本という贅沢。

なぜ不倫はなくならないのか。なぜ不倫は叩かれるのか。

毎週水曜日にお送りする、コラム「本という贅沢」。10月のテーマは満を持して(?)「不倫」です。男と女の永遠のテーマを考える1冊を、書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。

●本という贅沢。25

『不倫』(中野信子/文春新書)

女子の後輩から「さとゆみさんにちょっと相談したいことがあるんですが、お時間いただけますか?」と言われたら、8割がた不倫の相談です。
「え? なになに? 仕事辞めるの? 病気? 妊娠?」と聞いて、「違いますよー」と言われたら、10割の確率で不倫の相談です。
このクロージングまで1分。私も手馴れたもんですし、皆さんもたいがい不倫しすぎです。

「不倫の相談」の面白いところは、実際には「相談ごとが“ない”」ことにあります。
つまり、本人は「相談したい……」というていで話をするのですが、基本的には「不倫をしている」ことをカミングアウトすることが目的なので、アドバイスを求めていません。
カミングアウトしたい理由は人ぞれぞれですが、根底にあるのは、ちょっとした「優越感」だったりするのが面白いところです。
その証拠に、「相談ごと」のていをとっているのに、このカミングアウトにはそこはかとなく「ドヤ感」が漂います。
若い女子の場合、「あの人気の●●部長に見初められた私」というドヤ感。それほど若くもない女子の場合、「年齢は私の方が上なのに選ばれた私」というドヤ感。
“不倫というハードルを超えて選ばれました”感ある行為が、「自分は特別な存在である」という感覚を呼び覚ましてくれるのだと感じます。

最初は神妙な顔つきなのに、話しているうちにどんどん顔が輝いてくる女子たちを見ていると、ああ、そうだよな。こうやってメスのスイッチ(通称メスイッチ)を押されて幸せホルモン、オキシトシンが出るんだから、不倫ってなくならないよなーと思う。実際に、こじれてない不倫をしている女子たちは肌つやもいいものです。だいたい、綺麗になるしね。

と、体験的に「不倫って絶対なくならないよなー」とか「一夫一婦制って無理があるよなあ」と感じている私ですが、もっと人類学的に脳科学的に遺伝子学的に、「なぜ不倫はなくならないのか」を解説してくれた本が、こちらです。

不倫といえば、これまで私がずっと疑問に思っていたのが、どうしてみんなそこまでベッキー(をはじめとする不倫が発覚した人たち)を叩くの? ということでした。
不倫報道に対する、一般の人たちの反応って、私には異常な過剰反応に感じられたんですよね。「いや、ベッキーは、あなたのダンナに手を出したわけじゃないでしょうが」と、不思議に思っていたんです。
でも、この本を読んで、納得です。
なぜ私たちが、不倫に制裁を与えようとするか。この本では「生殖コストが高くなってる現在、フリーライダー(ただ乗り)して得しようとする人たちが妬ましく感じられるから」と解説されています。
なるほど! 妊娠、出産、育児のコストが劇的に高い日本において、そのコストを支払わずに恋愛やセックスだけを楽しむ人に対する「タダ乗り、抜け駆け、ゆるすまじ!」の精神が、あのバッシングにつながるというわけですね……。

不倫がうまくなる方法とか、不倫の悩みを解決する方法などは書かれていません。ですが、不倫のメカニズムを知ると「不倫相手に選ばれている自分が特別な存在であるわけではない」ということを突きつけられるので、ちょっとお熱を冷ましたい時などにも、この本は役立つのではないでしょうか。逆説的ですが。

  • とあるご縁で、私は著者の中野信子さんと東京湾にぷかぷか浮きながら、不倫談義をしたことがあるのですが。人生ではじめて女性に「抱かれたい」と思ったくらい、圧倒的な色気を持ってらっしゃる方でした。

それではまた来週水曜日に。

次回<「妻に興奮するなんて汚らわしい」に私たちは反論できるんだっけ?>はこちら

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。

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