XXしない女たち #05

「毛がいらない女たち」 VIO脱毛に感じた自己決定権

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 疑問を抱き、自らのルールの中で生き、社会の“こうあるべき”を手放す人たちだっている。働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研による連載「XXしない女たち」第5回目は、「下の毛」がいらない女たちをお送りします。
家事がいらない女たち。39歳メーカー勤務「女性なのに家事が苦手。自分を許すことから始まった外注ライフ」 女らしさがいらない女たち。32歳外資系会社員「パンセクシュアルな自分は、相手との関係性で性のあり方を決める」

女子が脱毛するのは当たり前?

「彼氏ってね、案外女性のそういうところを見てるのよ」
社会人2年目のSさんは、はじめて行った脱毛サロンで、スタッフに言われた言葉が忘れられない。昨年、脱毛について興味を持ち、いくつかサロンを見てみようという軽い気持ちでカウンセリングに行った。だが、そこで出会った女性スタッフの「男性のために脱毛をすべき」というこの発言に、どうしても納得がいかなかった。

もともと脱毛反対派だった彼女が昨年、前述の脱毛サロンに行ったきっかけは、社会人同期男子のある言葉だった。
「みんな脱毛どこ行ってるの〜?」
一昔前だと、「ジェンダーレス男子」なんていわれたかもしれないが、いまでは女子トークにすんなり入れる男性も多い。彼は、そんなひとりだった。
その場にいた女性たちは、戸惑いながらも通っている脱毛サロンや医療脱毛の話をしていた。Sさんは、彼の「女子はみんな、下の毛を脱毛してるもの」という固定観念も衝撃だったし、なによりその場にいた女性たちが揃いも揃って当たり前のように脱毛をしていることに驚いた。
「いま思えば、同調圧力でした…」

脱毛サロンをはしご

Sさんは、脱毛はしていなくても、剃刀で毛のケアは日常的におこなっていた。少しでもそれがラクになるなら・・という気持ちで、脱毛サロンのカウンセリングをはしごするに至った。そこで放たれたのが冒頭の言葉。絶対にここのサロンには行きたくないと思い、別のサロンを何軒も回ってやっとここなら、というところを見つけたという。

そんなSさんも、いまでは下の毛までツルツル。脇や腕よりも、“ツルツル”にすることに抵抗を抱えやすい「下の毛」も脱毛しようと決意したのは、生理によるお肌のかぶれやムレが気になっていたこと。そして、「せっかく脱毛するなら全身やっちゃったほうがお得かも」というちゃっかりした気持ちだった。あくまで、“男性目線”ではなく“じぶん目線”での決断だった。

彼女は、「間違いなく自分はツルツルになって快適になったし、よかった」と胸を張るが、一方で誰もが脱毛すべきかどうか論でいうと、ハテナがつくという。毛が濃いのが魅力的だと思う人や、あえて毛を残したいという女友だちもいる。それに、脱毛は安くないし、施術は気持ちのいいものではない。それなのに、「下の毛の脱毛は当たり前」が横行してしまうことには不安も感じるというのだ。

一方で、「夫にも下の毛を脱毛してほしい!」と嘆くのがメーカー勤務のTさん。今年40歳を迎えた彼女は、4歳の娘と夫の3人暮らしだ。
Tさんが“ツルツル”になったのは2年前。将来、自身が介護される状況になった時のために下の毛を脱毛しておく「介護脱毛」というワードをSNSで見てから興味を持ち、美容皮膚科の先生に「白髪になるとできなくなるのよ」と言われたことで、VIO脱毛(デリケートゾーンの脱毛)を始める決心がついた。

家事の労力削減のため

彼女のツルツルメリットは分かり易い「掃除問題」。

毛がなければもちろん、落ちない、抜けない、気にならない。白い床にクニャッと曲がった短毛が落ちているのを発見すると、夫にも、下の毛の脱毛をしてほしいと切に願うという。彼女にとって、毛をなくすことは、家事を減らすことに近いのかもしれない。

Tさんが20代の頃は、水着ラインでIライン(真ん中の縦ライン)だけ残している女性が多かった。今もVIO脱毛が流行っているとはいえ、全体としてはまだ一般的とまでは言えないだろう。そんなこんなを考えると、毛のデザインはその時のトレンドに左右されるのではないか、とも思う。最近では、VIOの部位も含め幼少期から毛を薄くできるという子ども向けの脱毛サービスも見かけるが、「娘が、いずれやりたいと言えばやらせるかもしれないけれど、今後、毛の流行がどうなるかわからないから、今はやらない」。たしかに毛を残すかどうかの意思決定権は、最終的には子ども本人にあるのだろう。

ママとパパの毛の違いは、どう説明したら?

