『おとちん』の著者こだま「セックスレスだから産まない、とは言えなかった」【セックスレス08】
●セックスレスに向き合う
何でかわからないけど「入らない」
――『夫のちんぽが入らない』は、交際期間も含めて20年間、文字どおり「入らない」という理由で夫とセックスができない主婦が主人公ですね。実際、作品に書かれている通り、「入らない」状態なのでしょうか。
こだまさん(以下こだま): はい。一度も入ったことがありません。つまり、夫とはずっとセックスレスです。「体にやさしいんじゃないか」という思い込みでベビーローションを使ってみたこともあります。ですが、「入らない」んです。
――「入らない」理由はなんでしょう?
こだま: それがわからないんです。夫とは大学時代からの付き合いなので、20代の時は色々と雑誌で調べたりしたんですけど、誰も「入らない」という悩みを抱えている人はいませんでした。)出版後「なぜ病院へ行かなかったの」と聞かれたのですが、それは本当に思いつかなかった。「入らない」女性が手術を受けたり、精神面のケアを受けたりしていることを初めて知りました。同時に「私だけじゃなかったんだ」と驚きました。
人に話せる悩みでもなかったので相談もできず、自分は「女として欠陥品なんだ」と思っていました。一人の問題ならまだいいですが、夫にかわいそうな思いをさせているという負い目もありました。
一方で、夫以外の男性とはできるんです。なぜなのかはわからない。夫のだけが「入らない」のは衝撃的でしたが、他の誰かのものなら入る、と救われた部分もありました。仕事で精神を病んだことがきっかけで自暴自棄となり、一時期、自傷行為のように出会い系の男性と関係をもちました。
夫は夫で風俗に行っていました。風俗店のポイントカードやパソコンの検索履歴を見てしまった時は心がざわつきました。一方で、ちゃんと他でしてくれていて良かったな、という安心もありました。
――彼とは、この件について話し合いをなさったことはありましたか?
こだま: 話はしていないです。ただ、もう、行為の後は布団が血だらけになるんです。なので、チャレンジする回数はどんどん減っていって、最後はお正月に1回だけ「儀式」のようにするようになりました。
夫とは兄妹のような、植物のような
夫とは仲の良い「兄妹」のような関係が続いています。私たちの間にはセックスが必要なかったんだと考えるようになりました。「夫婦だからしなきゃいけない」とお互い義務のように感じていました。交際を始めて17年後の35歳。私が仕事の関係で心と体を壊したことで、子どもをもうけることを諦め、「儀式」も終わりになりました。ほっとしました。もうしなくていいんだって。
――夫のもの「だけ」が入らないなら、パートナーを変える、離婚するということは考えなかったのでしょうか?
こだま: 一緒にいて楽しいので離婚は考えたことがありません。セックスレスは離婚の原因にもなりえますが、私たち夫婦にとってはなくてもいいものだったんです。
セックスレスで「産まない」結構いるのかも
――子どもが欲しいとは思わなかったんですか?
こだま: 元々子どもを欲しいと思えなかったんです。。働きたかったし、仕事と子育てを両立できる自信がなかったんです。私の母親が、仕事と子育てのバランスを崩して当たり散らしてきていたので、そういう風になるのが怖かったということもあります。
最初は、両家から「早く子どもを」と急かされていたので、子どものいる「普通」の夫婦にならなければいけないんだと思っていました。私の持病の担当医に相談して減薬し、妊活に向けて動き出したのですが、体調がどんどん悪化。「こんな思いをしてまで子どもを産むことはない」という夫の言葉で目が覚め、これまで通りふたりでやっていこうと決めました。
子どもを作らない理由について「セックスレスだから」とは言いにくいので、なかなか顕在化されていないですが、結構そういう方もいらっしゃるのかなと思います。
文章にできて、私は救われた
――お話を聞いて、小説の内容のほぼ全てが「事実」なんだと驚きました。読者からの反響はいかがでしたか。
こだま: いい意味でも、悪い意味でもタイトルが目立っているので、想定していたよりも広い層の方に読んでいただけました。おかげで、「我が家も同じ理由でセックスできません」という声や「こういう事情で子どもを持たないという方を知った。言葉に気をつけないと」という声も聞きました。
私自身も誰にも言えなくてずっと抱えていた「夫のちんぽが入らない」問題。声に出すと恥ずかしいですが、文章にすることはできて、タイトルを決めたらすらすらと書けました。もし、書くことができなかったら、共感の声がなかったら、今でも自分のことを「欠陥品」だと責めていたかもしれません。
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