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バーで出会った男性に独身偽装されて「結婚」への憧れをなくした話

婚活・恋愛市場などで、独身のふりをする既婚者による被害が後を絶ちません。婚活中の神山園子さんは、バーで出会った男性に既婚であることを隠されたそう。時間を無駄にしたことはもちろん、それ以上にダメージがあったと言います。
「鉄を熱いうちに打てない」コロナ禍の恋人探しの現場から

長く婚活・恋活をしていると、「時間の無駄だったな」と愚痴りたくなるような出会いも経験すると思います。全く話が弾まなかった、相手の自慢話を聞くだけだった……等。それでも数ある出会いのなかで、最も時間の無駄と言えるのが「既婚者に騙されていた時間」ではないでしょうか。独身のふりをして婚活女性に近づいてくる不届き者。私もそんな独身偽装に騙されかけた一人です。

バーで声をかけてきた男性

まだコロナが流行る前、私は出会いを求めてよくカウンターバーに足を運んでいました。その日も会社からの帰り道にたまたま見つけたバーにふらっと入ったところ、横に座っていた男性客に声をかけられたのです。

「よく来るんですか?」

初めてですと答えると、彼は「そうなんだ!すごく美人さんが来たなと思って」と笑顔を見せました。スーツをピシッと着こなした姿は怪しい人には見えず、むしろ顔もいで立ちもタイプ。素敵な男性から褒められて悪い気はしませんでした。

「僕はこの辺に住んでいるのでよく来るんですよ」

話を聞くと、彼は33歳で大手企業に勤める会社員。仕事終わりに軽くお酒を飲むのが趣味で、このお店の常連だとのこと。出会いに飢えていた私は左手の薬指を確認したのですが、指輪はなし。33歳、この見た目でエリートなのに独身?と突然現れたハイスぺ男性に胸が躍ります。しかし、彼女がいるかも……と思い、探りを入れました。

まずは「晩ごはんはいつもどうしてるんですか?」という質問で彼女と同棲していないかチェック。「いつも外食ですね~」という彼は、奥さんや彼女に作ってもらっているわけではなさそうです。
私が料理が趣味だと言うと「こんな美人で料理もできるんですね~」とも。完全に口説かれてるよね?と私は舞い上がりました。しかし……。

「あ、僕そろそろ帰ります」

これからというところで連絡先交換もしないまま、彼は帰ってしまいました。向こうから声をかけてきたのに、連絡先も聞いてこないの?と驚き、そしてせっかくの出会いがフイに……と落ち込みました。

それから私は「彼に会えるかもしれない」と、毎日そのバーに通いました。ちょうどアプリや婚活パーティーに疲れていたタイミングで、この出会いをどうしてもモノにしたかったのです。

画像はすべてGetty imagesより

彼と定期的に会う日々 それでも連絡先は聞かれず

通い詰めたかいがあり、彼にはすぐ再会することが出来ました。「あっ、この前の~」なんて偶然を装いつつ、隣の席へ。

話の流れで私が恋活中だと告げると、彼も「僕もアプリやってました!」と教えてくれました。でも今はやっていないとも。「彼女出来たんですか?」と聞くと「できてないです」と……。
それを聞いて私のテンションは最高潮。なんとかしてこの人と付き合いたい!と思いました。しかし彼はこの日も連絡先を聞かないまま、30分ほどで帰ろうとします。
次回の約束を取り付けたい私は、「次いつお店に来ますか?」と聞き、その日に私も来ますね!と言って彼を見送りました。

それから私たちは週に1~2回、バーで会って話をするようになりました。ただ、彼はいつも30分ほどで帰ってしまい、連絡先も交換しないまま。意地になっていた私は「自分からは聞くまい」と、彼が聞いてくれるのを待っていました。

その日は、私と彼がいつものように会話をしていると、別のお客さんが声をかけてきました。「二人は付き合ってるの?」
否定すると「そうか!ごめんね。でも、お兄さんこの子のこと好きでしょ!」と絡んできました。気まずいな~と思っていたら、彼は「そうですね」と返したのです。
その言葉を聞いて、「私もこの人のこと好きかも!」とドキドキしていました。

しかし「じゃあ僕はそろそろ」と、彼はその日も連絡先を聞かないまま去って行ったのです。

さすがに私も驚き、彼を見送った後、バーのマスターに「なんで連絡先聞いてくれないんですかね……」と愚痴をこぼしました。

驚愕の事実!彼女はいないけど妻はいた

するとマスターから驚きの一言が。
「まあ、〇〇さん妻帯者だからね……」

なんと彼は20代前半で結婚しており、子どもが2人いるというのです。

それを聞いた時のことは今でも忘れられません。頭から水をかけられたような気分で、さっきまで舞い上がっていた自分が恥ずかしくて、消えてしまいたくなりました。
たしかに彼は「彼女はいない」と言っていましたが、「妻がいない」とは言っていません。でも、住んでいる部屋の間取りをワンルームと言ったり、毎日外食だと言ったり、既婚であることを明らかに隠していました。指輪は普段からしていないのか、意図的に外しているのかわかりませんが、こうなるとわざとのようにさえ思えます。

「まあ男は誰しも女性と仲良くしたいものだから、そんなに怒らないであげて」
彼をかばうようなマスターの言葉は、私の男性不信をあおるだけでした。

独身偽装の彼を直接問い詰めると……

私がすべて知っているとは思いもしない彼は、後日バーで会うと「今日もお綺麗ですね」「(バーの外へ)連れ出したいな」と軽口をたたいてきました。
黙っていようかとも思いましたが、我慢できなくなった私は「私が綺麗だから、独身のふりして口説いてるんですか?子どももいますよね?」と問い詰めました。
すると「あ…えっと…」と彼はしどろもどろに。しかし、これで引き下がると思いきや「奥さんはこんなに美人じゃないから、つい」などと言ってのけたのです。

私は怒りを通り越し、呆れ、そして彼の愚行を知らないであろう妻のことを不憫に思いました。その日を最後にバーにも行かなくなり、彼とはもう会っていません。ただ、同じようなことを繰り返しているんだろうなと想像しています。

似たような話は、友人からも聞きました。聞く限り、既婚を隠して近づいてくる男性は口が軽く、大胆に口説いてくる共通点がありました。「女性を口説く」という行為を楽しみ、“不倫ではない、真剣な恋愛の場”で自分がまだ通用するか試しているのでしょうか。

私が彼に近づくためにバーに通った期間はおよそ2か月。婚活中の大事な時間をすっかり無駄にしただけでなく、「将来、夫がこんなことしたらどうしよう」「男性は妻一筋とはいかないのだろうか」と、結婚に対してマイナスな感情を持つようになってしまいました。
彼に植えつけられた男性への偏見は、未だ私の中にどす黒く残っています。「愛妻家」と言われている男性もどうせ浮気してるんでしょ、と信用できなくなってしまい、結婚に対して前向きな気持ちも持てないまま。実際に騙されていた時間以上のものを奪われたように思います。

「鉄を熱いうちに打てない」コロナ禍の恋人探しの現場から
1991年生まれ。芸能・出版などマスコミ業界で働く会社員。リアルなミレニアル世代として、女性特有のモヤモヤや働き方などを主なテーマに記事を執筆中。
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