telling, Diary ―私たちの心の中。

エステに行けば、転職サイトが儲かる。―telling, Diary

telling,世代のライター、クリエイターたちが日々の思いや本音を綴る「telling, Diary」。今回は、エンターテインメント企業勤務の女性が綴ってくれたダイアリーです。

●telling, Diary ―私たちの心の中。

エステに行けば、転職サイトが儲かる。

 マッサージやエステが好きだ。元来汗をかきにくく、運動が嫌いで痩せにくい。
 顔の丸さにむくみと、悩みは尽きずせっせとホットペッパービューティをスクロールする日々。

 先日、「代謝をあげるのに良い中国系のサロンがあるよ!」と言われ出向いたのは、中整体と岩盤浴で3時間。必ずマイナス2kgを達成できると謳っている整体院。そこで私は、大説教をくらった。

 ゴリゴリを超えてギャンギャン体を痛めつけられる。
 パソコン業務からくる肩の疲れに、スマホ酷使によるストレートネック。
 自分の血行が悪い理由は散々どこのエステでも言われてきて自覚している。
 あまりの激痛に絶叫を繰り返す。

 ただ、正直「痛い」エステや整体は他にも体験してきた。
 必ず言われるお説教も慣れたもの。
 はいはい、またどうせ「食生活が」とかなんとか言うんでしょ。

 しかし。ぎゃーぎゃーと声を上げる私に院長は言った。
 「こんなになるまでなんのために働いてるの?」
 「仕事のため? じゃあ、体のためには?  体のためには何をしてあげてるの?」
 「体がかわいそう。かわいそう、かわいそうだね。」

 それから、体をぎゅうぎゅうと捻られながら涙する私に(いや、私の体に)、院長はずっと「かわいそうだね、痛いね」
 と繰り返した。

 たしかに、つきつめると体に痛みを与えているのは院長のせいではなくて、まぎれもなく私のせい。

 ここまでにしておいたのは全部自分が原因だ。

 若い頃は。寝不足も、運動不足も、プライベートより仕事を優先するスタンスも、全部“勲章”だと思っていた。誇らしささえあった。

 肩甲骨を引き剥がされる。内モモを捻りあげられる。激しく絶叫する。

 ――何のため? 仕事のため? じゃあ、体のためには?

 涙が出てくる。

 そんなことを言ってくる人は、今までどこにもいなかった。

 「ここに来る人みんな言うヨ。仕事しなきゃ、お金稼がなきゃ、お金稼ぐためには接待しなきゃ、接待するにはお酒飲まなきゃ、稼がなきゃここに来るお金稼げないじゃない、って。でもここに来てなんて誰も頼んでないヨ!」

 本当にそうだ。

 「きれいになりたい。きれいなほうが、痩せてるほうが仕事で得をする、仕事で得をしたほうがお金が稼げる、お金が稼げれば、仕事の疲れをとるために、きれいになるためにもっとお金を使える」

 どこの落語だよ。

 私の涙は痛みから自身への怒りに変わり、最後は嗚咽を漏らして泣いてしまった。

 いかり肩も、目の下のクマも、脚のむくみも。頑張りの結晶。
 でも、それでしかない。
 無理をしたことで残るものなんて、たかだが、それしかない。

 「脱・痛み」しよう。店を出て、会社の人事に電話。

 「お話があります」

 みなさんはまだ、体より大事な何か、のために働きますか?

  

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
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