーエンド」パターンで終了。

愛美はデザインコンクールに応募したらアッサリと入選。デザイン会社への就職も決まった。
進次は酒を止め、一級建築士になるために勉強を開始。再婚先の家族もサクッと幸せファミリーに。
結人のクラスのいじめ問題も、いじめられっ子に熱いメッセージを送ったらすぐに学校に出てきてくれ、クラスのみんなは「もう見て見ぬふりはしません」の大合唱。

前回まで、こじれにこじれていたみんなの夢が次々にかなっていく。なんちゅうチョロい世界なのか。

中でも一番チョロかったのが望美。
第2話で、25年間眠り続けてきた望美に対してマウントを取ってきた、感じの悪い同級生。彼女は、なんとあの時の話に感銘を受けていたそうで、「保育園の先生」という夢を思い出して保育士の資格を取得。そこで出会った人と結婚することになったのだという。

……一年足らずで!?

しかし結婚に反対する母親の策略で司会者がドタキャン。望美が代役を務めたところ、参列者が大感動して「どさんこTV」のアナウンサーとしてスカウトされた。
今まで何をやってきたのか分からない35歳をいきなりアナウンサーに抜擢!? どんだけの権力を持っている人なのか。
事故に遭って昏睡状態になっていたため、25年間をムダにしてしまった望美だが、何歳からでも夢はかなえられるし、人生はやり直せる。

そんなメッセージが込められているのかなとは思うものの、望美がアナウンサーになるためにやってきたことといえば、子ども時代にラジカセで色々と録音していた以外には、「アナウンサーになりた~い」だの「アナウンサーになるのはあきらめた」だのと言っていただけ。

「世の中、チョロい」というメッセージしか伝わってこない。

これが伏線のつもりなのか……

「伏線をキレイに回収」風の、取って付けたような演出にもイラッとさせられた。
デザインコンクールで入選した愛美の作品は、ドラマのメインビジュアルとして使われている鉛筆で描かれた望美の顔。タイトルは「35歳の少女」!
ま、それはいいんだけど、アナタが応募したのは絵画のコンクールじゃないよ、グラフィックデザインのコンクールだよ……。

ラストカットでは毎回、望美の顔面アップに「35歳の少女」の文字がドーンと乗せられていたが、最終回は望美が誕生日を迎えたことにより「36歳の少女」に。

たぶん、最後にコレがやりたくてのタイトルだったんだろうけど、別に上手い伏線じゃないよ!
25年間眠り続けてきた心が少女のままの35歳という設定がほどんど活かされないまま終わってしまったため、「そもそも何だったんだこのタイトル」としか思えないのだ。

遊川和彦からの裏メッセージを深読みしてしまう

みんなの夢がサクサクとかないすぎるため、初見時は「遊川さん、今回はまた随分投げやりなハッピーエンドにしたな~」と思っていた。
ただ、細かく見直してみたところ、チョイチョイ遊川和彦の仕込んだ“毒”らしきものも感じられる。

特に、望美と愛美が多恵の墓を訪れたシーンは異常だ。
バックに写り込む墓石に刻まれた文字。「○○家」というのは分かるが、その他に「夢」「和」「絆」「恩愛」「新居」とメッセージ性の高い文字が沢山……。
絵に描いたようなハッピーエンドを見せつつ、みんなの夢が墓石に刻まれているという意味深なシーンだ。
アナウンサーになるため、北海道でひとり暮らしをはじめた望美の元に多恵が現れたのも、完全に「あの世からお迎えが来たー!」だろう。

一応「……と思ったら夢でした~」というオチにはなっていたが、あまりに身も蓋もないハッピーエンドだったので色々と邪推してしまい、「そんなに簡単に夢がかなうわけないだろ!」という遊川さんからのメッセージを勝手に受信してしまった。

そもそもこのドラマすべてが昏睡中に見た夢だったなんてことは……!?
これまで以上に「何を見せられてるんだ?」感の強いドラマだったが、原作付きの無難なドラマが増えている昨今、ここまで自己主張&作家性を全面に押し出してくる脚本家は貴重な存在ともいえる。
次はどんなドラマでモヤモヤ、イライラさせてくれるのか!?

■35歳の少女

1:「35歳の少女」1話。ギャン泣き「うわぁ~ん」“頭の中10歳”な柴咲コウの演技にネットざわざわ
2:『35歳の少女』2話。見た目は大人、頭脳は子ども。柴咲コウは、逆「名探偵コナン」
3:柴咲コウ「35歳の少女」3話。鈴木保奈美演じる過干渉母親が「過保護のカホコ」とリンクする
4:「35歳の少女」4話。セーラー服を着た中学生・柴咲コウが反抗期に
5:「35歳の少女」5話。坂口健太郎が女子高生・柴咲コウと同棲開始
6:柴咲コウ「35歳の少女」6話「みんなを幸せにする!」と言いながら家族をブチ壊す望美
柴咲コウ「35歳の少女」7話。大人になった望美の「もう誰の幸せも祈らない」宣言
8:柴咲コウ「35歳の少女」8話。「じゃあ、一緒に死のう」鈴木保奈美が柴咲コウと無理心中を図る、唐突!
9:柴咲コウ「35歳の少女」広げまくった風呂敷がとっちらかったまま最終回に突入

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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