●独身偽装#1

彼氏が既婚だった!独身と騙されてたら貞操権侵害になる?慰謝料の相場や費用など弁護士が解説

結婚しているにも関わらず独身を装い、真剣に婚活している人と交際する「独身偽装」の被害が後を絶ちません。特に男性が既婚を隠す場合が多いよう。ただ、未婚だと偽られて肉体関係を持った場合は、貞操権の侵害で男性側に慰謝料を請求することができます。男女問題に詳しいフラクタル法律事務所の田村勇人弁護士に聞きました。

独身と偽られて関係を持ったら、貞操権侵害で訴えられる

独身だと思って交際をしていた相手が実は既婚者だった場合、民法709条、710条(不法行為)に基づいて損害賠償を請求することができます。
侵害された権利は、性的な関係を結ぶ相手を自分で選ぶ「貞操権」。客観的事実として、①相手が既婚者であること②既婚である事実を隠していたこと③肉体関係を持ったことが、要件になります。

「既婚である事実を隠していたこと」の立証は、婚活アプリだとしやすい

②の「既婚である事実を隠していた」というのは、「言うべき状況があるにも関わらず、言わなかった」ということです。
結婚相手を探すことを前提とした真剣な婚活アプリには、利用規約の中に、「利用資格は独身の方」などと記されていることが多い。つまり、規約に同意している時点で、「自分は既婚者ではない」と申告していることになり、利用者は当然、相手が独身であることを期待して利用していることになるのです。男性が「実は既婚者なんです」と伝えない限りは、既婚を隠していたという認定になります。

ここで重要になるのが、出会ったのが“真剣な出会いを探す婚活アプリ”であるということ。結婚相手を探すことを前提にしたアプリで知り合ったと立証できれば、結婚について話し合っていなくても、騙した/騙されたことが認定されやすくなります。
さらに「1年後に結婚しよう」など結婚の話を具体的にしていた場合は 、詐術が認定できるうえ、他の行為と相まって相手に期待させた程度が大きい場合は、慰謝料も増額します。ただ、結婚を前提としているといった話をしていなくても、真剣な婚活アプリで知り合っていれば、結婚につながる交際を希望していることは当然の前提となる。将来を見据えた付き合いであることを男性側が認識しうる状況であるにも関わらず、既婚の事実を隠して肉体関係を持ったことになるので、貞操権の侵害にあたる可能性が高いのです。

ですから、婚活アプリというのは身を守るためには非常に有効です。例えばセフレ・愛人募集、パパ活募集などのマッチングアプリで出会った場合は、相手が既婚者であることも想定の範囲内になり、「既婚である事実を隠した」と立証することが難しくなります。合コンや飲み屋で出会って交際をした場合についても同様。「独身だよ」という趣旨を男性が話していたことを、LINEのやりとりや会話の録音などで“記録”していなければ貞操権侵害を立証することが難しくなります。

ただし、婚活アプリで出会った場合にも注意しなければならないことがあります。それは、真剣なアプリで出会ったことを証明しなければならないということ。そのために、アプリ上でのやりとりや、「結婚歴」「結婚に対する意思」などの相手のステータス(表示)を、スクリーンショットに撮り、後で証明できるようにしておきましょう。そもそも事前に疑いたくはないでしょうが、交際に発展してからアカウントを削除してしまう人もいる。手元に残しておくことが大事なのです。

貞操権侵害の慰謝料、示談金の相場

貞操権の侵害で損害賠償を請求した場合の慰謝料の相場は、50万~200万円程度となります。
1~2カ月で別れてしまった場合でも、既婚という事実を隠して交際し、肉体関係を持っていれば、慰謝料は取れます。ただ、期間が短ければその分、安くなります。例え肉体関係が1回しかなかったとしても、金額は下がりますが慰謝料は取れます。騙されて関係を持ったことは同じだからです。

女性が妊娠して初めて、男性が既婚者だったと知るような酷いケースも。その場合は妊娠・中絶だけで200万程度、貞操権侵害と併せて400万~500万円くらいの慰謝料になります。

貞操権侵害と不倫は裏表の関係、妻から訴えられる可能性も

ただ、実際には女性が、相手の妻に不倫で訴えられることを恐れて、示談にすることが多いです。貞操権侵害 で訴えを起こすと、男性の妻が不倫の事実を知ってしまうことがあります。すると、妻から不貞行為で女性が訴えられる可能性が出てきます。

