オーラルケアの教科書(下)

本当は怖い歯周病。女性のほうがかかりやすく、早産や糖尿病のリスクも

歯肉炎や歯周病など、やっかいな病気を引き起こす口腔内の菌。前回は、こうした菌を抑えるために毎日のきめ細かなオーラルケアが大切であることを学びました。今回は生理、妊娠、出産など女性に特有の現象と、お口の中の健康との意外な関係について。前回に引き続き、医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンのマーケティング担当・浦崎里奈さん、神奈川歯科大学教授の三辺正人さんの2人に聞きました。

気づいていないだけ。実は、国民の8割が歯周病

――前回は、オーラルケアを怠ると口の中で菌が増殖し、歯肉炎や歯周病の原因になるというお話をうかがいました。実際、日本人、特に若い女性はどれくらい歯周病にかかっているんですか。

三辺:日本人は成人の8割が歯周病に罹患していると言われています。歯周病の症状が顕著にあらわれるのは40歳以降ですが、若い女性でも妊娠や月経時に女性ホルモンの関係で歯肉が腫れることもありますし、睡眠不足やストレスの影響による免疫力の低下で、歯肉が炎症を起こすこともあります。また、間食による糖分摂取の影響で歯肉が腫れることもあるんですよ。

また、罹患率は低いのですが、侵襲性歯周炎という、数年間で急速に症状が進行する歯周炎が発見される場合もあります。20代では無症状で見過ごしてしまい、30、40代で突然、重症化して歯科受診する場合が多いので注意が必要です。

歯周病を確実に発見するためには、歯医者さんで「歯周病の予防を心掛けたいからチェックしてください」ということを伝えると、しっかりと診てくれますよ。

生理、妊娠、出産、更年期……女性ホルモンの変動で歯周病菌が増減

――歯周病など歯のトラブルは、男性に比べて女性のほうが起こりやすいと聞きましたが、本当ですか?

浦崎:本当です。女性ホルモンには特定の歯周病菌を増やす働きがあります。そのため、毎月の生理を始め、妊娠、出産、更年期など、ライフイベントごとに歯周病にかかりやすくなります。

――妊娠中の女性は、どんなことに気をつけたらいいですか。

浦崎:胎内の子どもに栄養をとられるため、体内のカルシウムが減る傾向があります。カルシウム不足になると歯の土台であるあごの骨が弱くなり、歯周病のリスクは高まります。

もう一つ気をつけたいのが、出産後、お母さんとキスをしたり、食べ物をあげたりすることで、母親の口の中の菌が子どもに移ってしまうことです。そうならないためにも、妊娠したら早めに歯科検診に行き、虫歯などがあれば早めに治療をしておくことが大切です。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのマーケティング担当・浦崎里奈さん

妊娠中に歯周病にかかると、思わぬリスクが

――妊娠中は歯周病にかかりやすいのでしょうか。

三辺:はい。妊娠によって女性ホルモンが増加すると、歯周病の原因菌が増殖し、歯肉が腫れやすくなります。また、つわりの影響で歯ブラシがきちんとできず、歯肉が腫れることもあります。

つわりで磨けないときは、口内洗浄剤を使うかうがいだけでもして、気分が良いときに歯を磨くようにしましょう。あるいは、ヘッドの小さめな歯ブラシを使用するなどの工夫をしてください。

――歯周病にかかった妊婦が低体重児を出産する可能性が通常よりも高くなるという話も聞いたことがありますが、本当ですか?

三辺:本当です。歯周病になると、口の中で生じた炎症性物質が血中に移行して子宮の収縮を促したり、歯周病原細菌が羊水や胎盤に定着して陣痛を促進したりする可能性が報告されています。そのため歯周病が重症化すると、早産、低体重児出産のリスクが高くなると言われているのです。

神奈川歯科大学の三辺正人教授

歯周病が原因で糖尿病になる?

――歯周病が他の病気を引き起こすことがあるというのは本当でしょうか。20、30の代女性がなりやすい病気などはありますか?

三辺:本当です。特に、歯周病と糖尿病は双方向の関連性が確かめられています。つまり、歯周病の患者は糖尿病になりやすく、糖尿病の患者は歯周病になりやすいということです。

歯周病にかかると、歯周病原細菌が血管内に入って全身に回ります。血管内の細菌自体は死滅するものの、細菌の持つ毒素が血糖値に悪影響を与えるのです。逆に、糖尿病の患者さんが歯周病の治療を行ったら、血糖値の値が改善したという報告もあります。

毎日のオーラルケア、私たちがやるべきことは?

――オーラルケアについて、20、30代の女性に向けてメッセージをお願いします。

三辺:生活習慣の乱れやストレスの影響で、若い女性にも歯周病を含む生活習慣病の危険性が高まっています。歯科医院を定期受診する習慣を今からつけておきましょう。あとは規則正しい食事や適度な運動、そしてストレスをためない生活を送ることが歯周病予防には重要です。ぜひ若いうちから習慣化していただきたいと思います。

浦崎:職場で歯磨きをするなど、歯への関心は高まってきていると思います。ただ、歯磨きだけで口の中全体を十分にケアできているわけではありません。1日2回、朝起きた時と夜寝る前に、口腔洗浄剤などを使ったマウスウォッシュをして、口の中を清潔に保つことを心がけてください。

明治大学サービス創新研究所客員研究員。ミリオネアとの偶然の出会いをキッカケに、お金と時間、行動について真剣に考え直すことに。オンライン学習講座Schooにて『文章アレルギーのあなたに贈るライティングテクニック』講座を開講中。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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