本という贅沢102『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(末永幸歩/ダイヤモンド社)

「アート思考」って、ひょっとしていま、一番大事なやつじゃないですか

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。今月のテーマは「出口」。 新型コロナウイルスの感染の広がりが収まったかにみえる一方、コロナ前の世界には戻れないという意識は共有されつつあります。今回取り上げるのは、そんな時だからこそ、あらゆる人に読んでもらいたい一冊――。紹介するのは書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんです。

●本という贅沢102『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(末永幸歩/ダイヤモンド社)

『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(末永幸歩/ダイヤモンド社)

デザイナーの男性と付き合っていた時、デートの行先が、ほぼ毎回美術館or展覧会だったことがある。毎週毎週、国内でも海外でも、当時はずいぶんいろんなアートを見た。
でも、実は、いろんなアートを「見た」と思っていたのは私の勘違いで。ある時、その彼にこんなことを言われた。

「ねえ、どうして友美って、作品を見ないの?」

どうやら、彼のアート観賞と、私のアート観賞は、まったく違うものらしいのだ。

彼は、美術館に行ったら、絵を見る。彫刻を見る。ひとつの作品の前でずっと動かないことも多い。
私は、美術館に行ったら、解説を読んで歩く。オーディオガイドがあったらもれなく聴く。図録を買うこともある。彼が会場から出てくるまでの間、図録を読んで時間をつぶす。

ある時、展示室から出てきた彼に
「どうして目の前の作品を見ずに、図録を読んでいるの?」
と聞かれて、「あれっ?」と、思った。

私にとってアート鑑賞とは、作品の背景を知ることであり、文脈を知ることであり、それによって目の前の絵を「解釈」すること、であった。
でも、彼にとってアート鑑賞とは、自分がその作品を見て何を感じるかを「体験」し、「思考」し、場合によっては「行動」すること、であるらしい。

クリエイターへの憧れが強すぎた当時の私は、彼の言葉にほえーーーーとなって、きゃ。ちょうかっこいい。好き。ってなった。

戻れるなら、あのときの私に会って、その頭をぽかっと殴りたい。
あの瞬間、もっとよく考えればよかったんだ。
ちょうかっこいい、好き。とかじゃなくて、さ。
多分、あのとき私は、すっごく大事なことに手を触れかけていたはずなんだ。

と、
10年以上前に私が一度うっかり取りこぼした大切な大切なことを、「ああ、これのことだったか!」と教えてくれたのが、この本になります。

2月に発売になったばかりの本だけれど、こんなご時世に、めちゃくちゃ売れているらしい。でも、その理由、すごくよくわかる。この本は、すごいやつだ(語彙

本を読む前と読んだあとに、世の中の成り立ちが、がらっと変わって見える本がある。自分の住む世界が、昨日とはまったく違う世界に変わる本。
この本は、そういう本です。

もともと中学生や高校生に向けた美術の授業が元になっているそうだけど、この授業はたったの6回分。だから、鑑賞するおもな作品も、6つだけ。
でもこの6つのアート作品を題材に、ああでもない、こうでもないと、楽しみながら、自分の頭の中をかきまわしながら読み進めていくと、どんどん目に見える世界が変化していく。

・リアルであるとはどういうことか。
・アートは必ず目に見えるものか。
・アートとそうでないものの線引きはどこにあるか……。

普段、私のように、解説だけ読んでアートを鑑賞した気分になっている人は世の中に結構いるらしい。
でも、このような問いを、自分ごととして考えていくうちに、気づけば自然とアートを自分の目で鑑賞できるようになってくる。すると、世の中が変わって見えてくる。

ポイントは、「アートの見方が変わる」のではなく「世の中の見え方が変わる」ことだと思うな。
これは多分、この先、自分が生きていくときの「姿勢」や「態度」が変わるということと同じなんだろう。

この本の中で、アーティストとは
① 「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
② 「自分なりの答え」を生み出し
③ それによって「新たな問い」を生み出す
存在だと書かれている。

おそらく、これまでの時代は、これをやるのはアーティストだけでよかったのだと思う。
みんなが同じ場所に向かえばいい時代は、誰かの考えを解釈すればよかったし、文脈を知ってその道から外れない考え方ができればよかった。図録ばかり見ていた私も、それほど苦労なく生きてこられた。

だけど、時代は変わっちゃったよね。
不確実で、複雑で、正解がひとつではない世界になったから。
つい最近、そういう世界になっていくことが決定的になったから。

ああ、この本で考えたようなことを、考えて続けていかないと多分、これからの人生を楽しみ尽くせないんだろうなって思いました。
誰もがアーティストのように、生きていく(生きていかないと楽しくない)時代になるんだろうな。

私、いま、この本を読めて本当によかったよ。

老若男女、全員におすすめの本って、ほとんどないのですが。
この本は、あらゆる人におすすめしたいです。

・・・・・・・・・・・・・・・

この書評コラムの連載がはじまって、老若男女全員におすすめできる! と思ったのは3冊です。

2018年はコレ。
あいつにムカつく理由が、私のほうにあったなんて

2019年はコレ、
人によって態度を変えていいのはなぜ?「分人主義」のススメ

そして、2020年はこの本だなあと思いました。

・・・・・・・・・・・・・・・

それではまた来週水曜日に。

●佐藤友美さんの新刊『女は、髪と、生きていく』が発売中です!

佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。

・恋愛で自分を見失うタイプの皆さん。救世の書がココにありましたよ!(アミール・レイバン、レイチェル・ヘラー/プレジデント社/『異性の心を上手に透視する方法』)・デブには幸せデブと不幸デブがある。不幸なデブはここに全員集合整列敬礼!(テキーラ村上/KADOKAWA/『痩せない豚は幻想を捨てろ』)
・人と比べないから楽になれる。自己肯定感クライシスに「髪型」でひとつの解を(佐藤友美/幻冬舎/『女は、髪と、生きていく』)

\n
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。