貞操権侵害と不貞行為はいわば「表裏の関係」となっています。女性側が騙されていて、過失がなければ、貞操権侵害での慰謝料が取れ、不貞行為の慰謝料は支払い不要となります。一方で、女性側の過失がある場合は、貞操権侵害での慰謝料は取れず、不貞行為での慰謝料を払わなければならなくなります。つまり、女性が本当に騙されていたのかが焦点となるのです。

「この男性、既婚者なんじゃないかな」と女性が気づく機会があったとすれば、女性にも過失が認められる可能性も十分あります。例えば、決まった曜日にしか会えない、家に行ったことがない、多くの小学校の運動会が開催される「体育の日」や土日祝日に会えない――といった場合です。

ここで注意したいのが、男性が「女性に既婚だと告げていた」と後日、主張するケース。例えば既婚の事実を隠しながら、平日の夜に会う、年末年始には会わないといった交際を続けていた場合、男性側は「結婚してると伝えていたから、土日や年末年始は会っていなかった」と裁判で主張してくることもあります。しかも証拠として提出されたLINEのやりとりでは、実際に平日夜にしか会っていない。主張では「このような客観的事情からも男性は既婚だと告げていて、『それでもいい』と女性が言って関係が始まったことは明白である」と、なるわけです。男性の嘘が、客観的事情によって支えられてしまうんですね。女性は不利な立場になりやすいうえ、妻から不貞行為で訴えられると、弁護士費用だけで40万~50万円、負けた場合は総額で100万~200万円支払わなければならなくなる。こうしたリスクに怯えて裁判をためらう人が多いのです。

つまり、自身の貞操権侵害と、訴えられた不貞行為の二つの裁判を抱えないよう、「妻にバレない範囲で男性が払える金額」を支払ってもらう“示談”に追い込まれてしまう。証拠の強さや男性の支払い能力、妻から訴えられる可能性などによって、示談金の額は異なります。相場はありませんが、一般的には50万~200万円程度。

「妻にバレない範囲で50万円しか払えない」などと男性側から持ちかけられ、示談に応じざるを得ない場合でも、せめて「仮に妻に知られ、不貞行為で訴えられた場合は、男性が妻に対する慰謝料を支払う」と約束をさせるべきです。

貞操権侵害で訴える場合の弁護士費用

裁判する場合の弁護士費用は安くて30万円、一般には40万~50万円程度です。慰謝料の割合に応じた成功報酬が多いため、慰謝料が多くなれば、そのぶん弁護士費用も増えます。
もともと裁判をするつもりで弁護士に相談をして、相手とのやりとりの中で示談となった場合には、裁判の着手金(15万~20万円程度)が不要になります。

貞操権侵害で裁判をした場合の期間

貞操権侵害で男性を訴えて裁判になった場合、1審判決が出るまで1年程度。男性側に控訴された場合は、2審判決が出るまで、さらに半年程度かかる。
示談の場合は話し合いの内容によりますが、1カ月~半年程度が標準的です。

貞操権侵害で訴えれば妻に関係が知られる?

貞操権侵害で男性を訴えた場合、弁護士は書類の郵送先を、男性側の弁護士事務所や職場などにして、相手の妻や子どもには知られないように配慮します。ですから裁判をすれば必ず妻に知られてしまうわけではありません。
ただ、実際は男性自ら妻に話してしまうことが多いんですね。というのも、裁判になれば、弁護士費用や慰謝料など“まとまったお金”が必要になる。家庭によりますが、お金の管理を妻がしている場合は当然、説明が必要になります。この時「結婚してると知って関係を持ったのに、訴えられちゃった」と言う男性も本当に多い。
妻としては「夫は最低だ」と思いつつも、家計からお金が出ていくのは防ぎたい。子どもにかかる教育費のことなどを考えて、「女性を訴えることによって夫が慰謝料を払うことを避けたい」と考えるわけです。一番悪いことをした男性ではなく、女性同士が対立する構図は腑に落ちませんが、これが現実なのです。

