高尾美穂“ことばの処方箋 ”

【高尾美穂医師に聞く#8】生理前に激しく落ち込む……PMSやPMDDに振り回されています。

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは「PMSとPMDD」。生理前に感情的に大きく揺さぶられる症状は、意外にも簡単に解決する可能性があるようです。
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Q. 生理前に激しく落ち込んだり、自責をしたり、イライラしてしまい、どうしても止められません。パートナーに迷惑をかけている自覚もあります。ネットで検索したら、PMSの他にPMDDという症状があると知りました。対策を知りたいです。(26歳、会社員)

高尾美穂医師(以下、高尾): PMS(月経前症候群)もPMDD(月経前不快気分障害)も生理前に起こる不調を指します。PMSは体にもメンタルにも不調が出るケースを指し、婦人科が得意とする領域。PMDDは特にメンタルに強く不調が出ている状態で、心療内科医や精神科医が専門とする分野というと、わかりやすいのではないかと思います。どちらも生理前に起こる症状で、生理が来ると改善するのが共通点です。

PMSもPMDDもホルモンの変動が関係していることは確かですが、不調をきたすメカニズムについては完全に解明されていません。どこかに異常があるというよりは、むしろ、ちゃんと排卵してきちんと生理が来るという正常な体の作用によって起きる不調ともいえます。

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PMS・PMDDの解決策は大きく2つ

──PMS、PMDDそれぞれの対策にはどういった方法を用いていますか。

高尾: 解決策は主に2つ。まずは、病院にかかってプロに相談することです。PMSもPMDDも何かの検査をして異常を指摘できるわけではありませんが、明確な診断基準があり、問診を通し総合的に判断して診断します。婦人科では低用量ピルや漢方を用いることが多いでしょう。心療内科や精神科では、抗うつ作用のある薬が処方されることもあります。

婦人科か、心療内科・精神科のどちらにかかっても大丈夫ですが、PMDDの可能性がある場合は、婦人科とメンタル系クリニックの両方で継続的に診てもらうことをおすすめします。

もうひとつの解決策はセルフケアです。実は、睡眠時間の確保や運動などの基本的な生活習慣がとても大切になってきます。特にイライラが強い人は、7〜8時間の睡眠を2週間ほど続けてみてほしいですね。

先にも述べたように、PMSやPMDDは体が正常に機能しているからこそ起こる不調でもあるので、体の働きに異常なところは見つからないことがほとんどです。症状が重くなる原因のひとつとしては生活習慣が安定していないことが考えられるんですよ。

生活習慣を見直したり変えたりするのは、なかなか取り組むのがおっくうかもしれませんが、病院にかかるのと並行して取り組めるといいですね。

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あなたが困っていれば病院にかかってOK

──メンタルのことで病院にかかるのは気が引けるという声もあります。受診するタイミングを見極めるポイントはありますか。

高尾: PMS・PMDDに限らず、生理や更年期でも同じ答えで、生活に支障が出ていればいつでも病院にかかってください。本人が困っているかどうかが、一番大切な診断基準ともいえます。ですので、個人の判断基準にはなってしまいますが、もう今は我慢しなくてはいけない時代ではないということは伝えたいですね。

例えば、特に何かがあったわけでもないのに涙が出るだとか、好きなことなのにできないという状況は、うつ病のサインの可能性もあります。生理が来たらラクになるかもしれませんが、それを毎月繰り返すのは負担が大きいのではないでしょうか。一度、クリニックで相談をして適切な処方をしてもらうことをおすすめします。

──毎月ある生理だからこそ、つい自分で対処しようとしてしまうのかもしれません。

高尾: 生理前にメンタル面での不調が強く出る方ほど、婦人科で低用量ピルをもらうことを考えてほしいと私は思います。PMSで婦人科にかかる患者さんのうち、70%弱が漢方薬を希望するというデータがあり、漢方が体に合う方もいます。

ですが、低用量ピルはきちんと種類を選んで使えばかなり効くんですよ。緊張感が強い、涙もろい、イライラする、うつっぽい、メンタルの不調が理由で起き上がれないなど、どの症状であっても、ピルを3か月服用したころには、症状が出なくなるか、かなり和らぐ可能性が高いです。本当に困っている方にはピルをすすめていますね。

35歳以上の低用量ピルの服用は注意したほうがいい、といわれた時代もありましたが、今は基準は改訂されています。ひとつ前の診療ガイドラインでは、40代は数値などをみながら気をつけて服用しましょうという内容でしたが、最新のガイドラインでは40代でも低用量ピルを飲むことで得られるメリットが大きい場合は続けましょう、という内容に変わっています。いずれも50歳まで継続できますので、体に合う方には心強い解決策になると思います。

今できることを少しずつ

高尾: 相談者さんは26歳とのことですが、20代は浮き沈みがいっぱいある世代でもありますよね。パートナーとの関係性もいろいろあるだろうし、仕事だってうまくいくことばかりじゃない。どちらかというとうまくいかないことの方が多いんじゃないかな。だから、今はそういう時期なんだと頭の片隅に置いておくことも必要かもしれない。

人生は、その過程を過ぎたあとに振り返って初めて「あのときはこうだったな」とわかるものでもありますよね。渦中にいるときは苦しくて、先のことは考えられないかもしれないけど、いつか振り返れるときが来るかもしれない。そのときに懐かしく感じられるよう、今できることを粛々と積み重ねていくことをおすすめしたいと思います。

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医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。医師としてライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、女性の選択をサポート。テレビ出演やWEBマガジンでの連載、SNSでの発信の他、stand.fmで毎日配信している番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体と心にまつわるリスナーの多様な悩みに回答し、910万回再生を超える人気番組に。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。
編集・ライター。ウェルネス&ビューティー、ライフスタイル、キャリア系などの複数媒体で副編集長職をつとめて独立。ウェブ編集者歴は12年以上。パーソナルカラー診断と顔診断を東京でおこなうイメージコンサルタントでもある。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。
生理の時間