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41歳で始めたマッチングアプリにモヤモヤした話

理想とする条件や好みの外見から相手を選べる婚活アプリ。41歳で使い始めた女性は、男性会員のプロフィールに書いてある“求める女性像”や、暗に示された“相手に望む年齢”などにモヤモヤしたそう。そのわけは?
バーで出会った男性に独身偽装されて「結婚」への憧れをなくした話

新しい出会いがほしい。酔った勢いでアプリを登録

コロナ禍以降、新たな出会いが激減した。夜ふらっと飲みに行けば、男女問わず多くの面白い出会いがあったのに、この2年間はお上に従って、もっぱら身近な友達とこじんまり飲みに行くか、家飲みばかりだ。

30代の長い時間をともに過ごしたパートナーとは成就せず、突入した40代。今さら絶対に結婚したい!という思いはない。ただ、人生を一緒に歩んでいけるパートナーは欲しいと思っている。

出会いが減ったという状況は友人たちも同じようで、飲んでいると毎回「出会いがない」という話になる。あるとき、30代の友人宅で部屋飲みをしていたところ、「まりえさんもマッチングアプリやりましょうよ!」と勧められた。

顔やプロフィールで出会う前から相手を判定し合うアプリの世界がどうも苦手で、それまでは敬遠していた。でも、その日はいい感じにアルコールが入っていたのもあり、「原稿のネタになるかもしれないし、やってみるか……」とついに登録してしまった。

日本で最も登録者数が多いというマッチングアプリに初めて登録したのは2021年5月。当時私は41歳。ノリノリでプロフィールを書き、身分証の審査も無事通過。
「まりえさん、登録から1週間が勝負ですよ!」と友人がアドバイスしてくれる。新規会員は男性たちに通知されるため、最初の1週間は「いいね」がもらいやすいらしい。あわよくば、いい人と出会えるかも!と次々に映し出される男性たちの顔やプロフィールをチェックする私。ちょっと前まで登録するのを嫌がっていたことはもうすっかり忘れている。

しかし、男性たちのプロフィールを見れば見るほど、私は心に「モヤモヤ」を募らせていくことになる。

画像はすべてGetty imagesより

「穏やかな人」ってどんな人ですか?

まず、私が気になったのは、好みの女性としてプロフィールに「穏やかな女性」と書いている男性が多いこと。もちろん、全員ではない。でも、一人二人ではなく、結構な割合で「穏やか」というワードを目にした。これはどういうことだろう? 世の男性はみんな疲れているのか? いや、別にいいのだ。好みはその人の自由だ。でも、何だろう。この、何とも言えない気持ち。

まず、私自身は決して「穏やか」ではないと自覚している。ヒステリーではないけれど、わりと喜怒哀楽の感情はハッキリしている方だ。対象からはじかれていることへのモヤモヤ。でも、「じゃあ穏やかな女性ってどんな人だろう?」と周りを見渡しても、特に東京で自分自身の力で生きていこうとしている女性に「穏やか」な人は皆無。どこにいるの?穏やかな女性。絶滅危惧種なのか?

気になったので、辞書を引いてみた。

「穏やか:心の平静や、それまで無事に過ごしてきた毎日の生活のリズムが乱されるような事が無い様子」(『新明解国語辞典』より)
恋人という立場で誰かと人生を共有することは、時に心の平静を失うし、生活のリズムが狂うことだってあるだろう。波風立てず自分の生活を守りたいなら、一人で生きていけばいい。

身近な男友達はどうなのかと好みを聞いてみると、一人は「僕はすっぴんの女性が好きです」と言う。おいおい、すっぴんに見えるその顔は、巧みに作り込まれた「ナチュラルメイク」だぞ!

さらに、こんな40代男性もいた。
「パン屋でアルバイトをしているような子がいいな」
ワッツ? 大学生とでも付き合いたいのですか?!
「そんな人、いませんよ」
かぶせるように、言ってしまった。一応断っておくけれど、パン屋でバイトをしている女性を否定しているわけではない。

身近な男性たちと話す中で、感じたことがある。男性は、いくつになってもピュアなのかもしれない、ということだ。男性が思い描く理想の女性はマリア像のようにやさしく、母性に満ち溢れ、なおかつ処女性も失っていない。一方、酸いも甘いも経験し尽くしてきた40代女性は、そのピュアな理想を押し付けられても、申し訳なさしかない。

40代以上でも子どもを持てる男性と、産めない女性

極めつけのモヤモヤは、プロフィールにある子どもに関する質問だった。

私が使っていたアプリには「どんなお相手を期待しますか?」という問いに、子どもに対する価値観の項目があり、「子どもは欲しくない」「子どもは欲しい」「わからない」「相手と相談して決める」という4つの選択肢がある。

私自身、子どもが欲しいと思った時期があり、30代は自分の体と真剣に向き合ってきた。婦人科に行き、ホルモン値も調べた。自分の遺伝子を残したいというよりは、好きな人との子どもが欲しかったのだ。33歳の時点でホルモン値がかなり低く、妊娠する力が弱いことが分かっていた。40歳に近づくにつれて、子どもを持たない人生に折り合いをつけてきた。

とはいえ、出産だけが子どもを持つ方法ではない。私は「相手と相談して決める」を選んだ。

このように、女性にとってはセンシティブでいろいろと考えながら選ぶであろうこの質問だが、男性たちの多くは「子どもが欲しい」を選んでいた。システムで私にピックアップされてくる男性はだいたい40代以上。中には50代、60代もいる。女性だったら出産は難しいとされる年齢の人たちが普通に「子供は欲しい」を選んでいることに、私は何とも言えない気持ちになった。
男性は確かに、相手次第では、50代、60代になっても子どもを持てる。でもそれは医学的なリスクが一般的に高くはないとされる30代前半までといった“若い女性”を選んだ場合の話だ。自分の年齢や、同世代の女性たちのことを考えて、「相手と相談して決める」を選ぶ優しさはないのか?

アプリという限定された空間とはいえ、女性の若さに価値を見出す男性たちに、「あなたはもう女として価値がないよ」と言われているような気持ちになってしまった。私が出会いを探すのは、ここじゃなかった。42歳の誕生日を前にスマホを機種変更し、それ以降、アプリは立ち上げていない。

私も20代の頃は、無意識であっても、それなりに若さを武器にしてきたはずだ。その後、仕事も恋愛もうまくいかず、もがいてきた30代があって、今、40代になった。その自分の人生に、悔いはない。もう一度、20代、30代をやり直したいとも思わない。一度きりで充分だ。

40代のいいところは、人生が恋愛や結婚だけでは成り立っていないことを、心から実感できるところだ。自分をご機嫌にできる趣味があり、好きな仕事があり、その対価で生きていく力も身に着けた。恋愛は大事だけど、人生を豊かにしてくれるスパイスの一つでしかない。

マッチングアプリの中の会ったこともない男性たちに、心をすり減らされる必要なんかない。リアルな場では、今の自分を認めてくれる人もいる、と切り替えられるのも、経験を積んできたからこその余裕かもしれない。

バーで出会った男性に独身偽装されて「結婚」への憧れをなくした話
ライター/株式会社ライフメディア代表。福岡県北九州市生まれ。雑誌、WEB、書籍でインタビュー記事を中心に取材・執筆。女性のハッピーを模索し、30代はライフワークとしてひたすらシングルマザーに密着していました。人生の決断を応援するメディア「わたしの決断物語」を運営中。
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