既婚と知っても絶対にやってはいけないこと

男性が既婚者だと分かってからも交際を続けた場合は、女性が明確に不貞行為になります。いったん気持ちが入ってしまえば、離れるのは難しいかもしれませんが、関係を続けるのは絶対にNGです。既婚者である確証がまだ得られない場合、証拠を得たり、証拠集めをしたりするために接触するのは問題ないでしょう。

既婚の事実が分かり、憤慨して「妻にバラす」と男性に詰め寄ることも、やってはだめです。「妻にバラす」と言うだけで刑法の脅迫罪に該当したり、さらに金銭の要求が伴えば、恐喝罪に当たる可能性があります。また、「奥さんと別れないなら家に押しかける」と言ったり、昼夜問わず電話やLINEをしまくったりした場合、ストーカー規制法違反に問われる恐れもあります。

社会的地位を落とすために男性の勤務先に不倫の事実を言うということも、やってはいけません。名誉権やプライバシー権を侵害する不法行為に認定されてしまい20万~30万円の慰謝料を逆に支払わなければならなくなるかもしれません。「男性が不倫したことは、みんなが知るべき事実ではない」というのが裁判所の考え方。公共の利害に関係しない、私的な事実だから外に言いふらすのは正当性がない、というわけです。
騙された立場でとても理不尽に感じるかもれませんが、「私は騙されたからお金をください」と正当に権利を主張すること以外はやってはいけないんですね。

離婚調停中と言われた場合

既婚という事実を知った女性が「既婚なんでしょ?」と聞いた時、男性が「実は離婚調停中だから待ってほしい」というケースもあります。この場合、単に男性の言葉を信じただけでは、 女性側に過失が“有”とされてしまいう可能性が高いです。
調停申立書や離婚協議書を見せてもらい、写真やコピーをとらせてもらいましょう。「もう離婚する」と言われた場合も同様で、署名された離婚届を見せてもらわなければなりません 。証明できる具体的なものを見て、証拠として手元にとっておかなければならない。そうでなければ、女性にも過失があると裁判所は考えます。
実際に相談を受けていて感じるのは、男性の言葉を信じて調停申立書などを見せてもらっていない女性が本当に多いということ。信じたい気持ちは分かりますが、後に多額の慰謝料の支払いに追われるリスクがあること知っておいてほしいです。

自分を守るために相手を疑うことも必要

最近は様々なマッチングアプリの普及もあり、「交際した男性が既婚者だった」という相談が非常に増えています。
よくあるのは、セフレ探しなどのアプリで知り合って交際に発展するケース。女性は「相手も独身だろう」と、つい考えるようですが、男性は「セフレ探しなんだから、既婚だと言わなくていい」と思っているんです。既婚を告げるべきか否かの認識が男女で違うような出会いの場が増えている。このことが、トラブルが増えている一因だと感じています。
独身だと信じて交際した後に、既婚の事実を知れば傷つくでしょうし、時間も無駄になってしまう。弁護士に状況を説明したり、裁判をしたりするのにも、相当な労力がかかります。噓をつくような男性ですから、仮に女性側が強く抗議をしたら「不倫で妻から訴えるよ」と言ってくることも。ただでさえ騙されてひどい目に遭っているのに、慰謝料まで請求される可能性があると告げられる。すると、裁判で戦うこと自体を諦めてしまうことが多いんですね。そうなると、男性が同じようなことを繰り返し、被害者がどんどん増えてしまいます。避けるために大事なのはやはり証拠です。アプリ上のやり取りのスクショや「独身だよ」という会話の録音などが、無ければ裁判で戦うことができません。
せっかく素敵な人に出会ったのに「本当に独身だよね?」と何度も確認するのは憚られるかもしれません。でも、結婚することだけでなく、結婚してから幸せな生活を送ることがゴールだとするならば、「何度も聞いてきて鬱陶しいな」よりも「ごめんね、不安にさせたよね」と言ってくれる男性の方がいいですよね。自分の身を守り、時間を無駄にしないためにも、相手を疑ってかかることは必要だと私は考えます。

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●田村勇人弁護士のプロフィール
フラクタル法律事務所代表、第一東京弁護士会所属。男女問題、離婚問題を多く取り扱っている。YouTube「論破キング」やテレビ番組のコメンテーターなどメディア出演も多数。

1989年、東京生まれ。香川・滋賀で新聞記者、紙面編集者を経て、2020年3月からtelling,編集部。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。