「セックスレスは悪いことではない」2人の関係を深化させる方法

育児・教育ジャーナリストであり、『喧嘩とセックス 夫婦のお作法』という著書もあるおおたとしまささんと考える、セックスレス問題。後半は、セックスレスになりがちな日本人の性質、そしてセックスレスを解消していくためのヒントについて伺いました。

日本の「ゆがみ」がセックスレスを助長している?

――欧米人に比べて、日本人はセックスレスになりやすい、そもそもセックスの回数自体が少ないというデータもありますが、日本人があまり愛情表現をしないということも関係しているんでしょうか。

おおた それはあるのではないかと思います。「愛してる」と言わないまでも、普段から「あなたを思っているよ」という思いやりを伝えるのが下手な人が多いですよね。明治以前の日本は貞操観念とかも曖昧で、村全体で男女が共有されているみたいなところもあったようですので、いい意味で「束縛のない」文化だったという背景が関係しているかもしれません。逆にヨーロッパなどは古くから一夫一妻で、愛情表現をしっかりしていないと他の人に取られてしまうという危機感もあったかもしれません。

日本の心理学の大家である河合隼雄さんは、「母権的だった日本社会に、父権的なヨーロッパのやり方を持ち込んできたから、歪みがでている」と言っていました。その歪みがどんどん大きく出てきていて、セックスレスなどの問題にもつながっているのではないでしょうか。

親と「分化」できていない日本人

――著書の中では、「分化」できていない、すなわち親の影響から脱しきれていないまま大人になることがさまざまな問題を招くと言及されています。

おおた 「分化」というのは精神科医のボーエンが提唱した「ボーエン理論」というものから来ています。もともと人は出身家族の一員であり、成長するにつれて自己を確立していって、家族から独立した存在になっていく、という考え方です。自己分化が不十分だと、理性と感情が混乱する状態になりやすい。わかりやすい例だと、最近の「毒親」ですね。母が子を支配している関係のまま大人になり、その子が結婚すると、相手との関係を支配関係でしか結べない状態になってしまいます。「毒親」とはいかないまでも、ぱっと見わかりにくい、やわらかい支配関係になっている人もいます。

 その場合、例えば女性がセックスの主導権を握り、自分の気分次第で夫婦の性を支配する、という状態が起こりえます。セックスの主導権を握るというのは、「する」「しない」を決めるということ。たとえば「しない」と決めたら、セックスレスという状態で夫を支配できます。

 誰でも多かれ少なかれ「うちの家ではこうだった」というものを引きずっているものだと思います。それは習慣でもあったことですから、あってもおかしくはないことです。しかし、新しい夫婦なりの価値観を構築していくためには、そこから抜け出していくことも必要になるのです。お互いが持っている価値観をぶつけあって、思いを尊重しながら相互理解をすすめていかないと、本当の安定が得られません。

あえて「不平等な状態」を作り出してみてもいい

――相手を「支配する」という言葉にハッとさせられますね。

おおた そうなんです。「する」「しない」は自由意志のように見えて、「しない」と決めている方が支配する決定権を持っているんですね。セックスに限らず、夫婦関係って主従を争うことが多くなります。家事や育児もそう。その都度主導権を争うのは非常に疲れるので、あえて主従を決めて、例えば1週間や1ヶ月単位で交換する、というやり方もあります。「この週は私が責任を持って子どもの送り迎えをする」「この週はあなたがセックスについてリードする」などですね。不平等な状態を平等に割り振る、という考え方です。

 2人が全く同じペースで、同じ方向を向いているのはかなりしんどい状態ではないかと思います。常に完璧はなく、どこかに不満と満足がある状態。その状態を理解した上で、お互いに少しでもいい状態にしていくために、こういった方法は解決の一つになるかと思います。

断るときも、思いやりをもって

――セックスレスにならないために、一番大切にしなければいけないことはなんでしょう。

おおた 大事なことは2つあると思っています。まず第一に、断るとしても「したい」と思っている気持ちには応えないといけない、ということです。セックスをしたい、というのは愛情表現の延長です。「自分のすべてを受け取って欲しい」という気持ちの延長線上にあることなのに、それを「性欲を満たしたいだけ」「面倒くさい」と断ってしまうと、「自分の愛情を否定された」という気持ちになってしまいます。もし疲れていてできないんだとしても、「ありがとう」の気持ちは持っておきたいですよね。これは、うまくいっていてセックスレスではない時こそ気をつけるべきことかもしれません。

 第二に、「セックスレスは悪いことではない」と思うことです。長い夫婦生活の中では、例えば子どもを産んだあとなど、セックスレスになる時期が必ず訪れます。でもそれは進化していく証拠、新しいステップに進むための踊り場にいる状態なのだと思って、焦らないでください。

 夫婦のそれぞれが進化しているからこそ、そういう局面が訪れる時期は必ず来ます。「どうやったらお互い新鮮な気持ちで愛情を感じられるか」ということを意識して、2人でステージをクリアしていくつもりでお互いと向き合ってください。

 夫婦は、家族でもあり、恋人でもあり続けないとダメだと思っています。たとえ親になったとしても、「男」と「女」であることには変わりがない。お互いとしっかり向き合って、努力して関係を補強していく。それが何より重要だと考えています。

おおたさんと考えた、セックスレスへの処方箋

●セクシーな下着は逆効果
刺激はどんどんエスカレートする。そもそもセクシーさを感じていない相手に露出度高く迫られてもその気にならない!

●出会ったときの気持ちを思い出して
いきなり「セックスしよう」ではなく、まずは会話を楽しみ、触れ合いたいと思えるように、丁寧に2人の距離を縮めていくこと。

●夫婦関係は常にメンテナンスすべし
「夫婦」になったから安心していないか?お互いを思いやり、夫婦としても成長していこう。

●セックスは「心のふれあい」
行為の部分ばかりにとらわれない。お互いのことを思えば、日常のセックスが特別なものになる。

●価値観をぶつけあう
 「うちの家ではこうだった」を押しつけすぎない。お互いの価値観をぶつけあって、新しい2人ならではの価値観をつくりあげていく。

●時期ごとに「主な担当」を決める
セックスをリードする担当を夫・妻で交代で決める。家事や育児に対してもこの方法が有効なことも。

●断るときは思いやりを持って
どうしても疲れていて断るときも、「めんどくさい」は禁物。セックスは愛情表現と認識して、感謝の気持ちを忘れずに。

●セックスレスになっても焦らずに
セックスレスは、夫婦が進化していく予兆。レスになったことだけを見て焦らずに、お互いを見つめ直すきっかけに。

  • ●おおたとしまささんプロフィール
    育児・教育ジャーナリスト。リクルートから独立後、育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。男性の育児・教育、子育て夫婦のパートナーシップ、無駄に叱らないしつけ方などについて、新聞・雑誌へのコメント掲載など多数。心理カウンセラーの資格、中高教員免許をもち、私立小学校での教員経験もある。著書は『ルポ塾歴社会』『パパのトリセツ』など50冊以上。
朝日新聞バーティカルメディアの編集者。撮影、分析などにも携わるなんでも屋。横浜DeNAベイスターズファン。旅行が大好物で、日本縦断2回、世界一周2回経験あり。特に好きな場所は横浜、沖縄、ハワイ、軽井沢。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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