●独身偽装#4

“独身”の彼はまさかの既婚者。示談金200万円支払われるも「馬鹿にされ悔しい」

既婚男性が自身を独身と偽って婚活アプリに登録し、女性と交際するケースが増えている(独身偽装)。共通の知人がいない場合が多いアプリでの出会いは、住んでいる場所や婚姻歴など噓をついても気づかれにくいことが背景にあるようだ。警戒心を持ってアプリに登録しながらも、被害に遭った女性に話を聞いた。
彼氏が既婚者だと発覚したら?法的措置や証拠集めを独身偽装に詳しい元探偵が解説 婚活アプリで知り合った“独身”男性は実は妻子持ち。騙された40歳女性「泣き寝入りはしたくない」

メッセージで違和感がある人は会わないようにしてた

「かなり疑ってかかったのに騙されました」

宇都宮市の団体職員・絢子さん(仮名・38歳)は、婚活アプリで知り合った既婚男性に「独身」と偽られ、3カ月交際した。

絢子さんは2020年春に離婚し、現在は1人の娘がいるシングルマザーだ。「精神的な支えになるパートナーがほしい」と、21年の年明けから婚活を始め結婚相談所に登録。紹介された10人程度と、お見合いをしたが、しっくりくる相手に出会えなかった。

そこで友人に勧められたアプリに登録、アプリを通して出会ったのが宏人さん(仮名・35歳)だった。

そもそも疑い深い性格の絢子さんは、実際に会うに至るまでも慎重だった。アプリ上で何度もメッセージを重ね、土日に返信がない人や、「宇都宮から都内に通勤している」と説明する居住地がはっきりしない人など、“独身かどうか疑わしい人”とはやり取りをしないようにしていた。

しかし、宏人さんのプロフィールは丁寧。メッセージでも「野菜をまとめ買いして冷凍している」「ハンバーグにはおからを入れるのが好き」などと生活感がある話題を送ってくることが多かった。プロフィール写真はアプリに載せてはいなかったが、宏人さんがメッセージで送ってきた写真は洗面所の鏡に映った自分の姿を撮ったもの。薄めの顔に眼鏡をかけていて、絢子さんは知的な印象を受けたし、背景の洗面所は一人暮らし用のマンションのように見えたという。
ランチをする約束をして、4月上旬に初めて会った。

3回目の食事で交際を申し込まれて

実際に会った宏人さんは頭の回転が速く、会話のキャッチボールもできる人のように感じた。

娘がいる絢子さんは今後、子どもを産むつもりがなかった。そこでアプリに「子どもはほしい」と記載していた宏人さんに、「私は子どもを望んでいないけど、どう考えてる?」と尋ねた。
すると「以前、結婚を考えていた彼女と付き合っていた時の検査で、自分の生殖機能に問題があることがわかった。だけど、相手の女性に子どもがいれば父親になれる」と宏人さんは、絢子さんの意向にも沿った返答をした。絢子さんは宏人さんの言葉に安堵し、「真剣に相手を探してるんだな、そこに噓はなさそうだな」と感じる一方、「話してて、こんなに楽しいのにどうして独身なんだろう」とも思ったという。

そして3回目の食事で、宏人さんから「付き合わないか?」と交際を申し込まれた。

「早すぎない?まだよく知らないよ」と困惑した絢子さん。仕事で証券を取り扱ったり、債務の差し押さえをしたりした経験があったため、交際するなら身元の確認をしたいと思い、「名刺をちょうだい」「運転免許証見せて」などのお願いをした。

しかし、宏人さんからは「なんでそんなに疑うの?」などとはぐらかされ、確認することはできなかった。それでも「すぐに手は出さないから」と言われため、絢子さんは宏人さんと付き合うことにした。

だが、その2週間後、絢子さんはひょんなことから「宏人さんは結婚しているのでは?」との疑念を持つようになる。

性行為は避妊なし「性病はない」と断言

初めて体の関係を持ったとき、避妊をしようとしなかった宏人さん。
説明は「自分は子どもができない体だから大丈夫」とのことだった。子どもはできないにしても……と不安を感じた絢子さんが「最後に女の子と遊んだのいつ? 性病ないよね?」と聞くと、宏人さんは「性病はない」と断言したのだ。

「おかしいと思いました」

自分の精子の状態に加えて、性病の有無をリアルタイムで把握している独身なんて、ほとんどいない。「現在進行形で不妊治療をしている可能性がある」と感じた絢子さんは、宏人さんに疑問をぶつけた。

すると宏人さんは、25歳から30歳までは結婚していたが現在は独身で、離婚の原因は自身の不妊と説明。そして自身の体について詳しいのは、不妊治療のために夫婦で通っていた病院に、今は1人で通院しているからだと話した。
絢子さんは宏人さんが通っているという病院に、パートナーがいない男性の不妊症も治療の対象か電話したが、明確な答えはもらえなかった。

