「低用量ピル」で可能になる生理、妊娠、私らしい生き方 三輪綾子・産婦人科医に聞く
低用量ピルは目的により2種類
「いつかは子どもが欲しいな」と漠然と思っていても、若いうちから自分の人生設計についてしっかり考える機会はそれほど多くはないものです。
婦人科医の三輪綾子先生は、次のように語りかけます。
「もちろん、人生は思い描いた通りにはいきません。それでも、20代、30代のうちに自分はどんな生き方をしたいのかを考え、それを実現するために、自分の体の状態を知っておくことはとても重要です。
なぜ、私がこのような話をするかというと、婦人科医としてこれまでに、予期せぬ妊娠をする人、欲しくてもなかなか子どもを授かれない人を多く見てきたからです。他人事ではなく、自分にも起こり得るのだと自分事としてとらえていただきたいんです」
その中で、「妊娠・出産を考えるなら、一度は考えてほしい」と三輪先生が勧めるのが、「低用量ピル」です。そもそも、「低用量ピル」とはどういう薬なのでしょうか。
「女性の体の中で、排卵と同時にホルモンが増減します。このホルモンの変動が、むくみや頭痛、腰痛などの不調を引き起こします。低用量ピルは、ホルモンの変動を少なくして、生理に関連する不調を軽減してくれる薬です」と三輪先生は説明します。
日本では「低用量ピル」と一括りで語られがちですが、実は服用目的によって2種類に分かれます。一つは、経口避妊薬(OC)。避妊を目的に使われる薬で、自費診療となり、1カ月分は3000円前後です。二つ目は低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP)。子宮内膜症や生理痛が重い、生理の量が多いといった症状のある人に処方され、保険適用になるため、1カ月分は1000円~2500円です。
まず「低用量ピル」と聞くと、最初に思い浮かぶのが、「避妊薬」というイメージかもしれません。
「日本では、避妊方法の主流はコンドームです。コンドームは性感染症の予防として有効ですが、避妊には不確実性が残ります。低用量ピルを服用することで、女性が自分自身で予期せぬ妊娠を防ぐことができます。日本ではどうしても、子どもは授かるものだから、自分でタイミングを決めるものではないという考え方や、避妊薬は性にアクティブな人が飲むものというような、避妊と貞操を結び付ける考え方が根強くあります。でも、女性も自分で妊娠のタイミングを決めていいんです」(三輪先生)
生理痛や月経過多は低用量ピルで軽減できる
加えてもうひとつ、月経困難症の治療薬としてもぜひ、知っておいていただきたいと三輪先生は説明します。
「生理痛がひどくてもガマンするのが当然、という考えがまだ残っていると感じます。子宮内膜症があるのに市販の鎮痛剤で痛みを紛らわせて、その結果症状が進んでしまう場合もあります。初めて内診に来ました、という患者さんを診てみると、筋腫がたくさんあったり、卵巣が10センチほどに腫れていたりするケースもありました。外から見るとお腹が平らであっても、筋腫がある人はいます。妊娠に関わるような病気が潜んでいる可能性もあるので注意が必要です」(三輪先生)
生理の量を人と比べることがないため、自分が特別かどうかわかりづらいという声もありますが、目安として「夜用ナプキンを昼間に使う、30分でナプキンがいっぱいになるといった人は、月経過多の可能性が高い」とのこと。
低用量ピルはホルモンの増減を抑えて排卵を抑制します。通常、1カ月かけて厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちて起こるのが生理ですが、ピルを服用すると内膜が厚くなりません。21日間連続して服用したあと、1週間服用をお休みする。その間に生理のような出血が起こりますが、排卵していないため出血量は少なく、生理痛も軽減できます。
特に、子宮内膜症は生理が来ている年齢の間は症状が進んでいくため、低用量ピルが効果的な治療法になります。「子宮内膜症は症状が進むと、戻すことはできません」と三輪先生は注意を呼びかけます。
排卵しないため、低用量ピルの服用中は妊娠することはありません。妊娠を望む場合は「服用をやめて3カ月程度で排卵が戻り、妊娠が可能になります」と三輪先生は説明します。
低用量ピルでコントロールするホルモンは「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類ですが、「低用量」とは「エストロゲン」の量を意味します。以前はエストロゲンが多く含まれる「中用量ピル」も使われていましたが、今は月経困難症の治療や経口避妊薬としては「低用量ピル」が一般的。また、このほかエストロゲンの量を最低限に抑えた「超低用量ピル」もあります。
避妊目的と月経困難症などの治療薬と大きく2種類の低用量ピルについて説明しましたが、どちらも医師の処方が必要です。
「内診が怖い、婦人科はハードルが高い、という声も聞きます。必ずしも内診が必要なわけではありませんので、まずはご相談に来ていただければと思います」(三輪先生)
気になる副作用は?
