ポリアモリーとしての生き方を語るきのコさん
私らしい“結婚”【ポリアモリーのきのコさん(前編)】

ポリアモリーのきのコさん「自分は浮気性で“病気”だと思っていた」

telling,編集部、唯一結婚したことのない、わたくし・伊藤(31)。私らしい“結婚”のかたちを考えるこの企画。今回は複数の人を愛する「ポリアモリー」のきのコさん(34)に話を聞きに行きました。前編ではポリアモリーについて教えてもらいます。

●私らしい“結婚”02 ポリアモリーのきのコさん(前編)

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――そもそも、ポリアモリーってなんでしょう?

きのコさん(以下きのコ) お互いに同意の上で複数の恋人がいることです。私の場合は、7年付き合っているAさんとシェアハウスに一緒に住んでいて、もうひとりIさんという恋人もいます。複数恋人がいることは、二人とも知っています。

――どちらかが“本命”ということになるんですか?

きのコ 差がない、というと言葉に違和感があるなあ。個人の気持ちって一人一人に対して、違うものだと思うんですよね。Aさんには安心感を、Iさんにはときめきをもらえるからといって、「安心感よりときめきの方がいい」とはならないと思うんです。友達が5人いたとして、どの人も替えはきかないですよね。子どもが複数いたら、複数の子どもを愛するのは当然のことなのに、恋人だけが、恋愛感情だけが、どうして一人なんだろうとずっと不思議でした。

  ポリアモリーとしての生き方を語るきのコさん

恋人が2人います

――恋人同士が嫉妬することはないんですか?

きのコ Aさんも最初の頃は嫉妬もありましたが、もう付き合いも長くなって、私が離れないということがわかってもらえて、落ち着いてきました。今はもうセックスレスで、何年もしていません。Aさんは女の子が大好きなので、ほかでセックスはしているみたいです。そのことも報告してくれます。

――え、そんなことまで聞かなきゃいけないんですか?

きのコ それはポリアモリーだから、というよりは私の性癖です(笑)。私も相手もお互いにどんなセックスをしたのか、されたのかを隠さずにいたい。これはある種のエゴイズムだと思っています。「隠れてしてくれればいいのに」という意見もあるかもしれないですが、そこをつまびらかにすることが、私にとって気持ちが良いんですよね。 

そこをどのくらいオープンにするのかというのはカップルによって違います。パートナー間で決めるものだと思います。
Iさんは、Aさんと私の盤石な関係を知っている上で交際をスタートしているので、Aさんについては問題ないのですが「3人目はやめて」と言っています。だから、良いな、と思う人がいても、Iさんが嫌がるので他の人とは、体の関係を持たないようにしています。

ポリアモリーとしての生き方を語るきのコさん

恋愛と性愛をごっちゃにするのも変じゃない?

ーーAさんとはセックスをしないということですが、そうなると友達と恋人の違いはなんでしょう?

きのコ それは本当に難しいですよね。友達に関しては、親友・悪友・キスフレ(キスをする友達)・ソフレ(添い寝する友達)……とバラエティーがあるのに、体の関係が始まると、恋人かセフレの2種類しかなくなる。恋愛と性欲をごっちゃにするのも変じゃないかなあって思うんですよね。 

恋愛感情は間違いなくあるけど、性愛関係はない、というのがAさん。逆に、恋愛感情はないけどこの人とのセックスは好きっていうのもあると思うんですよね。

自己否定の10年間

――ロジカルには理解できるけど、気持ちがついていかないです。その考え方、周りに理解されるのは難しそうですね……

きのコ 私も「ポリアモリー」という言葉を18歳で知って、それからは自己否定の10年間でした。自分のことを浮気性のビッチで、病気だと思っていました。「彼氏に一途にならないと」と思いながら、浮気をしてしまう。自分のことが大嫌いでした。

 だから、結婚したらこの病気は治るんだって思って、27歳の時に1年半だけ結婚をしてみたけど、自分を“矯正”できなかった。もう自分を受け入れるしかない。モノガミー(お付き合いは一対一でするものという考え方に基づいたライフスタイル)にもなりきれず、浮気や不倫をスマートにもカジュアルにも楽しむことができない。消去法で「ポリアモリー」という生き方を選びました。

 ――なぜ、ポリアモリーを公表したんでしょうか?

きのコ 仲間を見つけたいと思ったんです。今はポリアモリーに興味を持つ人たちの交流会「ポリーラウンジ」の主催者もしています。そこで相談も受けているのですが「自分はポリアモリーでしょうか」という悩みが多いですね。「ポリアモリーかどうかは、あなたが決めること」を大前提に、私個人としては、うそや秘密がなくて、関係者全員の合意がとれていることだと思っています。つまり、ポリアモリーは、合意してくれる相手がいて初めて、成り立つ関係だと思うんです。 

例えば3人と付き合っていて、2人のパートナーとは合意しているけど、残る1人の存在を秘密にしているなら、それは「真剣な浮気」になるんじゃないかな。真剣かどうかよりも、合意があるか、誰も傷ついていないか、が大事な要素になると思います。

  • 多様性。金子みすゞの言うように「みんな違ってみんないい」と言える社会になれば一番だ。だけど、「いい」って言えないこともある。 
    それが、モノガミーにとってのポリアモリーかもしれない。私はモノガミーなので、恋人を他の人とシェアするのは、想像しただけで泣きそうになる。

     多様性を認めるってなんだろう。きのコさんにぶつけてみた。

     「『多様性を認める』と言っても、『あなたもステキ!』ってポジティブに応援する必要はなくて、『あなたはそうなんだ。ふ~ん』って。自分と違うものがいるんだなと、あたたかく見て放っておくくらいがちょうど良いのかなと思っています。 

    別に私は『あなたもポリアモリーになろうよ』と誘っているわけではないんですよ。ポリアモリーの方が生きやすい、ハッピーだと思う人が少しだけいる。その人たちを放っておいてほしいなということなんです」。 

  • 理解して、応援することだけが「認める」ではない。ただ、知らずにいることで、過去のきのコさんのように「自分は病気なのかも」と自己否定してしまう人もいるかもしれない。とてもつらい。知って、ちょうどよく放っておく。それが多様性との向き合い方なのかもしれない。 

【続きはこちら】ポリアモリーのきのコさんの結婚観

  • きのコさんプロフィール
  • 1983年福岡県生まれ。九州大学大学院人文科学府卒、メーカー勤務の会社員。2011年にポリアモリーをカミングアウト。185月『わたし、恋人が2人います。』(wave出版)を出版。

●好きな人をひとりに決められない。ポリアモリー・きのコさんの著書 
『わたし、恋人が2人います。』(WAVE出版)

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
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