●独身偽装#5

婚活アプリで知り合った“独身”男性は実は妻子持ち。騙された40歳女性「泣き寝入りはしたくない」

婚活アプリでの出会いが一般的になる中、トラブルも増えている。とりわけ、既婚男性が自身を独身と偽って婚活アプリに登録し、そこで知り合った女性と交際するケースが増えているという(独身偽装)。騙される側がシングルマザーの場合、子どもの世話などで頻繁に会えなかったり、外泊ができなかったりすることで、既婚と気づきにくい。こうしたことも、独身偽装する男性にとっては好都合なようだ。被害に遭ったシングルマザーに話を聞いた。
“独身”の彼はまさかの既婚者。示談金200万円支払われるも「馬鹿にされ悔しい」

ランチで初対面 3日後に告白されて

「将来も一緒にいたいと思った相手。まさか結婚しているとは思いませんでした」

そう話すのは大阪市でパートとして働く美紀さん(仮名、40歳)だ。
美紀さんは5年前に離婚。現在は、小学2年の娘と2人暮らし。再婚を視野に2021年夏、婚活アプリに登録した。
ただ、出会う男性の中にはボディタッチをしてくるような男性も多く、いい出会いはなかったという。

そんな中、美紀さんへ「いいね」を送ってくれたのが、「ゆうた」(仮名・35歳)だった。
ゆうたさんがアプリに登録していた写真は、華やかさはないが、さわやかな印象。色白で筋肉質の様子も伺われた。プロフィール文は長めに書かれていて「これまで仕事をがんばりすぎて、いつの間にか35歳になり、出会いがないので登録しました」「離婚されていたり、お子さんがいる方も私は気にしません」とあった。
「真面目で誠実な感じ」がした美紀さんはゆうたさんと会うことを決めた。初めて会ったのは9月上旬。2人でランチをすることになった。

写真の通りに清潔感があるゆうたさんを、美紀さんはすぐに気に入った。スポーツ関係の会社を経営しているという、ゆうたさんは仕事の話をたくさん聞かせてくれた。知的で、話し上手で、真面目な印象。働きながら子育てをしている美紀さんを「尊敬している」とまで言ってくれた。自身の人間性を評価してくれているような気がして、「この人なら信頼できるかも」と美紀さんは感じた。ゆうたさんからは本名のフルネームも聞いた。

ランチから3日後。「誰にもとられたくない」と突然会いに来た、ゆうたさんに告白され、2人は交際をスタートさせた。

ゆうたさん(左)と美紀さんの交際中のLINEのやりとり(画像の一部を加工しています)=美紀さん提供

「夫婦ってこんな感じなのかな」

交際中は毎日のように電話して、週2~3回会う生活になった。「少しでも長い時間一緒にいたいから」と、美紀さんの仕事がない日の娘が学校に行っている間や、寝ている時などにゆうたさんが美紀さんの家に来て会うことが多かった。街で子どもを見かけると「可愛いね。(美紀さんの)娘さんのこともちゃんと考えてるから」。自宅でたこ焼きパーティーをした日には後で、「夫婦ってこんな感じなのかな」とのLINEがあった。

「将来住むのは戸建てがいい?マンションがいい?」「俺はまだ結婚を経験したことがないから美紀のほうが先輩だね」などと、ゆうたさんから結婚を意識したような発言もあった。美紀さんの職場にゆうたさんが突然会いに来ることもあり、「私のことを大切に思ってくれてるんだな」と感じていた。

しかし10月下旬、美紀さんはあるきっかけで、ゆうたさんから聞いた彼の本名が偽名であることに気づく。勤めている会社をネットで見つけると――。

ゆうたさんの写真とともに会社のサイトに載っていた名前が、教えてくれたものとは違ったのだ。疑問に感じて会社のサイトにあった名前を、Facebookで検索すると写真とともに、自身の子どもについて、ゆうたさん本人が綴ったアカウントが出てきた。

「頭が真っ白になって、何が起きたか分かりませんでした。目の前にある、Facebookの情報が噓なんじゃないかって。子どもがいることは何かの事情で隠してはいるけど、もうすでに離婚はしてるんだろう、と思おうとしました」

「不倫と知ってて付き合うようなアホな女は嫌」

「私に隠してることあるよね?」

11月上旬、デートの帰りの車の中でゆうたさんを問い詰めたが、「なんで?」ととぼけられた。
「SNS見たよ。私に教えてくれた名前、本名じゃないよね。子どももいるし、結婚してるんだよね?」と聞くと、「うん、ごめん」とゆうたさんは子どもがいることも、既婚者であることも認めた。

なぜ噓をつき、誠実なフリをしたのか――。
ゆうたさんは「心でつながりあえる人と一緒にいたかった。既婚者だと知られたら、付き合ってもらえないと思った」と話した。

美紀さんは再婚も視野にアプリに登録し、“独身”と偽ったゆうたさんに出会った。「真剣に婚活してる人を騙すなんて、卑怯じゃない?」と美紀さんが言うと、「不倫と知ってて付き合うようなアホな女は嫌だから」と返され、妻との離婚の可能性について「子どもが成人するまで絶対に離婚しないと決めてる」と完全に否定。2人の関係は2カ月弱で終わった。

ゆうたさん(左)と美紀さんのLINEのやりとり(画像の一部を加工しています)=美紀さん提供

弁護士に相談してみても…

思い返すと、ゆうたさんの自宅に行ったことは一度もなかった。
でも、子育てをしながら働いている美紀さんは、「自分が仕事や育児で忙しい」から、ゆうたさんが会いに来てくれている、と考えていて不審には感じなかった。

美紀さんは現在、ゆうたさんに慰謝料を請求することを検討している。
結婚しているのに独身だと偽って体の関係を持った場合、「貞操権(性的な関係を結ぶ相手を自分で選ぶ権利)」を侵害されたことになるからだ。

ただ「弁護士に相談する」とゆうたさんに言ったら、「そっちがけんか腰ならこっちも」と返答してきた。実際、交際期間が短いことや、ゆうたさんが経営者で訴訟慣れしていることなどから、美紀さんは相談した弁護士から「慰謝料を取れても費用を差し引くと手元に残るのは数十万円。精神的負担に見合ったものではないかもしれない」と言われた。

美紀さんは「泣き寝入りはしたくないです。純粋にパートナーを探している人を、平気で騙す人がいることが許せない」と話す。

“独身”の彼はまさかの既婚者。示談金200万円支払われるも「馬鹿にされ悔しい」
1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
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