「ピルが怖い」と感じる原因の一つに、「副作用」に対する不安があります。「中用量ピルを使っていた時代のイメージが残っているのだと思いますが、今はかなり改善されていて、低用量ピルの副作用は少なくなっています」と三輪先生。
よくある副作用としては、不正出血や頭痛、むかつき、胸が張るといった症状。
「これらの症状は飲み始めに表れることが多く、飲み続けるうちに軽減することがほとんどです。多少の不快感であれば、継続していただけるようお伝えしています。
ただ、私自身も服用した経験があるのですが、気持ち悪さがガマンできず、これは続けられないな、と思った低用量ピルがあり、別の薬に変えました。低用量ピルでも国内で10種類ほどありますので、種類を変えれば気になる症状が収まる場合もあります。諦めずに、医師にご相談いただければと思います」(三輪先生)
そのほかの副作用としては、血液中に血栓ができる「血栓症」があります。タバコを吸う人、肥満、高血圧、脳梗塞や乳がんの既往がある人は注意が必要とのこと。服用年齢としては、生理が始まった10代から閉経するまで、もしくは50歳まで服用できます。
生活の質が向上する効果も
三輪先生ご自身も、以前低用量ピルを服用して、生理に伴う不調が軽減したそうです。
「私自身、生理中になんか眠いな、顔がむくむな、といった程度で、生理痛がひどいほうだとは思っていませんでした。でも、低用量ピルを服用してみると、そういった症状がすっとなくなり、朝起きるのがラクになりました」
さらに、仕事に集中できる、という効果も。
「婦人科は6時間ほどの長時間のオペがあります。夜用ナプキンをして臨むのですが、漏れていないか途中で心配になっていました。手術着を着たあとは、頻繁にトイレに行くことはできませんので、極限まで我慢します。手術が終わった瞬間にトイレに駆け込んでいました。
当直のときも、病院のシーツに漏れていないかと心配になったり……。ピルを飲み始めると出血量が減るため、このような心配がなくなりました。そうなってはじめて、『あぁ、私すごく頑張っていたんだな。我慢していたんだな』と気づきました」(三輪先生)
三輪先生と同じように、大事なプレゼンや出張と生理が重なった場合、集中できないという経験をした女性は多いと思います。低用量ピルはそんな働く女性の悩みを軽減してくれます。
さらに、仕事だけでなく、趣味やプライベートも、ピルを飲むことで計画を立てやすくなります。「ピルを飲むと出血が起こるタイミングが分かるので、大切な予定をそこに入れないよう調整することができます」と三輪先生。
現代女性にとって、低用量ピルを上手に服用することで、より充実した生活を送ることができそうです。
女性の方が若いうちは病気になりやすい
最後に、三輪先生にメッセ―ジをいただきました。
「20代、30代の女性には、仕事も結婚・出産も、いろいろな選択肢があります。だからこそ、自分の体を知り、どんなメンテナンスが必要なのかを把握した上で、戦いに挑んでほしいなと思います。
子宮筋腫、子宮内膜症、乳がん、子宮頸がんなど、圧倒的に女性のほうが若いうちに病気になるリスクを秘めています。どれだけ男女平等といっても、性差医療の観点で、これは避けられない事実です。だから、健康な男性と同じ時間働こうとすると、女性は病院に行く時間がとれないんです。このことを意識して、後回しにせずにメンテナンスの時間を確保してほしいなと思います。
何か不調があったときに、すぐに相談できる婦人科医の存在も大切です。人生を一緒に伴走してもらえるような、信頼できる医師をぜひ若いうちから見つけてください」
自分の体を知り、メンテナンスすることは、自分がどう生きたいか、ライフプランを考えることに直結します。ライフプランの中で、低用量ピルが有効だと思った方、あるいは少しでも不安な症状がある方は、ぜひ一度、婦人科医に相談していただきたいと思います。
三輪綾子(みわ・あやこ)医師のプロフィール:
THIRD CLINIC GINZA院長、一般社団法人・予防医療普及協会理事、東京産婦人科医会広報委員、産婦人科専門医、日本医師会認定産業医、検診マンモグラフィー読影認定医、乳がん検診超音波検査実施・判定医。産婦人科医として10年以上勤め、様々な女性の疾患やヘルスケア問題について取り組む。2022年、自宅でも職場でもない、安心できる居心地の良い第3の場所として「THIRD CLINIC GINZA」をオープン。臨床医としても働きながら、女性ヘルスケアの啓発や医療サイトの監修、講演などを行っている。
※女性のからだや健康に関する様々な講演が、下記イベントのアーカイブからご覧いただけます。
「わたしたちのヘルシー こころとからだの話をはじめよう」
主催 ウィメンズ・ヘルス・アクション×CINRA
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