そんなTさんも、4歳の娘から毛について聞かれたときは戸惑った。
「なんでパパは毛があるのに、ママは毛がないの?」
女性だから、男性だから、とは説明したくない。でも現に、ママはツルツルにしているのに、パパはボーボー。ちょっと難しいけど、と前置きをしたうえで、「女性は毛をなくす習慣があるけど、ほんとうは、男女で決めるのは良くないよね。パパも毛をなくしてもいいんだもんね〜」と丁寧に説明したという。
子どもである彼女たちが大人になるときには、ひょっとしてジェンダーも関係なく、自由に毛のデザインを選択できる未来がきているのかもしれない。

最後にもうひとり、下の毛がいらない女性を紹介したい。

初ボーナスで全身脱毛

Rさんは、教員として関西で働く26歳の女性。はじめてもらったボーナスで、全身脱毛をはじめたという。それまでは、見える部位である足・腕・脇を2日に1回、剃って処理していたが、ずっと続けたときの肌へのダメージが心配になった。周囲の友だちは先に全身脱毛を始めていたし、脱毛へのハードルは全くなかった。

専門学校で教員をつとめるRさんの職場は、生徒や教員たち含め20代が多い。つい先日も「先生脱毛してる?お肌きれい!」と言われ、「脱毛」という言葉が普通の会話の中に当たり前に出てきたという。彼女たちの世代では、脱毛はもはや当然のことになっているのだな、と思ったという。

下の毛まで全身脱毛してから、恥ずかしいと思ったことはある?という質問にも、Rさんは「ない」と即答。さすがに母親には「下の毛がツルツル」であることは驚かれたが、友人たちには「お金かけましたよ!どうどうどう?」というくらい、ツルツルなことを自慢できるという。銭湯に行っても、まだ “下の毛ツルツル”は多数派ではないし、若干の視線も感じなくはないというけれど、それでも彼女の堂々とした言葉には、筆者も勇気をもらった。

男性の脱毛にも賛否

先日、TVのあるバラエティ番組で「男性のVIO脱毛」がトークテーマになっていた。“脱毛しました芸人”の彼らは、「世界観が変わった」「美意識が上がる」などすっかりツルツルの魅力にハマっていることを披露。20代などの若手でもない彼らが脱毛の虜になっているというのは、脱毛が少しずつ浸透している表れといえるかもしれない。この番組への反応は様々で「男性も脱毛する時代を感じられた、新しい」という意見の一方で、「おじさんの脱毛話はやめてほしい」などの辛辣な意見も散見されるのが今の世の中のリアル。賛否両論があることも含めて、「脱毛すること」はある種トレンド化してきている。

ただ、今回話を聞いた3名の女性たちは、“ツルツル”という共通点は持ちながらも、全く異なる背景や想いがあった。

「脱毛はマナーだ」「女性は下の毛はあったほうがいい」「男性の脱毛はちょっとね」

ともすると、毛の問題は、1人ひとりの価値観に基づいた「こうすべき」との視点から、意見が違う人に対して批判してしまいがち。でも、「周りに言われたから」「社会がこう言うから」ではなく、「私は、私の毛とどう付き合っていこうか」と自らに問い、自分の毛を「親友」くらいに見立てて、対話してみることが自己決定の第一歩なのかもしれない。

少し前まで、脱毛広告には、女性たちを駆り立てるようなメッセージが多かったように思う。脱毛や美白などを推奨するようなこうした風潮に、がんばることが多すぎない?とツッコミを入れた広告に、共感の声が集まったのを思い出す。そうなのだ。私たちは、他人に駆り立てられたくはない。誰かにやれと言われてやりたくない。あくまで自分の視点で「スッキリする」「自己満足度があがる」ことを求めていて、それが結果的に“下の毛ツルツル”に繋がっただけなのだ。

キャリジョ研の調査では、VIO脱毛をしている人のうちハイジニーナ率(VIO全て毛がなく、ツルツルの状態)は、45.2%で一番多い結果となった。VIO脱毛の理由としては「臭いやムレを防ぎたいから」「清潔感を保ちたいから」が多く挙げられた(※)。

※・・・2022年10月3日、博報堂キャリジョ研が実施したオリジナル調査。「医療・美容脱毛している」と回答した20~40代の女性(N=42)を対象に実施

(写真:Getty Images)

家事がいらない女たち。39歳メーカー勤務「女性なのに家事が苦手。自分を許すことから始まった外注ライフ」 女らしさがいらない女たち。32歳外資系会社員「パンセクシュアルな自分は、相手との関係性で性のあり方を決める」
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。