高尾美穂“ことばの処方箋 ”

【高尾美穂医師に聞く#4】最近よく耳にする「ミレーナ」とは?メリットは?費用は?副作用は?

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは子宮内避妊器具「ミレーナ(商品名)」。避妊目的はもちろん月経困難症の治療の選択肢のひとつとして、近年話題になることも多いようです。
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一度入れたら5年間、月経困難症にも有効

Q. 生理痛がひどく、友人からミレーナの装着を勧められました。どういうものなのでしょうか? 「出血がある」「痛い」という声も聞きます。どんなメリットや、逆に副作用があるのでしょうか。ピルとの違いや費用についても知りたいです。(37歳、会社員)

高尾美穂医師(以下、高尾): まず、「ミレーナ」とは商品名で、黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内システム(IUS: Intrauterine System)のことを指します。子宮の中に、縦1.5cmくらいの小さなT字型の器具を置いておくことで、継続して女性ホルモンを放出し、子宮内膜を薄くして受精や受精卵の着床を防ぐ効果があるんですね。避妊、及び月経困難症などへの効果は最長で約5年間続き、入れたままにしておくことができます。

もともとは妊娠を希望しない方に向けて自費診療の領域で使われ始めたミレーナですが、2014年に月経困難症や過多月経の治療での保険適用が開始されました。自費診療では約5〜7万円、保険診療では1万円ちょっとで使えるようになっています。ミレーナを装着すると、「生理が来ない」と表現される患者さんもいるくらい、出血量はかなり減ります。

ミレーナを入れるのは痛い?

──子宮内に装着する際や装着後に、痛みや出血がある人は多いのでしょうか。

高尾: みなさんがイメージするいわゆる「子宮の中」と、実際の子宮の場所には、かなりの乖離があると思います。女性器は、まず腟があってその先に子宮があります。検診などで、腟や子宮頸部という腟と子宮がつながる部分に器具や指が触れることはあっても、子宮の中までそれらを入れることはほとんどありません。

医師でさえ子宮の中に手を入れるのは、出産時に赤ちゃんを取り上げたあと胎盤がうまく出てこなかったときくらいなんです。そのくらい子宮の中というのは、普段は外から何かが入る場所ではないということですね。ですので、「子宮の中」と聞いて皆さんがイメージしているのが、実際には「腟の中」だったりするわけです。

子宮頸がん検診を受けるときに、器具がつんつんと当たって痛みを感じたことがある人がいるかもしれません。この感覚は、まさに子宮の入り口を触られている痛さですね。

ミレーナを入れるときは、例えるならボールペンの芯よりひとまわり太いくらいのサイズのストローのような器具を使います。この管の中からミレーナをすべらせて子宮の中に入れ、奥で傘のようにパッと広げて引っかけることで落ちてこないよう装着しているのです。

ですので、この細いストローを通すときに痛みを感じることが多いんですね。経腟分娩をしたことがあれば、過去に子宮口が広がる経験をしているのであまり痛みを感じないケースが多いです。帝王切開だった人も妊娠によって子宮口が多少柔らかく変化するので、出産経験がない人よりは痛みは少ないと思います。出産経験がない人がミレーナを入れるのは、やっぱり痛みを伴うことが多いですね。

ミレーナとピル、その違い

──月経困難症や避妊対策としてピルとミレーナがよく比べられますが、どのような違いがあるのでしょうか。

高尾: 低用量ピルは、女性ホルモンのエストロゲンと黄体ホルモンが両方入っている薬ですが、エストロゲンは体に投与すると血栓症のリスクを引き起こすことがあります。

ですので、まずは血栓症のリスク因子とされる「喫煙」「肥満」「高血圧」に当てはまる方にピルはおすすめしません。これらに当てはまらない場合でも、年齢が上がるほど血栓症のリスクは高まるので、低用量ピルは20〜30代の方におすすめと言えるでしょう。あとは、毎日飲み続ける必要があるので、飲み忘れることなく続けることが苦ではない人の方が向いていると思います。

対するミレーナは、ピルのように毎日ケアをする必要はありません。エストロゲンは含まれていないので血栓症のリスクがある方でも装着することができます。低用量ピルは1か月当たり保険適用で700円〜数千円とかかりますが、ミレーナは5年間入れたままにしておけて保険適応で1万円ちょっとですから、コスパもいいと言えるでしょう。装着時のハードルは高いですが、つけたあとの満足度が高い患者さんが多いですね。

ミレーナやピルを用いると出血量が劇的に減るので、どちらも子宮内膜症や、過多月経などの月経困難症の治療に用いられますが、注意すべきは、ミレーナはPMS(月経前症候群)には効果がありません。ピルはPMSにも効きますので、ここは違いがありますね。

──ミレーナの装着をおすすめしない方もいますか。

高尾: 出産未経験の人には不向きだと言われますが、そんなことはありません。挿入時の一時的な痛みはあるとは思いますが、本人の希望があれば装着することができます。

ミレーナの効果をしっかりと実感できる位置に装着できない可能性が高いという意味で、大きな子宮筋腫がある人は難しいケースがありますね。ご本人の希望でトライしてみることはできますが、医師とよく相談されることをおすすめします。

装着するまでに事前準備は必要?

──ミレーナを装着するまでと、装着後の大まかな受診スケジュールを教えていただけますか。

高尾: 私のクリニックでは、事前にミレーナを希望しますと言ってもらえれば、来院したその日に装着することができます。生理中は入れない方針のところもあるようですが、ガイドラインで決まっているわけではないので、生理のタイミングを計算せずに来てもらって大丈夫です。むしろ、生理中だと血液が流れているので、滑りがよくて入れやすいと考えている医師もいるくらいですね。

装着したあとは滑脱していないかを診る必要があるので、初回月経後、3か月後、(6か月後)、12 か月後に受診してもらうことになります。そのあとは年に一回のペースで診ていき、5年経過する前に新しいものに交換するという流れになります。

装着したあとは、大量の出血があった場合や、装着後数か月以降に生理の時期以外で出血が続いたとき、出血量の増加など出血のパターンが変化したときには来院してください。ほかにも、妊娠の疑いがある場合にはただちに受診してください。性交痛または性交後に出血や違和感があったとき、腹部膨満感や下腹部痛があるときにも医師の診察を受けることをおすすめします。

高尾美穂医師(撮影:岡田晃奈)

──ミレーナを装着しているということが周囲に知られると、「性に奔放な人」という目で見られるのでは、という声もあります……。

高尾: ピルを飲んでいる人や子宮頸がんの検査で異常を指摘された人にも、そういう印象を持つ時代がありましたよね。今でも、ミレーナに対してそうしたイメージを持つ人もいるかもしれませんが、まさに過渡期なのではないでしょうか。

実際、2021年に流通在庫数がグッと増えたというデータがあります。私のクリニックでも実際、ここ数年でミレーナを希望される患者さんが増えました。ミレーナがどういうものかが広く知られるようになり、選択する人が増えてきていることを現場でも実感しています。今後は、選択肢のひとつとして認知が進み、希望者もさらに増えていくのではないでしょうか。

(写真:Getty Images)

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医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。医師としてライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、女性の選択をサポート。テレビ出演やWEBマガジンでの連載、SNSでの発信の他、stand.fmで毎日配信している番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体と心にまつわるリスナーの多様な悩みに回答し、910万回再生を超える人気番組に。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。
編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。
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