【高尾美穂医師に聞く#3】生理痛のトリセツ。自分は普通?重い方?周囲の理解を得るには?
Q. 生理痛がひどく、起き上がれない時があります。冷えとりや温活、ヨガなどをしたり、市販薬を飲んだりしていますが、病院に行くほどではないかなと……。仕事が忙しい時に休みづらいのも悩みです……。(30歳、会社員)
高尾美穂医師(以下、高尾): 生理は病気じゃないから生理痛も我慢しなさいという風潮が、かつてはありましたけど、今の時代は重い生理痛は対策すべき課題という認識に変わっています。
生理痛が重い状態は医学的には「月経困難症」と呼び、本人が生活をする上で支障が出ていると感じている状態に対する診断名です。つまり、必ずしもどこかに病気や異常があるからというわけではなくても、生理痛で困っている人なら全員につく診断名と言えるものなのですね。
セルフケアによって改善し、生活がラクになっているならそれでいいのですが、相談者さんは起き上がれない時があるとのことなので、月経困難症に十分当てはまります。こういう状態であれば、まずは専門家に相談してほしいというのが私たちの想いです。
不調があっても自分でどうにかしなきゃいけないという気持ちがあるかもしれませんが、今は薬や治療で解決できるかもしれない時代だよ、ということを知ってもらいたいですね。
──厚生労働省の委託事業である「働く女性の健康応援サイト」によると、生理前や生理中に何らかの不調を抱えている人は、20代で80%以上、30代で70%以上もいるとのこと。また、月経に関する異常がある場合では「何もしていない」人が約45%で最も多いという結果が出ています(※)。具体的には、どのようなサインが出ていたら病院に行ったほうがいいのでしょうか?
高尾: 市販薬を飲んでも不調が続く、痛みが取れないなどの症状がある場合。また、会社や学校を休みたいと思っているケースも、受診するのに十分なレベルです。自分がやりたいことがあるのに、生理痛によってできていない状態ならば、それはもう対策するべき課題と考えていただきたいです。
病気ではないだろう、きっと自分だけじゃないし……と思ってしまうかもしれませんが、生理痛の強さや症状は本当に千差万別です。自分にとってつらい症状があるならば、それだけでも相談してもらいたいですね。
※厚生労働省・働く女性の健康応援サイトより。
生理痛の裏に、婦人科の病気が隠れている可能性も
高尾: 生理痛がある場合、将来的に子宮内膜症のリスクが高まるとも言われています。子宮内膜症の発症について、今のところ有力とされている説では、子宮の内側にある内膜は本来であれば生理の時に体外に排出されますが、一部が逆流し、卵管を通して腹腔内にばら撒かれてしまうとされています。内膜はばら撒かれた先で組織との癒着を引き起こしたり、痛みや炎症をきたしたりすることがあるわけです。これが子宮内膜症なんですね。
生理痛に対して適切に対処することは、今の痛みを治療で取り除くだけでなく、将来的な病気の予防にもなっているわけです。
──具体的にはどのような検査をしていくのでしょうか?
受診をしていただくと超音波検査を行い、子宮や卵巣の状態を診ていきます。ここで異常や病気が見つかれば、手術を含めた治療方法を提案することになりますが、超音波検査では小さいサイズの病気の種に関しては、はっきりと認識できないこともあります。これらが将来的に子宮筋腫や子宮腺筋症、嚢胞などになる可能性があるので、定期的な検査を継続していきます。
検査して病気が見つからない場合でも、ご本人が生活上の支障を感じていれば月経困難症と診断されますから、生理痛の対策として痛み止めの薬か低用量ピルが提案されることになります。市販薬を飲んでいた方が病院で処方される痛み止めに変えるケースもありますし、痛み止めだけでは効きが悪い場合は低用量ピルをすすめられる場合も。この2つは順番に試して効果をみていく必要はなく、併用することも可能です。
仕事や旅行…大事な予定と生理との折り合いのつけ方
高尾: かつては、大事な日に生理が来るか来ないかは運だったと思うんですよ。生理が来てほしくないと思っていたのに来ちゃったという話もよく聞きました。
ですが今は、確実に生理日をずらすことができる時代です。この日に生理が来ては困るという日があれば、ひとつ前の生理が始まったらすぐに相談していただければ、大抵はどうにかすることができます。生理周期が安定している方であれば、2つ前の生理をずらして大事な日に絶対に重ならないようにすることもできますね。これはアスリートにもおすすめしている方法です。
大事なイベントの時は、普段と違う状況になることを避けたい方も多いかと思います。処方のタイミングからイベントまでの期間が短い場合は、イベント期間中に薬を飲まないといけない可能性も出てきます。薬を飲まずに生理をずらせませんかと聞かれることはよくあるのですが、残念ながら今の医学では難しいのが現状です。どうしても生理をずらしたい予定がある場合は、計画的な受診の検討を、とお伝えしたいですね。
あとは大事な予定に生理が重なったら絶対ダメかというと、そうでもないケースもあります。アスリートたちへの調査データでは、生理中のほうが調子がいい方も1割弱いるんですよ。人それぞれだと言えます。
生理が重いことを周囲にどう伝える?
──生理痛が重いことへの周囲の理解が得られない、近しい人とのコミュニケーションに悩む、といった声も聞きます。
高尾: きっとみなさんは、自分とどれくらい近しい関係の人かということを基準にして、人間関係を考えていらっしゃるのではないかと思います。一番近い人はパートナーや一緒に住んでいる家族。そして仲の良い友人。このあたりまでがプライベートな関係ですよね。その外側にいるのが上司や同僚、一週間に何度か顔を会わせる仕事関係の人などではないでしょうか。
生理がつらいという話は、かなりプライベートな部類の話に入りますよね。その話を誰ならできるのかということだと思います。また、身近な人に知ってもらいたい気持ちと、会社の人に知ってもらいたいと思う気持ちは、まったくの別物であるとも考えます。なかでも、会社の人と生理に関するコミュニケーションの機会を持つことはなかなか難しい側面があるのではないかと。
生理休暇の取得についても、よく話題にあがるようになりましたね。一年で12回の生理が来るとして、12回とも仕事を休まなければならない状況は月経困難症と言えますから、まずは専門家への相談が必要になってきます。合う方法に出合えれば、一年に12回も生理休暇を取らなくてもすむような時代でもあります。自分なりに調子が上向くような努力を重ねながら、まわりにも知ってもらうよう、少しずつでも声を挙げていくのがいいのではないかと思います。
やっぱりお互い人と人ですからね、努力している姿が見えれば、周囲は理解しようサポートしようという気持ちが働きやすくなるわけです。ただ、厳しいようですが、100%理解してもらえるとは思わないほうがいいと私は考えています。
まずは、当事者であるご自身が課題に気付いてアクションを起こすこと。これがもっとも大切なことです。なぜなら調子がいいあなたでいることは、まわりの人にもよい影響をもたらすからです。例えば、お母さんが生理痛でつらくてご機嫌ナナメというのは、子どもにとっては大問題ですから、少しでも笑顔でいたいもの。つらいけれど我慢するといったご自身を犠牲にする方法ではなく、自分とまわりの大事な方のためにも、しっかり治療に向き合うことをおすすめしたいです。
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