絢子さんは宏人さんが、自宅に招かないことも気になっていたので、この点についても問い質した。

宏人さんによると、住んでいるのは知人が貸してくれた家。離婚後に交際した女性が事故で亡くなり、落ち込んでいた時に知人が世話を焼いてくれたのだという。そして、その家は知人の家の敷地内にある空き家のため、女性を中に入れることができないと説明された。

ただ、家の外観は実際に見せてくれたうえ、交際後、ようやく見せてくれた運転免許証の住所と、その家の所在地と町名や大字が一致。家に関する疑いは消えた。

既婚疑惑が再び浮上

それでも、モヤモヤした気持ちを抱えて過ごしていた絢子さんは5月下旬、「宏人さんは、やはり既婚者では」と再び思い始める。

2人で日帰り温泉に行った際に、宏人さんが道の駅で自家用車の充電を始めたのが、きっかけだった。その時に初めて、宏人さんの車が電気自動車の一種のプラグインハイブリッドカー(PHEV=電気自動車の一種)だと気づいたのだ。PHEVは自宅に専用の充電設備を工事などで設置する必要がある。借りている知人の家で果たして、そんなことができるのだろうか。宏人さんは、やはり別の場所に住んでいるのではないか――。

亡くなったという元交際相手についても、以前に聞いた話と矛盾する内容も度々あった。疑念を深めた絢子さんが後日、LINEで「あんた噓つきでしょ」などと問い詰めると、2人の関係は一気に悪化していった。

電話の時間や趣味のDIYにも違和感

思い起こせば、小さな違和感はたくさんあった。

◆宏人さんは「早く寝るから夜の電話は無理」と頻繁に言っていた。それなのに深夜12時ごろに「スポーツジム帰り」と外出先から電話してくることもあった。自宅にいる時に電話が掛かってきたことは、一度くらい。
◆飲酒運転のような犯罪をするタイプではないのに「よく飲みに行く」と案内されたエリアは、「住んでいる」とされる家からは車でしか行けない距離。
◆仮住まいの知人の家を改造したり、修繕したりするのも常識的には考えられないのに「趣味はDIY」と話していた。
◆大学時代から栃木に住み「5年前から独身」のはずなのに、宏人さんの仮住まいの近くのラブホテル事情に詳しかった。

「色んなことの辻褄が合わなくなっていったんです。本当は違う場所に住んでいるんじゃないか、それに結婚していて奥さんがいるのではないかと強く思うようになりました」

6月半ばに会ったのを最後に、宏人さんは絢子さんと会うことを「忙しい」と断るようになり、2人の交際は7月に終わった。

絢子さんは、宏人さんが不妊治療で通っているという病院に再び電話し、「男性が1人で受診できるか」に焦点を絞って尋ねると、「うちの病院は顕微授精の専門。夫婦でしか通うことはできないし、今すぐ子どもを望んでいる人しか受け入れていません」との答えだった。

やはり既婚者に騙された――。

これまで小さな違和感を積み上げてきた絢子さんの疑いのレベルは、最高潮に達した。

赤字でも「懲らしめたい」弁護士に相談

「もし既婚者だとしたら、性欲解消のため。ここまで騙すってひどくない?訴えた方がいいよ」

友人にそう言われて、絢子さんは弁護士に相談。
着手金が15万円かかることから、弁護士からは「相手の対応次第では、赤字になるかもしれない」と言われた。それでも絢子さんは「本人は火遊び程度の認識だろうから、懲らしめたい」と民事で解決金を請求することを決意した。

ただ、宏人さんに見せられた運転免許証に載っていた住所は実在しなかった。おそらく免許証は偽造されたものだったのだろう。そのため住所の特定は難航したが、住宅地図を調べたり、自ら宏人さんの車を探し出してナンバーを控えたり、新聞の「おくやみ」欄で親族の葬儀の情報を見つけたりして、「よく飲みに行く」と話していたエリアから徒歩10分程度のところにある実家に住んでいることを特定。
その住所宛てに絢子さんは弁護士を通じて、貞操権の侵害に基づく解決金200万円を請求する内容証明郵便を9月に送付。すると翌々日に200万円が支払われたという。

後日、作成した合意書や直筆の手紙などで、宏人さんは独身と偽って絢子さんと交際をしていたことを認め、謝罪した。

絢子さんは最後にこう話した。「お金が支払われても、こんなにも馬鹿にされて悔しいし、許せない気持ち。彼の被害者って私だけじゃないはずで、泣き寝入りをした女の子もいっぱいいるはず。だから余計に許せなかったですね。気持ちを踏みにじったことを反省してほしい。弁護士に相談するのも慣れていないとハードルが高いし、“貞操権侵害”を知らない人も多い。独身偽装に刑事罰を科したり、慰謝料の相場が高くなったりすれば、被害は減るでしょうが……」

彼氏が既婚者だと発覚したら?法的措置や証拠集めを独身偽装に詳しい元探偵が解説 婚活アプリで知り合った“独身”男性は実は妻子持ち。騙された40歳女性「泣き寝入りはしたくない」
1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
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